【第六話】王族狩り ③

(だから…………今のうちに戦力を探っておくかね)



シェルはここぞとばかりに雷伝の網を広げた。


エネルギーの消耗が激しいが、短時間で集中的にやれば問題ない。


しかし、



(バカな…………。いない…………だと……?)



森の中の正面の気配以外、他には全く気配を感じられなかった。


どれだけ広範囲に網を広げても、一切引っ掛からない。


シェルは考える。


この状況から見て、あの正面にいる気配は王族狩りで間違いないだろう。


だが…………


全員で来ているとは限らない。


もしかしたらただの様子見だけで、攻め込む気は元々なかったという可能性もある。


それなら大損だ。


しかし、


それでもあの1人を捕らえれば、他の仲間を炙り出すのにかなり大きく前進できるだろう。


シェルは剣に手を当てる。


こうなればまだそこにいる内に、早く決着を付ける方がいい。


逃げられてしまえば元も子もないからだ。



「……ッ!!」



近くにいた兵士たちは、それを見て静かに警戒を強めた。


ようやく動き出すということだ。


兵士たちはゴクリと生唾を呑み込み、シェルの方を見つめる。


シェルは立ち上がると、剣を鞘から抜いた。


兵たちに号令をかけるのだ。


息を吸い込み、発しようと思っている言葉を思い描いて、声に出そうと口を開ける。


開戦の号令が放たれようとしているその瞬間────。


臨戦体制に入り、いざ動かんとするその間際。


いよいよ王族狩りを討つ時がきた────。


そう皆が予感したその時、



────事は、その一瞬に起きた。



ガキィィィィィィィィィィィィィィィィンッ!!



「……………………え?」



突然響く衝撃音。


金属と金属がぶつかり合った音。


シェルの目の前にはいつの間にか剣の剣身があり、銀色に輝いている。


そう、


攻撃をされたのだ。


斬撃を喰らわされたのだ。


鳴り響いた音はシェルが斬撃を防いだ音で、シェルは咄嗟に剣を振って斬撃を弾いたのだ。


シェルは自らの剣を唖然と見つめる。


今のは雷の速度伝達による反射神経と気配察知で瞬間的に体が動いただけで、頭で理解しながらやった訳じゃない。


防いだ自分自身ですら驚くほど、防いだ自覚が無かった。


なんせ、


シェルの目の前には…………


未だ、誰の存在も確認出来ていないのだから────。



「て、敵の攻撃だァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!全員、配置につけェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!!」



将軍の慌てた指示が現場に響く。


兵士たちはハッと我に帰るかのように動き出した。


何があったのか分からないが、何かあったのだ。


シェルを守らなければならない。


そして、


それから時を置かずして、気配のあった所に突如、風が吹き始めた。


ゴオオオッと強烈な旋風が巻き上がり、シェルは咄嗟に気付いて雷の障壁を張る。


嫌な予感がした────。


途端、


旋風は巨大な螺旋を描き出し、横向きの竜巻となってシェルに突っ込んできた。



「ば、バカな……ッ!!」



竜巻と障壁がぶつかり、一瞬だけ膠着する。


だが…………


咄嗟の障壁では弱すぎた。


あっという間に弾かれ、シェルは背後の兵士ごと後ろに吹き飛ばされる。


道連れにされた兵士たちはその悉くが薙ぎ倒され、シェルの体は森の中にまで突入した。


数多の木々をへし折りながら、シェルの体はようやく木々の1つで止まり、一瞬意識を失いそうになる。


ダメージは深刻だった。



「あ、有り得ない…………。有り得ないぞ、コレは……」



朦朧とする意識の中、シェルは呟く。


訓練場の方から兵士たちの悲鳴が聞こえた。


きっと王族狩りが暴れているのだろう。


兵士たちにあんな攻撃を防ぐ術は持たせていない。


おそらくは蹂躙されているはずだ。



「有り得ない………………。まさか、また現れるなど、あってはならない……」



シェルは何とか木に掴まり、立ち上がる。


あの風を操る攻撃には覚えがあった。


ありすぎていた。


こんな事が出来るのは、あの一族しかいない。


シェルは息を吸い込み、叫ぶ。



「まだ生きていたのか……ッ!!三谷一族ッ!!」



シェルの体から電流が放出される。


バチバチと空気を散らし、地面を捲り上がらせるほどの威力と迫力を持って、シェルは怒りを露わにした。


こんなことにならないように、あの日は父『バルキー・ローズ』と綿密に気配を探したのだ。


捜索隊も出し、全員死んでいることを確信するまで、何度も何度も丁寧に探したはずだったのだ。


それなのに…………


それなのにだ。



「どうやって生き延びたァ……ッ!!絶対に吐いてもらうぞッ!!」



シェルは雷を纏い、さっきいた所まで戻る。


その動きは目に止まらぬほど高速で、およそ人の出せる動きではなかった。


コレも、シェルの雷技が一つ。


その名は、『雷迅』────。



「……ッ!!」



突如現れたシェルに、王族狩りは動揺を隠せなかった。


まだ生きているだろうと思っていたが、こんなに早く戻ってくるとは予想外だ。


王族狩りは風の障壁を張るが、今度はシェルの方が早い。


シェルは剣を振りかぶると、雷を纏った状態で振り下ろした。


今度は王族狩りが後ろに飛ばされ、森の寸前の所まで吹き飛ばされる。


ようやく、対面の時が来た。

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