2章-14

「今回はどれぐらい日数かかるの?」


「一直線に行けば三日程度で着くでしょう。魔物を探しながらですし、もう少しかかるかも知れませんが」


「そっか。せっかく落ち着けると思ったのに、また結構な旅になりそうだね」


「これも世界樹の為です。頑張りましょう!」


「はーい。あ、そうそう。ユレーナ今回頑張ってくれたから、ご褒美に何かあげたいんだけど何がいい?」


「え!ご褒美!?そんな…急に言われても…」


そりゃそうだよな。

いきなり何が欲しいか聞かれて答えられるのは小さい子供くらいのものだ。


「決まりました」


「は、早いね…それで何が欲しいの?」


「はい!ヨウ様との子供が欲し…」


「却下」


「なぜ!?何がいいか聞いておいてダメとか!」


「だって物じゃないもん。あ、そうだ剣とかどう?Aランク討伐に行くんだし、それなりの装備必要じゃない?」


「それはまぁその通りだと思いますが…それよりも私はヨウ様との子…」


「はい!決定!武具屋?鍛冶屋?どっちでもいいけど早速見に行こう!ねっ!」


「子供…」


ユレーナはぼそぼそとまだ何か言っているが無視だ無視。

まったくバカな事ばっかり言うんだから。


街中を歩いてみると、武具屋はすぐ見つかった。

中に入ると剣やら槍やら弓やら色んな武器が飾ってある。

ワゴンセールだろうか、無造作にいくつもナイフが置かれているスペースもあった。

なんか安そうな店だな…


「ユレーナ、一通り見てみようか?」


「はぁ…ですがここは低ランクハンター向けの店ですよ?」


「え!?そんなのあるの?それなら先に言ってよ…」


「ヨウ様が先に歩き出すので、てっきり心当たりがあるのかと思いました…すみません」


「いや、こっちこそごめん。素直にユレーナに聞いていれば良かったね。出ようか。」


店番の子に軽く礼をしながらそそくさと店を出て行く。

ろくに見もしないで帰る客って感じ悪いよね…


「それでユレーナ、高ランクハンター向けの店ってあるの?」


「もちろんです。前回は店の外から眺めるだけでした。かなり値が張りますが一級品を揃えていますよ」


「お金なら心配いらないよ。がっぽり稼がせてもらったからね!じゃあ案内してくれる?」


ユレーナは頷くと先導して歩き出した。

街の人混みは相変わらずなので、ユレーナが前を歩いてくれると人を避けないで済むから歩くのが楽だ。

さっき前を歩いたときにそれに気付いた。

いつもユレーナが前を歩いてくれてるから気にしてなかったけど、ユレーナって師匠思いの優しい娘だったんだなぁ。


途中、ハンターギルドの建物の前を通ったので、俺は完全に逆方向に行っていたみたいだ。

大通りは円状になってるから俺には全部同じ光景に見える。

高台に上がればなんとか分かるんだけどね。


しばらく歩いて路地に入ると職人通りの雰囲気が漂ってきた。

人とは違う、鍛冶特有の熱気も感じる。

やはり既製品じゃなくオーダーメイドになるのかな、と思った。

連なる店の一つにユレーナは入っていく。


ユレーナに続いて店に入ると、並んであるのは同じ剣や槍なのに、先程の店とは明らかに質が違った。

素人の俺にも分かるほどに。

飾られた綺麗な刀身の剣に近付いてみると、よく磨かれているのかキラキラと輝いている。


「じいさん、そいつは銀で出来た剣だ。対吸血鬼専用だから触るんじゃねぇぜ。人の穢れがついちまったら台無しだからよ」


慌てて手を引っ込め、声のした方を見ると、カウンターから筋肉隆々のスキンヘッドがこちらを睨んでいた。

ちゅ、忠告は素直に聞いた方がいいよね。

別にびびったわけじゃないぞ!


