【第九話】スパイルの過去 ⑥
「いやぁ~、さっきはどうも失礼しちまったなぁ?悪気はなかったとはいえ、俺様は少々心配性が過ぎるようだ。迷惑をかけてしまったようで、本当にとっても非常~に悪いと思っている。どうだ?さっきのお詫びも兼ねて、君を我が屋敷に招待しようじゃあないかぁ?従業員一同心から歓迎させてもらうぜぇ?ええおい?」
玉座の間から出て早々だった。
謁見が終わってカーペットを歩くスパイルの後ろを、ティアルはそのまま付いてきたのだ。
空気も何もあったもんじゃない。
叙勲式なんていう厳かな場で行われる行為とは到底思えないものだ。
スパイルは首を横に振る。
「大変ありがたい申し出ですが、今日は既に先約がありまして……。またの機会にさせてください、ティアル様」
嘘だった。
この後に予定などない。
叙勲式後の宴会も断ったし、今はただ早く帰りたいだけだ。
ティアルに関わるとロクなことがないのは、今やこのディオラスでは当たり前の常識。
これ以上は1秒でも長くいたくない。
スパイルも厄介な奴に絡まれたものだと、内心では舌打ちしていた。
「ほほぉぉう?そうなのかぁ?それはそれはとてもとーっても残念だなぁ……。ランキングの中でも一桁の人間が変わるのは珍しいことだからなぁ?是非ともお近づきになりたいと思っていたんだがぁぁ?そうかぁ……。既に用事が入ってるんなら仕方ねぇなぁ?」
……相変わらず、聞き苦しくて吐き気がするくらい、嫌な声と話し方だった。
聞いてるだけで嫌気がさす。
見てるだけで不快感が増す。
ティアルの放つオーラはひどく独特だ。
歪で不完全とでも言えばいいのか。
人間性はとうに破綻しているが、よく見たら体のバランスも合ってない。
右足と左足の長さは違うし、いつも傾いて、顔を横にしながら覗き込むように見てくる。
一言で言えば、『気持ち悪い』。
「タイミング悪く、申し訳ありません。次回があるならば、是非その時にでも。それでは、私は急ぎますので……」
皇太子に対しては無礼かもしれないが、スパイルはそれだけを言って頭を下げ、ソソクサとその場を後にした。
踵を返し、ここに来るまでに通った道をまっすぐに進む。
ティアルも流石に追っては来なかった。
あれで諦めたとは思えないが、ひとまずの嵐は去ったと言えるだろう。
だが、
廊下を進む中でも、背中越しにネットリとした視線は十分なほどに伝わってくる。
これで終わりとは到底思えない。
スパイルは背中を伝う大量の汗を気にしながら、早足で城の外へと向かい、帰路についた。
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