【第八話】スパイル・ラーチェス ⑨

「はぁッ!!」



4度振られる恭司の刀。


4つの三日月が男に向かって放たれる。


男も発熱した爪を4度振り、三日月と炎の槍は2人の中間地点で衝突した。


それは空中に激しい爆発の連鎖を生み、熱気が空気を燃やす。


肺が熱気で潰されそうだ。


息が熱くて苦しくなる。


すぐにでも次の手を打たなければならない。


恭司は瞬動で素早く男との距離を詰めると、周囲を高速でグルグルと回り始めた。


木や地面をバネにして何度も何度も回り続け、男の目を撹乱する。


一周回れば恭司が1人増え、二周回れば2人増えた。


三谷の基本技が一つ、『殺影』ーー。


さっきはマグレで防がれたが、次はそうさせない。



「くたばれッ!!」



瞬間、


4人の恭司は四方八方から一斉に男に襲い掛かった。


高速で移動する4人のうち、3人はフェイント。


本物の実体はたったの1つだけだ。


シェルには通じなかったが、大抵の人間はコレで死ぬ。


その技の名は、『乱れ刃』。



「ハッ!!流石に2度目は通じねぇよッ!!」



しかし、


男は両爪を自分を中心に一回転して360度回し斬ると、爪の後からついて来る炎で壁を作った。


炎は回り、そのまま炎の柱へと変わる。



「何ィッ!?」



またしても予想外の切り返し。


シェルとは違う手法で防いできた。


恭司は技を諦め、間一髪足を地面に突っ掛からせて動きを止めると、代わりに三日月を放つ。


だが、


三日月は炎の柱に妨げられ、男に届く前に自壊してしまった。


恭司の風のような速度に、男もだんだんと慣れてきたのだ。



「次はこっちの番だァ!!」



恭司が技を断念したことを確認すると、男は自分を取り囲む炎の柱を一気に縮小し、自分の右手の上に乗るくらいの大きさにした。


球状の小さなソレは男の掌の中で轟々と燃え上がり、その大きさが中の巨大な炎と明らかに釣り合いがとれていないのが見て取れる。


男はニヤリと笑うと、ソレを恭司に向けて投げよこした。


それほど速いわけでもない。


フワリと、まるでパスするかのように、恭司の手元に向けて投げ渡してきたのだ。


勿論、恭司は避ける……が、当然、それだけで終わることはなかった。



キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン……ッ!!



「なッ!?」



妙な音を鳴らしながら、球状のソレは空中で突如まばゆい光を放った。


いきなりのことに、さすがの恭司も反応することができず、その光に目をやられ、逃げる間をなくす。


途端……



ダアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!



激しい音を散らし、まるで風船が空中で割れるかのように、球は、爆発した。


あの中に無理矢理収められていた大火は呆気なくはち切れ、恭司を巻き込んで森をいきなり紅蓮へと染める。


至近距離ーー。


人を殺すには申し分ない威力と範囲。


普通の人間なら間違いなくこれで死ぬ。


しかし……


恭司の放つ殺気の奔流は、少したりとも消えた様子はなかった。

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