カウンターで、ユレーナとさっきのスキンヘッドが一振りの剣を挟んで会話している。

手持ち無沙汰なので、俺も近付いて話に参加してみた。


「ユレーナ、どう?いいのあった?」


「はい!ですが値が張るのでとてもじゃないですが手が出ません」


「なんだ、じいさんやっぱりパトロンか。金貨50枚くらい出してやんな。こいつは噂の神速のユレーナだろ?」


「ふっ、ご存知でしたか。神速のユレーナとは正に私のこと」


例の二つ名、噂になってるのか…

しかし金貨50枚って無茶苦茶高いな。

有り金全部もってかれちゃうじゃん。

ご褒美だから奮発するつもりだったけど、そこまでのものはちょっと無理だ。


「流石にその金額は払えないのぅ、有り金全部じゃわ。そんなにいい剣なのかの?」


「あったりまえだ!最高品質の玉鋼と魔導具素材のミスリルをふんだんに使ったロマンあふれる最高級品だからな。性能はともかく、この良さがわからねぇ奴に剣は売れねぇよ!」


え?性能はともかくってどういう事??

剣って性能で選ぶんじゃないの?


「おお!ヨウ様わかりますか!?ミスリルはマナを通しやすいので魔導具の素材として非常に価値があります。それをふんだんに使ったこの剣は、聖剣と言っても差し支えないでしょう!もしやこの剣を持てば魔法すら使えるようになるのでは…」


「ほぅ、そこに気付いたか。さすが神速のユレーナだ。あんたならもしかすると使えるかもしれねぇな」


あー、なんかわかった。

ロマンってそういうロマンね。

二人とも魔法オタクで意気投合しちゃってる感じなんだ…

まぁご褒美なんだし、本人が喜ぶものを買ってあげたいからなぁ。


「なんとか40枚くらいにまからんかのぅ。生活費が無くなってしまうわい」


「やはり欲しいか!?しかしその値段は無理な相談だ。嬢ちゃんに合わせて手直しもせにゃならんからな」


「ヨウ様、やはり無理ですよね…?」


やめて!そんな潤んだ目で見ないで!

小さい子におねだりされてる親の気持ちが分かる気がする…

なにこの罪悪感。

いや、無理だよ。金貨50枚は無理!


「なんとか45枚で頼む」


これが限界!

充分歩み寄った!

これでダメなら諦めて貰おう。

生活費が無くなるのはマジできついからね。

シルに頼るのは本当に最後の手段だ。


「ちっ、しかたねぇな。同志にはどうしても甘くなっちまう。じゃあ48枚で売ってやる。手直しするから嬢ちゃんはこっちにこい。じいさんは金の準備でもして待ってな」


口を開く間もなくユレーナがついていく。

ちょ、待てよ。

勝手に商談成立させないで!

財布!

