2章-4
「ただいまー」
あれからモクロには、明日の朝ここに出てくるからビックリしないように、とだけ伝えておいた。
そのまま帰還魔法を使ったから向こうで今どうなっているかは分からない。
「おかえり、ヨウ。想ってたより早く帰ってきたわね。ロイスには無事着いたの?」
さっき薬草畑に寄ってユレーナを置いてきたから、家に帰ってきたのは俺一人。
これまでの事をシルに報告していく。
モクロの事は伝えるべきかどうか迷ったけど、シルに隠し事はしたくないので全部話した。
「アンタまたバラしたの!?まぁその子を連れてこなかっただけ進歩したのかしら?それより魔石持ってるのならあたしに頂戴!」
呆れられたけど、思ったより怒られなかった。
もう諦められてるとかじゃないといいんだけど…
魔石はシルに渡した。
シルが物を欲しがるなんて珍しいからね。
これからは積極的に魔物倒していった方がいいかな。
シルにはお世話になりっぱなしなんだし。
朝、いつものように起こされる。
年寄りは早起きのはずなんだけど、どうにも起きられない。
やはり魂の若さは隠せないか、ふっ。
「口に出てるわよ、ヨウ。バカなこと言ってないでさっさとユレーナの所に行きなさい!」
もう、うるさいなぁ。わかってるし!
なんでもないやり取りが嬉しくもあり面倒くさくもあり。
いつものショルダーバッグを肩から掛けて、イメージを整える。
「それじゃ、行ってきまーす。」
「あ、待って!次は王都まで一気に行くの?予定だけは聞かせて頂戴!」
「ロイスから王都までは歩いて10日は掛かるそうだから、今日一日はロイスでのんびりするよ。なにかいい情報が聞けるかもしれないしね。」
「そうね、その方がいいんじゃない?急ぐ旅でもないんだし。世界樹再生に100年かかっても文句は言わないわ。」
それまでに俺死んじゃいますから!
寿命考えて!寿命!!
「うん、まぁ、ね。頑張るよ。じゃ、行ってきます。」
「はーい!行ってらっしゃい!」
薬草畑ではユレーナが待っていた。
昨日話し合って一日のんびりするって決めたときから、ついていくと言って聞かなかった。
護衛としては優秀なので願ったり叶ったりだけど、よかったのかな?
一応、アグーラさんとイレーナさんにも挨拶して、ロイスの街に跳ぶことになった。
「「うわっ!きゃっ!」」
ロイスの街に着いた瞬間、子供の短い悲鳴が聞こえた。
もちろん犯人は俺である。
「昨日ここに出るって話しただろう…」
「んなこと言ったってほんとに出てくるとは思わねーよ!まぁ昨日消えた時点でもしかしてとは思ったけどさ…」
モクロは顔を赤くしながら言い訳している。
みんなの手前、驚いて声出ちゃったのが恥ずかしかったんだな。
可愛いところあるじゃん。
「おい、おめーら!」
モクロが皆に声をかけると、子供達が集まって列を作った。
狭い袋小路だから二列になった5人。
せーのでぺこりとお辞儀をして、代表してモクロが恥ずかしそうにしゃべりだす。
「昨日は助かった、ありがとう。特に一番下のリリアは風邪がひどくなっててもうだめかと思ってたんだ。それが昨日の魔法、か?あれで苦しいのがなくなったみたいでさ。大人は信用しないって決めてるけど、ジジイだけは別だ。」
「おい、小僧!昨日もいったがヨウ様に対してその口の利き方はなんだ?」
いや、確かに口は悪いけど、子供にそんな威圧的な態度とっちゃだめだよ…
「そ、そうだね。お爺さんなのは本当なんだけど、ジジイは傷つくかな…何か別の呼び方ない?」
「じゃあねーちゃんが呼んでるし、オイラ達もヨウ様って呼ぶよ!それでさ、ヨウ様!昨日オイラ達話し合ったんだけど、ヨウ様のために働くことにしたんだ!」
「え?俺のために?なにするの?」
「いや、しらねーけど?」
「……、あー、うん。じゃあ取りあえず綺麗になろう。ユレーナ、悪いけど桶と布と石鹸を買ってきてくれない?この子達を綺麗にしよう。」
「桶と布と石鹸だけでいいのですか?…はっ!わかりました!すぐ、すぐに買ってきます。先に始めないでくださいね!?」
なんかすごい焦って行っちゃった。
確実に意図が伝わってるよね、あの反応。
この後魔法使うのやめたくなってきた…
ユレーナが買い物に行っている間に、この子達に説明しておこう。
「これから、君達を綺麗にします。そのあと古着屋とかの服屋に行って服を買うからね。そのままの格好じゃ働きにくいだろうし。それからお仕事をしてもらいます。」
そう説明が終わったと同時位にユレーナが戻ってきた。
嘘でしょ、早すぎる!
