【第九話】スパイルの過去 ⑤

「カァーッカッカッカッ!!65位ってだけでもある程度良い暮らしが出来てたと思うが、そこから4位に急浮上なんて普通じゃねぇなぁ?ええおい?何か不正でもやってたんじゃねぇのかぁ?あぁん?」



ルドルフの横にNo.2として立っていたティアルは、そう言って会話に入ってきた。


ランキングを決める戦闘は、衆人環視のもと、薬物や罠のチェックなど厳正に確認された上で行われる神聖なものだ。


"それ以外のことはともかく"、戦闘においては、そこに不正の余地がないことはディオラス中の常識と言える。


それにもかかわらず、ティアルがこんなことを言ってきたことに、スパイルはおろか、ここにいる全員が理解していた。


ティアルは、"スパイルと戦いたい"のだ。



「4位を倒したってことは、元々それだけの実力があったってことなんだろう?なのに何故今までは65位だったんだ?力を隠してたのか?何でだ?すぐにでも挑めば良かったじゃないか?何故こんな急に勝負を挑む気になったんだ?何かやましいことでもあったんじゃないのか?ええおいおいおいおいおい?」



ティアルはそう言ってスパイルに近づいてきた。


カーペットの上で片膝をつくスパイルに向かって、ティアルはズカズカと歩み寄ってくる。


スパイルは頭を下げ、再び言葉を紡いだ。



「ランキング戦はとても高価で、なかなかチャンスの巡ってこない非常にレアな機会です。これまでやって来なかったのは、単にその機会が得られなかっただけの話。今回それが叶ったのは、その機会が"たまたま"やってきたからでございます」


「ふぅん。そうなのかぁ?だったらまぁ、仕方ないなぁ?」



ティアルはそう言って、頭を下げるスパイルに顔を近づけてきた。


頭の上からでも、ティアルの醜い笑顔が想像できる。


今、スパイルが言った程度のことはティアルでも充分に知っている話だろう。


ティアルは今、考えているのだ。


どうすれば、"どうにかなるか"を。



「よさないか。ティアル」



ふと、ルドルフの声が聞こえた。


ルドルフは相変わらずのポーカーフェイスで、つまらなさそうにその光景を見下ろしている。



「我が国の国是は『弱肉強食』ーー。だが、それでも"国"だ。自分より弱いとはいえ、兵力を減らすのは慎め。挑んできた奴だけ相手にしろ」



ルドルフは全てを見透かしているようだった。


ティアルがこれまで行ってきたことも知っているのだろう。


ティアルが"今からやろうとしていること"も含めて、ルドルフは注意したのだ。


ティアルは冷えた目付きでその言葉に振り返ると、



「そうですね。悪ノリが過ぎました」



満面の笑みを浮かべ、素直に従った。


この国は『弱肉強食』。


弱き者は上には逆らえない。


つまり、


No.2であるティアルは、No.1のルドルフに逆らえないのだ。


そのたった1つの位の差が、一体どれほどのものなのかは、ティアル自身が一番よく分かっている。


かつて、一度だけ挑んで軽くあしらわれた時に、ティアルは理解したのだ。


"次元が違う"と。



「これより、スパイル・ラーチェスはディオラスのNo.4になる。元のNo.4の物は、全てお前の物だ。軍も家も全て自由にするがいい。戦争では役に立ってもらうぞ。スパイル・ラーチェス」


「ハッ。仰せのままに」



そうして、


叙勲式は無事に終わりを迎えた。


ルドルフ公認のもと、スパイルは無事に『No.4』の地位を得ることが出来たのだ。


"計画通り"に事態が進行して、スパイルは笑みを浮かべる。


だが、


事はまだ終わってはいなかった。


式が終わったその直後。


ルドルフに最後の礼をして玉座の間を退室したその時に、


またしてもティアルが話しかけてきたのだ。

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