中を確認してカウンターに金貨を積み上げていく。

いちまーい、にまーい、さんまーい…

うん、48枚はある。あるけど…

積み上がった金貨を一旦脇にどけ、残りのお金をジャラっと出して数える。

金貨2枚、銀貨4枚、銅貨11枚。

これが全財産になるのか。

さっきまでパンパンだった財布が萎れている。

財布も植物みたいに萎れることあるんだね…

新たな発見に遠い目をしてしまう。


どの位時間が経ったのか、ユレーナが戻ってきた。

納得したのか、顔がにやけている。

対して俺は確実に白髪が増えたはずだ。

あ、いやすでに全部白髪だったか。


「どんな具合じゃ?」


「はい!後は持ち手を作るだけなので、もうすぐ店主も来るでしょう」


「そっか。気に入る剣があってよかったじゃん。決闘は頑張ってくれたし、次の討伐もお願いするよ?」


「もちろんです!必ずやヨウ様を守り抜き、ご期待に沿います!ありがとうございます!」


こんな嬉しそうな顔見たら何にも言えないな。

喜んでくれたならそれが一番。


少しして店主が剣を持って奥から出てきた。


「待たせたな。ほれ、受け取れ」


「ありがとう!」


ユレーナのニヤニヤが止まらない。

ほんとに嬉しそうだ。

つられてこっちまで嬉しくなってしまう。

ほほえましく映ったのか店主が声をかけてきた。


「パトロンかと思ったけど違うみてぇだな。じいさんの孫か?」


「弟子です!」


「またすぐ…ややこしくなるしもう孫でいいじゃろう」


「そういうわけにいきません!私如きがヨウ様の孫などと恐れ多いことです!それに孫になってはこの先の計画が…」


「で、結局どっちなんだ?弟子でいいのか?でもじいさんは凄腕には見えんが…」


「ヨウ様を見た目で判断するなど愚かにも程がある。私にとっては神にも等しい。」


「そこまでか。じいさん本当は凄いんだな…それより神速のユレーナさんよ、その剣の名前はどうするんだオレの渾身の作品だ、名前がないと可哀想だぜ」


「名前…そうですね、悩む必要もない。聖剣ヨークラム!それがこの剣の名です!」


ブフー!

お茶飲んでなくてよかった…

なんでそこでヨークラムさんの名前が出てくるの!?

ややこしくなるよ!

シルとか絶対怒りそうじゃん?ヨークラムさん大好きだし。

剣と一緒するなー!とか言って。


「ほぉ、かの英雄の名を冠した剣か。オレの打ったロマンあふれる剣に相応しい名前だ!」


さすが同志なだけあって琴線は同じみたいだ。

ユレーナの言ってた冒険譚のおかげで、意外にヨークラムさん有名だから、ファンはもっといるかもしれない。

ただ目の前の老人(俺)がその人だとは思わないだろうな。


支払いを済ませ、店を出た。

一応アフターサービスもついているらしく、剣に何かあればいつでも来いとのことだった。

ユレーナの頬は緩みっぱなしで、片手はずっと剣を触っている。

ちなみに今まで使っていた剣は、先程の店で銀貨1枚で下取りしてもらった。


あとは旅に必要な物を買い込むだけだったので、少し疲れた俺は財布をユレーナに渡して一足先に宿に戻ることにした。

来た道を戻るだけだ、さすがに一人で帰れる。


寝不足だったせいもあるのか、部屋に戻って一息着くと、眠くなってきた。

ユレーナが帰るまで一眠りするかとベッドに横になる。


ふと目が覚めると辺りは真っ暗で、深夜と思われた。

隣のベッドではユレーナが剣を抱いて眠っている。

随分寝てしまったようだ。

喉も乾いたし、お腹も減っていたので、営業してるか分からないが一階に降りてみることにした。


階を降りるごとに騒ぐ声が大きくなってきたので、酒場は開いてそうだ。

一階に着くと泣いていたり怒っていたり、様々な酔い方をしている飲兵衛がいた。

ここにいる人、みんな今日スったのだろうか…

これって俺ヤバくない?

完全アウェイだよね?

降りてきた階段を再びそろーっと上がろうとするが肩を掴まれてしまった。


「じいさん、どこ行くつもりだ。今日の主役が顔もみせないなんてこたぁねぇよな?」


袋叩きにされることを予感した俺は、その手から逃れようとするが酔っ払いの力は強かった。

無理矢理酒場中央へ連行された。


「おおい!神速のユレーナ様の師匠が来てくだすったぜぇ!」


おおおおお!!!

と周辺の酔っ払いのたちが雄叫びをあげる。

なに!?なんなの!?


「師弟関係ってのはギルド長に聞いたぜ!よくもあんなすげーのを育ててくれたな!おかげで酒も満足に飲めやしねえ」


ひょえええーーー、やばいやばいやばい!

これボコられるやつや!

誰か助けて!

そうだ、マスター!

ってなんでマスター笑ってるの!

マスターもそっち側なの!?


「さぁ飲め!イヤだとは言わせねぇぜ!俺らから金巻き上げたんだからな!」


アルコールハラスメントですー!

しかも未成年相手に!って今はおじいちゃんだからそこはいいのか。

酒飲んで終わるなら飲んじゃおう。

グビグビ。


「やるな、じいさん!そう来なくっちゃいけねぇ!マスターもっと酒だ!」


そこからは荒くれ者だと思っていた酔っ払い達が陽気に肩に手を回して絡んでくる。

最初のような怖さは全くなくなった。

マスターを見ると忙しそうに動き回っていたが、目が合うと手を止めて両手を広げた。


どうです?いいお客達でしょう?


口に出さなくても、しっかりと俺に伝わった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る