【第八話】スパイル・ラーチェス ③

「しっかし、ここの所は本当についているな。運命の神様にお膳立てでもしてもらってる気分だ」



森の中をしばらく進み、ある程度余裕が出来た所で、恭司は一人呟いた。


昨日応急処置を施し、丸一日以上眠ったことで、体力的にもかなりの回復を見せている。


この調子なら、三谷の技も問題なく使えそうだ。


まだ安心は出来ないものの、恭司は足早にその場を後にし、森のさらに深くへと入り込んでいった。


ヒューゴ村という第一目標をクリアしたことで、目的地は次の段階に移っている。


中立都市である『ドラルス』へと向かい、治療を受けるのが、今の目標だ。


そして、


それが完了したら勿論ミッドカオスへ行く。


ディオラスとの開戦だとかどうとかはもう関係ない。


これで滅ぼされるようなら関係大有りだが、シェルが戦線離脱中とは言っても、開戦までの2~3日で回復するだろうし、流石にそれですぐに決着がつくほどミッドカオスという国はヤワじゃないからだ。


ディオラスもミッドカオスとは違う意味で強国だが、最終的には小競り合い程度で終わるものと恭司は見ている。


そうなれば、弱った所を叩くチャンスだ。


恭司はニヤリと口元を緩めた。



「今度こそは勝つ。バルキーとシェル、それにビス・ヨルゲンだけは、この手で、必ず……ッ!!」



そう言いながら、恭司はこの嵐の中、取り急ぎドラルスまでの道のりをまっすぐ歩いていった。


今は国境付近のヒューゴ村を出たばかりだから、国境沿いにほぼ東へまっすぐ行くだけでいい。


行きしなに瞬動も試して、2日前とはまるで違うことを確認すると、恭司の足は勝手に速くなっていった。


所々に魔物の気配も感じたが、全て無視することにする。


向こうも恭司の放つオーラを見てか襲ってこないし、今は何よりも治療が最優先だからだ。


他には構っていられない。


だが……



「………………」



恭司はふと足を止めることになった。


人の気配だ。


しかも後ろときている。


シェルの半分以下の精度しかないが、恭司にももちろん気配探知の能力はある。


それは、長年の戦闘経験がある者なら誰しもが持っている能力だ。


シェルはその能力が反則的に高かったにすぎない。


恭司は静かに首を後ろに向けた。


その先に敵はいる。


おそらくミッドカオス兵じゃない。


ミッドカオス兵なら数にものをいわせてすぐさま攻撃を仕掛けてくるはずだし、こんなあからさまな様子見の行動をとる必要もないからだ。


となれば、


必然的に、相手の正体も浮かび上がってくる。


確信はないが、ディオラスの人間とみて間違いはないだろう。


幸運続きにも限界があったということだ。


体を全回復出来ていない恭司にとっては最悪のシチュエーション。


様子見でこれだけ経っているのだからすぐに襲い掛かられることはないだろうが、油断はできない。


向こうもその辺りは考えているに違いないが、嫌に気持ちの悪い沈黙だった。

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