二人の聖女から選べと申すか!!!!

霜花 桔梗

第1話 隕石!?


 僕は図書委員をしていた。


 活動は簡単なものであった。


 退屈な日々は平和そのものである。


 しかし、今日は違う。


 街で一番高いタワーマンションに隕石が落ちたのだ。


 図書室もその話題で持ちきりであった。


 隕石は宇宙人の乗物だとか世界のことわりの終わりとかである。


 混乱した学内は臨時休校となり噂が噂を呼んだ。


 僕も帰ろうとしていると、司書さんから校長室に本の配達を頼まれる。


 五階にある図書室を出た僕は校長室に向かう。


 渡された本はマルクスの自伝であった。


「失礼いたします」


 静かに校長室のドアを開けると二人の女子生徒がいた。


 紅い髪と蒼い髪の少女二人であった。


 見かけないな……。


 本を置き帰ろうとしていると。


「君、図書委員かね?」


 校長先生が尋ねとくる。


「えぇ……」

「丁度いい、この二人を図書室で面倒見てくれないかな?」


 僕に断る暇は無かった。


「よろしく……」


 蒼い髪の少女が言葉を放つ。紅い髪の少女は不思議そうにこちらを見ている。


「こちらがレイでこっちの方がミチルだ」


蒼い方がレイで紅い方がミチルと……僕が復唱していると。


「スケベ……」


 はい?ミチルからなにやら不穏な言葉が聞こえる。


 確かにその胸は大きく制服の上からでも目立つ。


「ミチル、名前も知らない人に言うのは失礼です」


 レイが静かに言う。


 おっと、僕の名前を紹介していなかった。


「僕は『岩宮 翔太』です」

「えーショタ?」


 ミチルの言葉に僕のかけている眼鏡がズルっと傾く。


 ま、実年齢より若くは見られるが『ショタ』酷い。


「わかりました、ショタさんですね」


 レイまでショタと言い出すのであった


 僕は頭に手を持っていきカリカリとする。


 しばしの間が空くが二人の意見は変わらないのであった。


 ふ~もう、翔太ではなくて『ショタ』でいいや。


 そうだった、今日はもう休校であった。


 僕が帰ろうとしていると。


「わたし達は図書室に住む事になりました」


 その言葉に特別を感じるが口には出せないでいた。


 僕の家がもう少し大きければ二人と一緒に……。


 そう、僕の家は団地であった。


 部屋は狭く二段ベッドで姉貴と一緒である。


 あーせっかく、女子が家に転がり込むシュエ—ションなのに……。


 僕はトボトボと帰路についていた。


 街で一番高いタワーマンションが見える。


 物語が始まったのなら、美少女達が転がり込むのが普通である。


 僕は貧困を呪った。


 団地に着くとドアの鍵を回す。


 この時間は誰もいない。


 両親の共働きに姉貴もバイトである。


 僕も16になったら働かなければ。


 あと、数ヶ月の執行猶予である。


 自室に戻ると部屋の真ん中に二段ベッドがある。


 左側が姉貴、右側が僕のスペースだ。


 机や本棚、タンスを置くと一畳ほどが残る。


 このスペースが自由に使えるのだ。


 僕は半分だけの窓の外を見つめる。


 丁度、街で一番高いタワーマンシが見える。あのタワーマンションに住みたいものだ。


 と、妄想をしていると。


 あぁ……小論文の課題がでていた。


 僕は机に向かい資料を広げて小論文を書く。


 大学は行きたい……夜間は確定なのかもしれない。


 うん?ガタガタと音がする。


 姉貴が帰ってきたらしい。


 今日の夕食当番は姉貴であった。


 姉貴はチャーハンを手早く作る。


 残っていた冷凍ギョーザを焼き。スープを作る。


 今日は中華らしい。


「翔太も食べる?」

「うん」


 ……。


 最小限の会話が続くが僕はどうしても確かめたい事があった。


 街で一番高いタワーマンションに落ちた隕石の話である。


「あー知ってる、ことわりの終わりだってね」

「宇宙人ではなくて?」

「どっちだろうね……」


 やはり、噂になっている。


 宇宙人でもことわりの終わりでも関係ないと思っていた。


 その瞬間である。携帯が鳴り始めるのであった。


 非通知?