さすがのユレーナも息切れしているが、手にはしっかり桶、布、石鹸を持っている。
仕事はきっちり、そこは文句無しです。
「マイナーウォーター!」
桶に向けた指の先から水が噴出する。
もうちょっと勢いを弱めて…よし、これくらい…と調整をしながら水を張る。
これに買ってきた布を浸し石鹸をつけて、子供をゴジゴシ洗っていく。
もちろん髪の毛も同じ石鹸でガシガシ洗う。
すぐに水が真っ黒になるので、捨てては水を入れ捨てては水を入れの繰り返し。
洗い終わった子は風魔法ウインドで風乾。
磨かれた子供達は本来のツルツルテカテカ。
洗うときはちゃんとユレーナも手伝ってくれた。
魔法を使うときは視線が痛かったけど、この袋小路で叫ばれたら反響で大通りまで声が聞こえちゃいそうだから、我慢しただけでも偉い。
みんなビックリするほど細いから洗うときに折れないか心配したけど、取り越し苦労だった。
次は着るものだね!
「ヨウ様、この子達を連れてゾロゾロ歩くのは目立つので止めた方がいいですよ。」
なるほど、一理ある。
じゃあモクロにだけついてきてもらって、みんなの分をまとめ買いしちゃおう!
「ということでモクロ、古着屋はどこ?」
「子供用でいいんだよな?それならこっちだ。いつもリリアがその店の服を眺めてるんだ。」
子供でもやっぱり女子。
オシャレに興味があるんだ、いいね。
「よし。じゃあリリアも一緒にいくか!?」
と、声を掛けてみると顔を真っ赤にして何度も頷いている。
かわいい!
これはさらわれないように俺が守らないと!
他の子供達には留守番をお願いした。
路地から出て少し歩くと、軒下にいくつか服を吊している屋台があった。
平台にも結構な服が積まれている。
モクロとリリアに確認したら、その店で間違いないようだ。
「どうも、この子の服を買いたいのですが。」
「いらっしゃい!どうぞ見ていってください!」
店主はにこやかに対応してくれたが、モクロとリリアを見て、一瞬顔をしかめたのは残念だった。
まぁ今は襤褸を着ているから、どれだけ洗っても見た目はスラムのガキだろう。
服さえ変われば。
俺はギリッと歯を食いしばる。
「モクロ、リリア、好きなのを選びなさい。他の子の分も頼むよ。」
そう言って二人に場所を譲ったが、早々にモクロは飽きたようだ。
「オイラどれでもいいや、リリア、頼むわ。」
「もう、モクロったら!」
なんだよ、デートに来てるカップルかよ。
べ、別に妬いてるわけじゃないぞ。
相手は子供だからね!
ひとしきり服を見終わり、リリアがおずおずと俺に近づき、恥ずかしそうにもじもじしている。
「ん?決まったかい?」
リリアが頷いたので、店主と交渉する。
選んだ5着で会計を済まそうとしたが銀貨5枚もした。
結構高いなーと感じつつ、こんなものなのかと支払おうとすると、後ろからユレーナが手を差しだして止めた。
「店主、子供の服が1着銀貨1枚とは豪気な商売だな。」
店主はユレーナの存在に気付かなかったようで、目を見開いて驚いていた。
「ヨウ様をカモにしようとはいい度胸をしている。覚悟はできているのだろうな?」
「い、いや、滅相もない!いま、今から勉強させていただこうとしていたところです!旦那、銀貨2枚と銅貨5枚に勉強させてもらうよ!」
なんと一気に半額になった!
え、なに?ユレーナってこの街の元締めかなんかなの?
それに俺もしかしてぼったくられるところだったの!?
あぶねー!
無事支払いを済ませて、塒に帰ってきた。
道すがら恐る恐るユレーナに聞いたけど、別に元締めという訳ではなかった。
この街では衛兵が少ない変わりに、ハンターに街の管理を任せている部分があるらしい。
喧嘩や法外な値段での商売など問題が起きたときはハンターが出張るのだ。
ユレーナを見た店主が態度を一変させたのも、首から下げたプレートを見たからだろう。
「はい、じゃあ皆の服を買ってきたから、早速着替えてみてね!」
子供達が着替える間に、少しユレーナと相談する。
「ユレーナ、この子達に情報集めをお願いしようと思うんだけど、どうかな?」
「そうですね、子供ですから集められる情報はたかが知れていますが…まぁ足しにはなるでしょう。」
「最初からそこまで期待はしてないよ。ただ働くということを学んで欲しいと思って。今までは盗むとか奪うとか、そういう暮らしでしょ?」
「それはスラムの子からすれば当たり前の事なのですよ。以前にも言いましたが、頼る事を覚えた子は…」
「ここでは生きていけない、だよね?言ってることは分かるけどね。頼るなら、とことん頼られてやろうじゃない。このままモクロ達を放っておくことはできない。」
「まぁヨウ様がそう仰るのでしたら私は従うまでです。」
「ありがとう、ユレーナ」
話がまとまる頃、子供達の着替えも終わったようだ。
うん、みんなどこから見ても普通の子供だ!
ちょっと、というか大分痩せてはいるけど…
しっかり食べさせないと!
「よし、じゃあこれから仕事の説明をするよ。」
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