2話 冒険者ギルドの中身

――前書き――

大変お待たせいたしました。

連載を再開します。

7章は毎週月曜日の18時に投稿します。

――ここまで――



「是非!」クラリスが飛び跳ねそうな勢いで言う。「地下迷宮! 行きたいですわ!」


 まぁ、元々行くつもりだったけどね、私たち。


「ルーナさんの、強さの秘密、俺知りたい」


 レックスは自分の剣を仕舞って、真剣な瞳で言った。

 ふむ。

 レックスが惚れたのはルーナの強さの方かな?


「じゃあ一緒に行こうか」ルーナが柔らかい表情で言う。「まずはギルド街に行って、そこから地下迷宮を目指すね」


「ギルド街ですの!?」


 クラリスは本当に嬉しそうだった。

 そんなに嬉しそうな顔されると、なぜか私まで嬉しくなってしまう。

 ギルド街、万歳!

 みたいな。


「うん。この大陸での最大の拠点だよー」


 言ってから、ルーナが歩き始める。


「あれ?」私が言う。「アイスドラゴンの素材とかは取らないの?」


 冒険者にとって、倒した魔物の素材は収入源のはず。

 もしくは、あとで別の人が回収に来るとか?

 その辺りのシステムを、私は詳しく知らない。


「あー、そいつね」


 ルーナが立ち止まり、苦笑い。


「氷なんだよね、ただの」

「「!?」」


 ルーナの言葉に、私たち3人は目を丸くした。

 え?

 氷?

 いや、見た目は確かに氷だけど、生物だよね?

 動いてたよ?


「えっとね、アイスドラゴンは『氷の女帝』の眷属で」ルーナが説明する。「要は魔法生命体。氷に魔力を吹き込んで、ドラゴンみたいにしただけ」


 へぇ、と私は感心した。

 それはすごいファンタジーだね。

 クラリスとレックスも感心している様子だった。


「だから素材は何もないよ」


 ルーナが肩を竦めた。


「それは残念ですわね、強かったのに……」


 クラリスが項垂れた。


「ああ、強かった」


 レックスはチラリとアイスドラゴンの死体を見た。

 死体って表現が正しいのかは、ちょっと微妙だけども。

 パン、とルーナが両手を叩いた。

 その音で、みんながルーナに注目した。


「気にしない、気にしない。さぁ、ギルド街に出発ぅ! 遅れないように!」


 ルーナが再び歩き出す。

 私たちは雪に埋まっているバックパックを背負う。

 アイスドラゴンとの戦闘を開始した時に下ろしたものだ。

 戦闘中は邪魔だからね。

 それから、私たちはルーナを追った。



 ギルド街はまぁ、街と言うほどの大きさではなかった。

 いくつかの建物と倉庫、ソリ置き場、ソリを引くための魔物だか動物だかの小屋。

 まぁ拠点だしそんなもんだよね。

 クラリスとレックスもギルド街の小ささに少し落胆している様子だった。


「あっちの一番大きな建物が宿屋兼食堂で、隣の建物が武具屋」ルーナが建物を順番に指さす。「こっちの、屋根がとんがってる建物が冒険者ギルド氷の大陸支部」


 ちなみに外を歩いている人間は誰もいない。

 私たち以外は。

 ルーナがギルド支部に向けて進み、私らが続く。

 ギルド支部の頑丈なドアをルーナが開く。

 そのまま中に入ったので、私らも入る。

 中はかなり温かい。

 暖炉もあるし、たぶん何か魔法もかかってるねこれ。

 室内は外から見た感じより広く、椅子やテーブルが多く並べられている。

 奥の方にカウンターがあって、ギルドの事務員らしき人が座っていた。


「わぁ」クラリスが声を上げる。「冒険者が、いっぱいですわ!」


 そう。

 支部の中にはたくさんの冒険者がいた。

 それぞれ談笑したり、武具の手入れをしていたり、軽食を頬張ったりしている。

 知ってる人がいたので、あとで挨拶しようっと。


「ようこそ冒険者ギルドへ!」ルーナが笑顔で言う。「さぁ、迷宮に行く前に申請を出しに行くよ!」


 ルーナがカウンターの方へと向かう。

 私らもルーナを追う。


「ルーナさん、戻りましたか」


 事務員らしき女性が言った。


「ただいま。久々の実家でのんびりできたよ。叱られたあとで、だけど」ルーナが肩を竦めた。「あ、この子たち冒険の訓練してるんだって」


 ルーナが視線だけで私たちを示した。


「子供だけで、ですか?」


 事務員は驚いたような表情を浮かべた。


「私とリリちゃんも、この子たちぐらいの時はあちこちで冒険訓練したよー」

「ルーナさんとリリさんはまぁ、ね……」


 事務員は複雑そうな表情で言った。

 ん?

