【第十二話】道のり ⑨

『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!俺の手が……ッ!!手がァァァァァァ!!』

『一体どこから現れたんだ!!まるで見えなかったぞ!!』

『だ、誰か俺の足を探してくれェ!!どっか行っちまって……ッ!!動けないんだ!!』



刀を振れば振るほど散らばる手足ーー。


噴水のように吹き上がる鮮血ーー。


ほぼ一瞬の内に発生した異常事態に、状況はパニックの一途を辿った。


そして、


兵士群を率いる男が一人、焦った様子で号令を飛ばす。



『全員、狼狽えるなァ!!ここで本国に戻っても殺されるだけだぞ!!我らはもはやここでこいつらを始末する以外に道はない!!全員で一斉にかかれェ!!』



兵士郡の隊長らしき男は、この状況の中、大声で叫んだ。


流石はディオラスの強襲部隊の隊長ということなのだろう。


指示に迷いが無い。


恭司とスパイルは、揃って舌舐めずりをした。


逃げないのは都合がいい。


それに、


1人なら苦戦したかもしれないが、挟み撃ちで2人がかりとなれば、苦戦する理由もなかった。


ここから先は、殺戮ショーだ。



「恭司!!時間がねぇから最初ッからクライマックスといこう!!こんな状態で、あの化け物どもの戦争に巻き込まれるのだけは御免だからな!!」



スパイルはそう言って、爪の先に新たな炎の槍を作り出した。


夜の暗闇を明るく照らすほどの量が用意されたソレは、兵士たちからすれば地獄への灯火のように見えただろう。


既に半数近く潰した部隊に向けて放つ量じゃない。


スパイルは、向こうの士気が持ち直すまで待ってやるつもりはなかった。


この一撃で、そのほとんどを焼き尽くすつもりだ。


恭司もそれに乗っかる。



「あぁ、分かってるよ!!こんな所で時間食ってる場合じゃねぇからな……ッ!!ディオラスには悪いが、即リンチだ!!」



そうして、


スパイルは前方、恭司は後方で、ディオラスの兵士たちを悉く肉塊に変えていった。


炎が兵士たちの体を焼き、風がそれらを斬り裂いて、その場はさらなる阿鼻叫喚に包まれる。


バラバラになった人の肢体が宙を舞い、焼かれた人肉の臭いが場を包んで、もはや地獄としか思えない光景だった。


前にも後ろにも活路はなく、逃げようにも逃げられず、反撃しようにも到底かなわない。


もはや不運としか言いようがなかっただろう。


ここにいる2人は、三大国史上、最も残虐な罪を犯した、大罪人ワースト2なのだ。


実力差は勿論のこと、同情や命乞いが通じる相手じゃない。


そして、


当初100人ほどいたはずのディオラスの兵士たちは、ものの2~3分で壊滅させられるに至った。



『くそッ!!何だっていうんだ!!何でこんな……ッ!!こんな所で!!こんな奴らに出くわすなんて……ッ!!』



隊長らしき人間の怨嗟に満ち満ちた声が聞こえる。


だが、


関係ない。


恭司とスパイルは、ほとんど壊滅した軍を相手に、そこからさらなる追い討ちを掛けた。


トドメを刺すのだ。


ここで一人でも逃がせば、2人の情報がその人間から2国に知られてしまう可能性もあるし、ここできっちりかっちり完全完璧に全滅させておかなければならない。


もはや目視できるほど少なくなった兵士たちを相手に、風が火が斬撃が炎が宙を舞い、兵士たちの叫び声だけが響き渡る。


そして、


100人前後いたはずの彼らは、たった2人の半死人によって、あっという間にその全てを駆逐されたのだった。

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