 僕は警戒しながら電話に出る。


 それはミチルであった。


 隕石のことはもう終わりにしよう。ミチルとレイなる新たな出会いがあったのだ、きっと、ことわりの終わりは僕には良い事なのかもしれない。


 僕は家を飛び出して、公園に向かう。


 そこにはミチルとレイが居た。


 しかし、夜の公園に非通知の電話でヒョコヒョコとつられて行くのは僕は飢えていたのかもしれない。


 ミチルのローズマリーの様な香りにレイの柑橘系の女子の香りだ。


 その高貴なオーラは聖女に近い。


 公園に着くと制服姿の二人がベンチに座っていた。


 僕が二人に近づくと。


「バカ……本当に来たの……」


 ミチルはもじもじとしているが、来いと言っておいてそれはないだろう。


「交渉、いえ、命令に近いことになるわよ」


 レイがサバサバした口調で話始める。


 命令ね、僕の人生はある意味で無難ばかり選択してきた。


 姉貴が私立の大学に行き、そのせいでバイト漬けの毎日になったので。


 僕は夜間にして少しでも多く勉強をしたいとか言っているが、大学の勉強など本当は興味がないのであった。


「三老士の言う通りね。この世界は絶望で満ちている」


 僕の『命令』と言う言葉への反応をレイが返してきた。


「バカ、バカ、ショタ、あなただけが頼りなのに」


 ふ、頼りにしていると言っておいて『ショタ』扱いなのか。


 まあ、いい、このパターンはお使いをするのであろう。


「おいおい、ミチル、わたし達は聖女であるのだ。もう少し気品を持つべきなのでは?」

「はーい」


 聖女?僕が言葉を選んでミチルに話しかけようとすると。


「わたしとレイは聖女と言っても精霊的な存在なの、元々わたし達は一人で、この地を守る聖女であったの」


 二人の発言を整理すると、名も無き聖女が何かの理由で二人に分裂してただの人型になり、こうしてミチルとレイとして話しているとのこと。


「それで、何故、ただの人型に分裂したのだ?」

「えぇぇ……」


 ミチルは赤くなってオロオロする。


「言っといた方がいいわ、わたしから言う?」


 レイの問いにミチルは首をブルブルさせるのであった。


「あのタワーマンションが見えて、あの屋上の社にわたし達が一人の時に居たのです。ショタの部屋からもタワーマンションが見えるはずよ。つまりはショタの部屋をわたし達は毎日、見ていたの」


 まあ、僕の部屋から屋上が見えると言うことは屋上から僕の部屋も見れる訳だ。


「そんな、あなたに恋をしたの……。それで聖女失格になって、わたしことミチルとレイに分裂したの」


 困った、どう反応して良いのか分からない。


 恋をされて困ることはないが、分裂したミチルとレイは僕のことを好きなのであろうか?


 どうも、違うらしい。


「話は終わりよ、わたし達は学校の図書室に戻るわ」


 このレイの方はかなりサバサバしている。


 聖女が分裂した時に色々偏ったらしい。


 物欲しそうにミチルは僕を眺めてから帰路に着く。


 タワーマンションの屋上から眺めた僕か……。


 少し想像がつかないな。


 とにかく、僕の生活はこの二人に変えられそうだ。


 僕は部屋に戻ると半分の窓から見えるビルを眺めていた。


 そうか……もう、あの二人はマンションの屋上にはいないのであった。


 この街の守り神の聖女か……どんな気持ちで僕を見ていたのだろう?


 きっと情けない男に見られていただろうな。


 それでいて、一目惚れとかお笑い草だ。


 僕は……。


 少しでも努力せねば!


 僕、イヤ、俺は、俺になろう。


 そう、自分の一人称を変えようと思ったのだ。


 よし、今日から俺にしよう。


「翔太、居る?」


 姉貴が呼んでいる。


「俺に何か用か?」

「オレ???」


 姉貴は目を丸くして驚いている。差別てきな視線を感じる。大切なのは何だ、今までの自分に終止符を打つ為だ。


「なんだよ、俺じゃあ不味いのか?」

「イヤ、良いけど、好きな女子でもできたか?」

「……」


 姉貴の反応に困っていると、母親も帰ってくる。


「ちょっと、お母さん!聞いて、翔太がオレだって」

「そんなことは良いだろ、要件はなんだよ?」

「携帯の充電ケーブルを貸して欲しいだけだよ」


 俺は姉貴にケーブルを渡すと、二段ベッドに入り込む。


 ホント泣きたい気分だ。俺を俺と言って何が悪い。

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