【第十二話】道のり ⑧

「何だッ!!」



刀を構えつつ、恭司は焦った様子で叫んだ。


さっきの音は只事じゃない。


よく聞き馴染んだ音ーー。


知っている気配ーー。


あの悪夢が再び蘇ってくるーー。



「噂をすればって奴だな……ッ!!おそらくもう始まってる!!こうなれば仕方ねぇ!!走るぞ!!」



そう言って、


スパイルは焚き火の炎を吹き消すと、ドラルスに向けて走り出した。


恭司もその後に続き、背後で似たような音が立て続けに鳴り響く。



「くそッ!!さしづめ……ッ!!いよいよあの雷神様が動き出したって所だろうな……ッ!!タイミングを考えりゃあ、ディオラスの援軍が動き出すのも時間の問題だ!!急いでドラルスまで走り抜けるぞ!!」



スパイルの声にもまた、焦りがあった。


確かにいつ始まってもおかしくなかったものの、まさかこんな嵐の夜に始まるとは思わなかったのだ。


完全に油断していた。



「待てッ!!流石にこんな状況でドラルスまで走り続けるのは不可能だ!!ペース配分を考えろ!!」


「分かってるよッ!!だが、どっちにしろ、今は全力疾走の一択だ!!今頃、顔を真っ赤にしたシェルとティアルが国境で大暴れしてるだろうからな……ッ!!ここにだっていつ流れ弾が降ってきてもおかしくねぇ!!」



背後では他の戦いの音も聞こえてくる。


ディオラスの援軍が戦場に駆け付けたのだろう。


戦場からここまでは既にかなりの距離が空いているはずだが、それでもここまで戦闘音が聞こえてくるということは、よっぽど激しい戦いが繰り広げられているということだ。


2人は木々を躱しつつ、この嵐の中、暗闇に向かって一目散に駆け抜ける。



「これなら、同盟なんて無いんじゃないか!?」



走りながら、ふと、恭司は叫ぶように話しかけた。


瞬動という反則技を持っている恭司は、スパイルが全力疾走しようともまだ余裕がある。


スパイルは懸命に木々を避けながら疾走しつつ、同じく叫ぶように答えた。



「こんな時に悠長なこと言ってんじゃねぇよ!!それに……ッ!!この戦闘音を聞く限りでも、ディオラスの軍が到着してるのは間違いねぇからな……ッ!!下手すりゃあ奇襲部隊あたりとぶつかる可能性もあるぞ!!」


「いやいや、まさかそんな……」



『おいっ!!貴様ら!!ここで一体何を……ッ!!す、スパイル・ラーチェス!?』



すると、


2人の走る前方に、100人ほどの軍勢が現れた。


見たところ、ディオラス人だ。


戦場を迂回して強襲をかける部隊なのだろう。


スパイルは舌打ちを零した。



「ほら見ろ!!お前が余計なこと言うからだ!!」



スパイルは彼らを目視すると、爪の先に炎の槍をいくつか作り出し、放った。


炎の槍は前方の兵士群を紅蓮に包み、炎で焼かれた人間たちが先陣でのたうち回る。



『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

『ア、アツイ!!アツイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!!!』



響き渡る阿鼻叫喚。


すると、


その頭上を音もなく飛び越えていく影があった。


もちろん、恭司のことだ。



「悪かったよ。まさかこんな間の悪い奴らがいるなんて思わなかったんだ」



そして、


恭司は兵士たちの背後に回ると、大量の大三日月を放つ。


人を悠に斬り裂く風の刃は容赦なく彼らの体を真っ二つにし、再び兵士たちの叫び声が響いた。

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