【第十四話】魔法医師 ⑦


「三大国が一つ、『メルセデス』を……潰してやりたいのよ」


「「……ッ!!」」



恭司とスパイルは、揃って息を呑んだ。


思わず頬から汗が滴り落ちる。



「なるほど……。メルセデスを……ね……」



スパイルは呟くように言葉を返した。


『まさか』というよりは、『やはり』と顔に出る。


三大国が一つ、『メルセデス』ーー。


その国としての姿は誰も見たことがなく、世界で最も謎の多い国として有名だった。


伝説上の国と言い換えてもいい。


何故なら、


メルセデスは歴史上、数多の国々と何度も戦争を繰り返しているため、存在していること自体は間違いないのだが、今のこの時点においても、未だどこにあるのか、"国の所在地が判明していない"国なのだ。


いや、国の所在地が判明していないというよりは、正確には"行けないようにされている"という方が正しい。


この世界にはもう3つしか国がないため、残り2つの国の領土が決まっている以上、消去法でどの辺りかは分かっているのだ。


それが南ーー。


北から南東にかけてはミッドカオスが、その反対から東にかけてはディオラスが支配しているため、そこ以外には考えられなかった。


この世界は小さな島国のため、他には存在しようもないのだ。


中心に構えるこのドラルスの他には、三大国の3つしか国が無い。


つまり、


理論的には、中心に聳えるこのドラルスから南に向けて進むと、メルセデスに辿り着けるということになるのだが……。



「未だ……誰も到達したことのない国……か……」



恭司もまた、神妙な顔で呟いた。


ドラルスとメルセデスの間には大きな森があって、その森の奥には『黄泉ヶ丘』という巨大で広大な花畑が広がっている。


一見すると一面花で覆われた綺麗な場所なのだが、その丘だけは、未だかつて誰一人として、通り抜けることができずにいた。


黄泉ヶ丘に入り込んだ者は、今までにその悉くが行方不明となっている。


それはこの三大国ができる前からだ。


色んな国が人が何百何千と挑戦してきて、一度も成功したことがない。


あのバルキーやルドルフでさえ、突破することは出来なかった。


三大国が出来るさらに何十年も前から、黄泉ヶ丘は結局、ただの一度たりとも侵入者を許したことはないのだ。


入ったが最後、自力では二度と出て来られない丘ーー。


それが、『黄泉ヶ丘』と呼ばれる所以だった。

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