 ルーナって問題児なのかな?

 冒険者レベルは高そうだけど……。


「それでね」ルーナが笑顔で言う。「私は今日、このあと地下迷宮に潜るんだけど」


「はい。記録しておきますね」

「この子たちも連れて行くね?」

「ええ!?」

「ダメ?」


「ダメですダメです!」事務員が首と両手を振った。「いくらなんでも危険すぎます!」


「そう?」ルーナが首を傾げる。「でもこの子たち、アイスドラゴンと戦ってたよ?」


「はい? アイスドラゴンって、氷の女帝の配下の、討伐ランクAの、あの?」


 事務員が驚愕の表情を浮かべる。

 何人かの冒険者が私たちに視線を送った。


「マジか?」「ルーナが守ってたんだろ?」「子供だけでAは無理だろ」「待て、あの金髪の子、見たことあるぞ」


 などなど、冒険者たちがざわざわし始めた。

 そっかー。

 あのアイスドラゴンAランクだったのかぁ。

 強いと思ったんだよね。


「だから大丈夫だと思うよ?」ルーナが言う。「それにこの子」


 ルーナが私の隣に移動し、私の背中を押す。


「あのミア・ローズだよ?」


 ルーナの言葉で、ギルド内に衝撃が走った。

 え? え?

 私そんな有名なの?

 てかルーナ、私が誰か分かってたの!?

 そして『あの』ってどの!?

 普通に考えたら『大公の』ってことだよね?

 でもここ冒険者しかいないんだよね!


「キングに勝った子か!?」

「知った顔だと思った!」

「見たことあると思ったら戦闘大会か!」

「キング・ゴメスに勝った爆発幼女!」

「今はなんか国作ったとか噂で聞いたぞ」


 それかっ!

 私は納得した。

 キングはレベル7の冒険者。

 最強の一角なんだよね。

 現役の冒険者では、魔獣ルーナリアンのレベル8が最高にして唯一。

 なのでまぁ、キングは本当に冒険者最強クラスなのだ。

 てゆーか、もしかしてルーナリアンもこの中にいたりするのかな?


「さすがミアですわね」

「うんうん」


 クラリスとレックスがほわぁ、っと私を見る。

 ふっふっふ!

 とりあえず胸を張っておく私。


「ミア・ローズなら、まぁいいでしょう」事務員が言う。「記録しておくので、そっちの2人も名前を教えてください」


 私ならいいのか!

 まぁキングに勝てるしね私!

 注目が集まって少し調子に乗っている私である。

 とりあえず、クラリスとレックスが自己紹介。

 迷宮で死亡した場合、誰に連絡すればいいかも問われた。

 私はローレッタと両親で、クラリスは両親、レックスも両親だった。


「そういえばルーナさん」


 手続きが全て終わったので、私はルーナに質問する。


「ん? なぁに?」

「魔獣ルーナリアンってこの中にいるかな?」


「魔獣ルーナリアン!」クラリスが興奮した様子で言う。「是非、会いたいですわ!」


「あー、ルーナリアンね。ここにはいないかな」ルーナはなぜか苦笑い。「地下迷宮に入ったら会えるよ」


 そのやり取りを見ていた冒険者たちが、なぜか楽しそうに笑った。


「楽しみですわぁ!」


 クラリスが両手を合わせてニコニコと笑った。

 はい可愛い!

 超可愛い!


「ルーナリアンって最強?」とレックス。


「余裕で最強」


 ルーナが拳を握って親指を立てた。


「ルーナさんより強いのですます……でありま、すか?」

「そりゃ私より強いよ。ルーナリアンはパーティだし、それに魔獣だからね!」

「おぉ」


 レックスは目をキラキラと輝かせた。

 魔獣って言っても人間だよね?

 あとレックス、無理に敬語使わない方が……。

 と、全身を黒い鎧で包んだ男が寄ってきた。

 一見すると不審者だが、大丈夫。

 知り合いである。


「久しぶりだね、キング」


 私は和やかに言った。

 コクン、とキングが大きく頷いた。

 相変わらず無口だねこの人。

 ちなみに、キングは伝説の槍グングニルを持っていない。

 さっきはあったよね、と思ってキングが座っていた席を見る。

 そうすると、普通にテーブルに立てかけていた。

 まぁ、盗る人はいないか。

 呼べば戻ってくる便利な槍だし。


「どうしたのキング」ルーナが言う。「ミアちゃんと遊びたいの?」


「いや」


 キングが喋った。

 割といい声だね!


「地下迷宮に行くなら、一緒に行こう」

「うん、いいよー」


 キングが同行を求め、ルーナがあっさりと許可した。

 まぁ、私らも別にいいけどね!

 キング強いし!

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