【第八話】スパイル・ラーチェス ⑧
(な、何だ……?)
これから襲いに掛かるつもりだった恭司だが、この不可解な男の様子に一瞬足を止めてしまった。
嫌な予感がする。
『今は行くべきじゃない』
そう判断した恭司だったが、その判断はミスだった。
"今"行くべきだった。
「熱いから気をつけろよ?当たったら……痛ぇじゃ済まねぇからなァァアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
そう言って、男は発光した爪を辺りに向けて振りまくった。
すると、
その先から赤い炎が生み出され、それは槍のような形を作って、辺りの木々に襲い掛かる。
それは木に当たった瞬間に激しく燃え盛り、威力が凄まじいことは見るも明らかだった。
この嵐の中、辺りに熱気が充満し始める。
(くそッ!!何だ、それは!!)
男はそれを、しっちゃかめっちゃかに放ち続けた。
無差別に辺りの木々を燃やしにきた男に対し、恭司としては気が気でない事態だ。
そして、
「ッ!!」
突如として身に迫る気配ーー。
木々の一つに身を隠していた恭司は、そこからすぐに移動した。
途端、
背後で恭司の隠れていた木が勢いよく燃え盛る。
「見つけたぞォォォオオオオオオオオオオオ!!」
男の歓喜に満ちた声が聞こえた。
男はそこから恭司に向けてどんどん炎の槍を放ってくる。
木々の一つ一つを容易く燃やす炎の槍は、移動する恭司に向けていくつも放たれ、恭司は木と木の間を跳んで辛くも避け続けた。
「ハハハハハハハハハハハハハハ!!そんなスピードで、どこまで持つかなァァアアアアアアアアアアアアアア!?」
男の声には次第に狂気が入り混じってきていた。
楽しくて仕方ないのだろう。
興奮が止まらないのだろう。
見たら分かるくらいに明らかだった。
「くそがッ!!」
恭司はまたしても技を行使する。
三谷の基本技が一つ、『瞬動』ーー。
シェルとの戦いによるダメージがいよいよ顔を出し、既に体にもタイムリミットが近づいてきているのを感じたが、もう使う他なかった。
もう仕方がない。
やるしかない。
しかし、
恭司がそれで一つの木の枝の上に移動すると、そこには既に炎の槍が放たれていた。
相変わらず相手の手を読むのが得意らしい。
先読みして先に放たれていたのだ。
「くそッッッたれがァァアアアアアアアアア!!」
恭司は痛みに歯を食いしばりつつ、それでもやらなければならなかった。
瞬動の二連続ーー。
避ける……が、端から見ても明らかに疲れが見えてきていた。
体に蓄積されているダメージと体力の限界は、既に限界が見える所まできている。
さっきのも、トップギアのままで行った瞬動だったならば、男に反応などさせなかったことだろう。
だが、
その男にしても、未だに体から流れ出る血の量は相当な重荷のはずだ。
恭司だけが不利というわけではない。
それに……疲れたとはいえ、まだ数分くらいならトップスピードを維持できるくらいの体力は残っている。
まだ……戦える。
「さぁさぁ、死ね死ね死ね死ねェ!!炎に包まれて死ぬがいいッ!!骨くらいは拾ってやるぞォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!グハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハァァアアアアアアアアア!!」
男の繰り出してくる炎の槍がさらに数を増した。
何十だったのが何百に変わるくらい、放って放って放ちまくった。
恭司はそれらを、辛くも全て避けきる。
技を解禁するだけじゃダメだ。
もう完全に本気でやるしかない。
もはやダメージや怪我のことなど言ってられる場合ではなかった。
殺らなければ殺られる。
コレはそういう次元の戦いだ。
あの炎はシェルと同じ、特殊体質の産物だろう。
体から炎を生成できるなど厄介極まりない。
何故さっきまで使わなかったのかは謎ではあるが、間違いなくアレがあの男の本気の姿だ。
手抜きじゃ負ける。
体がどれだけ危険でも、やらなければならないものは仕方がない。
戦いが終わってから動けるかどうかなど、今や恭司は考えてはいなかった。
"今"勝てなければ何にもならない。
三谷に喧嘩を売ってここまでした男を、ただで済ますつもりはない。
殺す。
男が三谷のことを知っているかどうかは知らないが、恭司には修吾との約束がある。
抹殺の判断は、覆らない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます