給料ラブソディ
工事帽
給料ラブソディ
「あ、これやってみるか」
仕事中、資料を探していて目についたサイトには『ソースコードで年収計算!』とあった。
説明によると『あなたの本当の年収を知ろう! 転職で年収アップ!』らしい。
面白そうだ。どうせこの会社に居続けても、給料なんてほとんど上がらない。
この職場が悪いんだ。回ってくるコードは読みにくいし、似たような処理がいろんな所にあって、無駄にコードが膨らんでいる。それでいて、一度、手間をかけて整理してやったらリーダーが怒鳴り込んできた。
こんな職場にいてやる理由もない。
転職で給料が上がるなら、転職してやってもいい。
仕事で開いていたソースコードを登録して「年収を調べる」というボタンをクリックする。
「お、返ってきた」
ページに表示されている結果は『あなたの年収は550万です』。
やったぜ。今の年収は400万。150万も上がる。こんな給料の安い職場とはおさらばだ。
いや、まてよ。この結果を使えば、転職しなくても大丈夫なんじゃないか。これを渡して給料を上げさせれば。転職なんて面倒なことをしなくても。
よし、そうしよう。
給料を上げてくれるなら、このまま残ってやってもいい。万が一、給料を上げないなんて言い出したら、その時は辞めてやる。
俺ほどの人材を手放すはずもないけどな!
クビになった。
守秘義務違反だなんて、俺が何をしたっていうんだ。
リーダーだけじゃなく、普段は姿を見せない営業やお偉いさんまで集まって怒鳴りやがって。何を言ってるのかわからない。質の悪い酔っ払いの集団だ。
スマホでポチポチと転職サイトに職歴を登録する。
お、ここにも年収査定のボタンがあるな。登録した職歴で年収をシミュレーションしてくれるらしい。
俺の年収は550万だからいいんだけど、登録した職歴が使えるようだし、こっちでも見てみるか。
「さあ、いくらだ」
ページに表示されている結果は『あなたの年収は500万です』。
なんだよ。前に調べたときより50万も下がってる。
納得は出来ないが仕方ない。いつまでも無職というわけにもいかない。本当は550万だけど、500万の仕事に応募してやろうじゃないか。本当より安い仕事を選べば、簡単に就職できるんだろ。
落ちた。
なんだよ、上流設計って、俺が使うのは高級言語だっつーの。
上流だなんて気取りやがって。
あの会社はダメだな。プログラムってものを分かっていない。どうせすぐ潰れるんだろう。俺にはもっと相応しい会社があるはずだ。
おかしい。
何度応募しても落ちる。
仕方ないから、転職サイトのエージェントとかいうのに話しを聞いてみたら「あなたの職歴では500万は無理です」とか言い出しやがる。お前のとこのシミュレーションで500万って言ったんじゃないか。ウソつきが。
そして勧められた会社の求人票には年収350~450万と書かれていた。
まったく納得出来ないが、450万なら諦めもつく。貯金が尽きるまえに就職しなければヤバい。
その後も何社にも応募して、なんとか就職することが出来た。
俺の本当の年収は550万だっていうのに、どの会社も見る目がない。
機能変更だといってクソみたいなコードが回ってくる。
この処理も、あの処理もほとんど同じなのに別々に組んであって、コードの量だけが膨れ上がっている。似た処理ばかりあるせいで、どの機能で使っているコードなのか分からなくなる。
無駄なコードを全部削って作り直したいほどだ。
他のやつには無理でも、俺ならできる。なにしろ550万の技術を持ってるからな。
しかし、なんで俺の年収は300万しかないんだ?
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