1章-5

「お爺さんってイレーナが言うからどんなかと思ったら本当にお爺さんですね…どうも店主のアグーラです。回復ポーションの作り方を知りたいそうですね?」


店主の男はアグーラというらしい。目の下に隈が出来ているが訝しげな目でこちらを伺っている。寝不足なのかな?声も覇気がなく、体調はよくなさそうに見える。口調からしてお姉さんは妻か娘かな。見た目の年の差を考えると娘が無難な線だけど、異世界といえば年の差婚ってイメージがあるからなー。

まぁこの2人の関係は置いておいて、ポーションの作り方は特に興味ないんだけど…


「はじめまして、ヨウといいます。作り方というか原材料だけでも見せていただければと思ったのです。私は植物の研究をしているので、まだ見ぬ薬草はないかと探しています。」


「なんだ、あいつ等の仲間ってわけじゃないのか?それでしたらどうぞ。さすがに調合しているところはお見せできませんが。」


おお、やった!!心の中でガッツポーズ!

これで異世界植物が見れる、触れる!ちょっとくらい味見できるかな?

シルがジト目で見てる気がするけど姿が見えないから気にしない!

でも「あいつら」ってだれだろう?敵対組織?実はここはレジスタンスの隠れ家で権力と戦っている!なんてことはなさそうだよね、アグーラさんほっそりして戦闘向きじゃないし。やつれてるって言ってもいいかもしれない。

奥に移動する間もイレーナさんが歩くのをサポートしていたし。


「ここで回復ポーションの調合と精製をしています。基本わたし一人で作業をおこなっています。魔導具があれば魔法ポーションも作れるのですが無い物ねだりしても仕方ありません」


「魔法ポーション??」


「おや?ご存知ないですか?液体術式を組み込んだ魔導具を使用してポーションを作るのですが、それは材料は同じでも即効性、効果ともに大きくあがります。まぁ、値段もその分跳ね上がるのですが。」


「すみません、知りませんでした。その魔導具は高価なものなのですか?」


「そうですね、今では金貨30枚程で買えれば安い方というところです。とてもじゃないですが手がでませんね。燃料に魔石も必要ですし。ちなみに回復ポーションは銅貨5枚程度で売られていますが、魔法ポーションは銀貨3枚もします」


そんなに差があったのか…

でも即効性、効果がそこまで違うなら値段に差が付くのも頷ける。

例えば魔物と戦うハンターなんて、即効性がないと意味がないわけで。


「それより一度作るところをお見せしましょうか?」


「おお、おねがいできますか!?」


アグーラさんは机に近づき作業をしながら説明をしてくれた。


「たいていの回復ポーションは、薬草数種類を混ぜています。絶対必要なのはギモヨとミダクドですね。他はその店ごとに処理方法や配合量を変えて独自性を出しています。ただポーション自体それ程効果があるわけではありません。魔法や魔法ポーションと比べるとどうしても即効性に欠けますし回復量も微々たるものです。」


乾燥が未熟な薬草を見ながら考える。

この葉の形はヨモギだよね?こっちのはヤマイモ…って、ん?

ギモヨ…ヨモギ?

ミダクド…ドクダミ?

逆さ文字じゃん!!!

ってこっちドクダミじゃないよ!同じ様な形の葉だけど、これユウガオの葉だよ!

本職の人が間違うってどういうこと!?

そんなに薬学が未熟なのかこの世界!

あ、確かに魔法が使えればポーションはいらないか。回復ポーションが作られるようになったのは魔法禁止令が出てからということになる。

じゃあかなり歴史は浅い。ポーション屋さんは手探りで大変だったろうな…


「あ、あの、これドクダミ…じゃなかった、ミダクドじゃないと思うんですが…」


せっかく教えてもらっていて指摘するのは勇気がいる。

しかしこのままスルーすることはできない!

まちがったままなんて植物に対する冒涜だ!

