2章-閑話1

side. ユレーナ


ヨウ様は子供がお好きのようだ。

ロイスの街ではスラムの子供に異常な関心を示し、施しを与えた。

スラムの子なんて何百と居るのに、たった5人に施しをして何になるのだろう?

は!まさかロリコ…いやいやまさかな。

私には分からないが、ヨウ様のことだ、何か考えがあるに違いない。

ただ私はもうちょっと積極的になった方がいいかも知れないな…


そんなことよりヨウ様の魔法はすごい。

魔物を全て一撃で倒すだけでなく、確実に魔石に変える事ができる。

しかもこれだけの威力がありながら、使っているのは生活魔法と同じ低級だと言うから驚きだ。


王都に来たのは三年ぶりだ。

前に来たのは十六歳の頃、まだハンターとして駆け出しだった私は、商隊の護衛任務で王都にやってきた。

あの頃は任務しか頭になくて、こうして王都の街中を歩くなんて考えもしなかった。


今回王都に来たのは世界樹再生という大目標があるが、その前にまず帰還魔法のために拠点を作る必要があった。

事前に話していたとおり、これは私の仕事。

同じBランクハンターとの決闘に勝利すること。

絶対に負けることは許されない。


決闘の日取りが決まった日、妙なギルド職員に絡まれたのでぶっ飛ばしておいた。

ヨウ様が卑怯な手など使うはずがないだろう。

疑っただけでも万死に値する。


決闘前夜、遂に付与魔法を掛けられることになった。

ヨウ様が呪文を唱え、私の体に魔法が流れ込んでくる。

信じられない、体が羽のように軽い。

しかしヨウ様はマナの量を間違えたらしく体が光っていた。

これでは当日目立ってしまうので更なる練習のため解除魔法まで受けられる事になった。

付与魔法に解除魔法、交互に私の体に入ってくると、次第に身体が火照ってきた。

なんという高揚感と充足感。

幼い頃から追い求めた魔法を一身に受け、私の体はどうにかなってしまったようだ。

幸福すぎて、途中から記憶が途切れている…


決闘当日はすごい観客の数だった。

これほどの人に立ち合いを見られるのは初めての経験だったが、ヨウ様に側にいてもらえるのだ、こんなに心強いことはない。

ヨウ様はこれだけの観客に見られているにも関わらず、終始落ち着いた様子で私を見ている。


試合直前に付与魔法を掛けてもらった。

昨日の練習で体が馴染んだのか、ヨウ様の魔法がすんなりと私の中に入って広がってゆく。

走り回りたい衝動を抑え、歩を進めてジローパに向き合う。

全く負ける気がしない、ここまで自信を持てた事は一度もない程に気力が漲っている。


開始の合図とともにジローパが打ち込んできた。

突き、袈裟、薙ぎ、蹴り、忙しい奴だ。

ジローパの連続攻撃は本来すごい速さで繰り出されているのだろう。

スタミナもあるらしく、なかなか攻撃の手が止まらない。

しかし、全て見える。

しばらく様子を見たが、ジローパの最高速度と思える連続攻撃はむしろ酷くゆっくりとした動作に見えたので、思わず笑ってしまった。


そんな時、ジローパが急に距離を取った。

もう疲れたの?

その距離、まだ私の間合いなんだけど?


「次はこちらの番だ。一撃で仕留める。神速のユレーナ…参る!」


木剣だから死ぬことはないだろう。

本気で飛び込み、本気で剣を振った。

ジローパが吹っ飛んでいったがそんな事どうでもいい。

自分でもびっくりするほどのスピードで、頭が追いつかない。

遅れてやってきた高揚感に支配され、ドクンドクンと心臓が鼓動を打つ度に身体が火照っていく。

こんなの初めて…


喜んでくれたのか、ヨウ様が駆け寄ってきてくれた。

心配そうな顔で私を見つめている。

ああ、幸せだ。


「ヨウ様…付与魔法、素晴らしいです…」

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