皆にはナイショだけどヤってそう

八乃前 陣

第1話 また今度、一緒に 出かける?

 ある春の日の、放課後。

「あれ、上泉(かみいずみ)くん?」

 と、デパートのオモチャ売り場で学ラン少年に声をかけたのは、同じ高校のセーラー女子だった。

「あれ、折原(おりはら)じゃん。なんでここ?」

「いやそれ 私が訊いてるんだけど」

 同じ県立高校に通う「上泉颯太(かみいずみ そうた)」と「折原早苗(おりはら さなえ)」は、二年B組のクラスメイトだ。

 一年生の時は違うクラスだったけれど、颯太の友達と早苗の友達が幼馴染み同士で、いつしか四人で一緒に出掛けるようになっていた。

 平均よりも、身長も成績も上位な颯太は、ショートカットがサラサラで、爽やかな印象の男子。

 身長的には平均な早苗は、可愛く清楚な印象の、黒髪セミロングな美少女。

 四人はなんとなく気が合って、それぞれの友達がドコに行こうとか誘ってくれて、日曜などは楽しく過ごしている。

 二年に進級して四人が同じクラスになった時は、帰りにジュースで乾杯したり。

「ここ、お人形さんのコーナーだよね? 上泉くん、そーゆー趣味ぃ?」

 からかう感じでニヤニヤする早苗に、今さら突っ込むリアクションでもない颯太だ。

「オレの姉貴がさ、今日は忙しいから代わりに買ってこいって うるさくてさ」

 と言いながら、一般販売されているジェニナちゃん人形を指さす。

 颯太の姉は女子大生で、無駄にアクティブで、車やドールやスキーや映画鑑賞やB級グルメや釣りやボルダリングや読書など、多趣味なうえ一貫性がない。

「え、お人形さんって、ネットとかで買えるんじゃない?」

「なんか、このお店の限定が出るんだって。知り合いの店員さんが取り置きしてくれてるからって、オレが受け取りに来させられたんだ」

「へー」

 レジに向かう前に、特に興味もなく着せ替え人形や動物のフィギュアをなんとなく眺めていたら、早苗に声を掛けられた。

 というタイミングだった。

「っていうか、折原は何してんの?」

」夕食の買い物ー」

 見ると、学校指定のカバンと一緒に、食材が入った買い物袋を下げている。

 同じデパートの地下で買ってきたらしい。

「ついでに単三電池も 買ってこーかと思って」

 それで、五階のおもちゃ売り場まで上がってきたらしい。

「…それ、持とうか?」

「おー紳士じゃーん」

 子供の頃とか、よく姉の買い物に付き合わされて荷物持ちをさせられていた颯太は、自然とそんな気遣いをしてしまう性格でもあった。

「でも上泉くん、お姉さんの買い物 あるんでしょ?」

「いいよ。そっちはカバンに突っ込むから」

「あはは、箱とか潰れて お姉さんに怒られるんじゃない?」

 言いながら、差し出された少年の掌に、買い物袋を預けた早苗だ。


「何か飲んでく?」

 買い物を済ませた颯太が、駅前のファストフード店に、早苗を誘う。

「んーでも私、今月ピンチでして」

「奢るよ。姉貴からおつりは駄賃だって 貰ってるし」

「豪勢ですねー。それじゃあ遠慮なく」

 おつりと言っても数百円だけど、何か飲みたい颯太であった。

 少年はアイスコーヒーを、少女はストロベリーシェイクを手に、駅前の腰かけに並んで座る。

「んー…いちごシェイク美味しー♪」

「女子って甘いの 好きだよなー」

「男子は大人ぶるの 好きっぽいよね」

「そうか?」

「女子視点では」

「そっか」

 何だかいつもだけど、こういうことを言われても、早苗だとカチンとか、来ない気がする。

「折原ってさー、一年の時もこういう買い物 よくしてたよな」

「まー、ウチは共働きだし、弟いるし」

「ああ、今年小六だっけ?」

「へー 覚えてたんだ、護の事」

「一度会ったっけ? 一年の夏休みに」

「よしよし、よく覚えてますねー」

「頭なでるな」

 そんな他愛もない会話をして。

「私、そろそ帰らなきゃ」

「じゃオレも」

 二人で電車に乗って、帰路に就く。

「今日の宿題、メンドーだよなー」

「英語の中本先生、すぐ宿題だすもんねー」

 そんな話をしていて、颯太はフと思う。

「あれ…オレたちだけでツルんでるの、初めてだよな?」

「んー? あーそうかも」


 早苗の最寄り駅に電車が着いて、ドアが開く。

 買い物袋を受け取って、早苗が下車した。

「それじゃ、また明日。ジュース ごちでしたー」

「んー…あのさ」

「んー?」

「また今度、一緒に 出かける?」

 なんだか慌てて誘った翔太に、早苗は僅かに間を置いて。

「んー了解~」

 笑顔でバイバイと手を振る早苗に、颯太も手を振って、電車が走り出した。


                         ~第一話 終わり~

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