どうか怒られませんように。


「え?これはミダクドですよね?」


「いえいえ、これはユウガオの葉だと思います。確かに葉の形は同じ様なハート型ではありますが…これはユウガオですね、近くに大きな実がなっていませんでしたか?」


「ああ、裏に薬草畑があってそこで栽培していて、確かに大きい実がなります。おいしいんですが…ってほんとにこれはミダクドではなかったのですか!?」


「残念ながら…それにミダクドの根は乾燥させると薬になりますが、乾燥が不完全な状態だと薬効がほぼありません。それに葉は薬というより独特の風味はありますが、お茶として飲む方が良い効能が得られるでしょう。」


それから俺がドクダミとユウガオの違いについて話し、それぞれの効能や取り扱いについて知っていることを伝えていく。

ようやく納得してくれた所で、客に毒を出してしまったのではと絶望していたアグーラさんに生気が戻っていく。。

途中からはイレーナさんも参戦して元気づけていた。

ここで判明、イレーナさんは奥さんではなく娘でした。

お茶も入れてもらい、一息ついてようやく落ち着きを取り戻したアグーラさん。


「私は父から薬草について学んでいたのですが、父は流行病で早くに死んでしまったため、記憶を頼りにレシピを再現していたのです。

間違いを指摘していただきありがとうございました。まだ間違いがあるかもしれません、ヨウ様さえ良ければ裏の薬草畑も見ていただけないでしょうか?」


フォー!薬草畑キター!!

さっきちらっと聞いて是非とも見たかったけど

まさか向こうから飛び込んでくるなんて!

いやー俺って植物に愛されてるね!


「是非拝見させてください!」


そして店の奥、突き当たりのドアを開けるとそこにはこじんまりした畑があった。

スーハースーハー、たまらない。

あまり元気じゃないのか匂いはいまいちだが、立派な植物たち!

薬草畑というだけあってぱっと見色んな種類があるのが分かる。

そして見えてくる問題点。


「なんだか植物の元気がないですね。ここの世話もアグーラさんおひとりでされているのですか?」


「いえ、ここはイレーナに任せています。正直私は体力的に調合や精製しかできない状況でして…」


「お父さんは無理し過ぎよ、私が調合くらいはやるって言っても聞かないんだから。それでヨウ様、植物の元気がないというのは??」


おおぅ、植物が元気かどうかも分からず世話をしていたのか…パッと見てわかるだろうに。

水を向けられた手前言うけど怒らないで聞いてほしいと思う。


「ここは陽当たりがそんなに良くないので、もともと植物も生育しにくい環境です。ですが肥料や手入れをする事で植物が元気に育ちます。もともと薬草になる植物は生命力が強いので少し手を加えるだけで見違えるほど元気になってくれますよ。そうすれば薬効だってあがりますしね。」


「ええっ!私、毎日水をあげたり雑草抜いたりお世話ちゃんとしてますよ!」


イレーナさんがちょっと頬を膨らませた。

かわいいです。

うん、そこじゃない。あ、シル、こっそり髪を引っ張らないで。

取りあえず薬草栽培の基本を伝えた。

薬草種は基本、水をあげすぎちゃいけない。

地植えの場合は降る雨にまかせて放置でもいいくらいだ、あとは土の改良だね。

ここの土はさらさらしてる、いや、し過ぎている。

ただ、元の世界と植物の名前が超似てるからって植生まで同じとは限らない。なぜならこの畑、謎な事にイチヤクソウまで生えている。枯れかけてはいるが。イチヤクソウは腐生植物だぞ。奇跡的に菌が定着しているのか?だめだ、気になって仕方ない。


「勝手なお願いなのは分かっていますが、この畑の改良のお手伝いをさせて頂けないでしょうか?ここの植生はとても興味があります。お仕事の邪魔にならないようにします、少しの間でいいのです」


拝み倒す。

元の世界では見れなかった組み合わせの光景。なんとしてもお世話したい!


「か弱い老人の最後の頼みだと思って、お願いします!」


アグーラさんとイレーナさんはしばらく二人で会話した後、なんとも微妙な顔でこちらに向き直った。

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