13話 根も葉もある話


 私とローレッタは目一杯おめかしして、オープン馬車に乗って愛想を振りまいた。

 オープン馬車に一緒に乗っているのは、専属護衛騎士のグレンとニーナ、それから側仕えのセシリアとフィリス。

 全員かなり気合いの入った格好をしている。

 私とローレッタは顔面が笑顔のまま固まってしまうのではないか、と思うレベルで延々と笑顔を振りまいた。


 パレードは大成功だった。

 私とローレッタを見て「可愛い! 超可愛い!」とか「大公閣下万歳! 可愛い!」とか、「娘にしたいっ!」とか「妹に欲しい!」とか、好意的な声が飛び交った。

 ローレッタは当然として、私も見た目は美人だからね。

 そしてパレードが終わり、私たちは国で1番巨大なダンスホールへと移動。

 そこが今日の舞踏会会場である。

 私は色々と挨拶をして、ダンスパーティを開始。


 最初にローレッタと優雅に踊った。

 いつも一緒に練習しているので、私らの息はピッタリ。

 拍手が巻き起こるほど上手に踊れた。

 ま、私も令嬢として、大公として、成長してるってことだね。

 次は予定通りクラリスと踊る。


「それにしても、ミアは本当に大公になりましたのね」

「そうだね。クラリスもうち来る?」

「と、言いますと?」


 私たちはダンスしながら会話している。


「20歳で政略結婚するなら、こっちで相手を見繕うからローズ公国においでよって話」

「なるほどですわ。隣国との関係を深めるという意味でも、悪くありませんわね。まぁ、相手次第な部分はありますけれど」

「ちなみに相手は架空の相手」


「はい?」とクラリス。


「結婚したことにして、うちの国を拠点に冒険を続ければ良い。財宝見つけたら少し分けてね?」

「それが叶うならぜひ!」


 ダンスの途中なのに、クラリスが私を抱き締めた。

 でもすぐ正気に戻って、ダンスを続ける。

 さっき抱き締めたのもダンスの一環だよぉ、という風を装って。


「アタクシ、結婚なんて全然、興味ありませんのよ」クラリスが嬉しそうに言う。「ミアのために、沢山の財宝を見つけて来ますわね」


「君が君のための人生を歩めるなら、私はそれだけで嬉しいよ」


 私はクラリスの頬に軽くキスをして、ダンスを終えた。


「人間は自由であるべきだ、って団長もよく言ってたよね?」

「ふん。私はもう君の団長ではない」


 私はアスラの手を取って、ダンスを開始。

 ドレス姿のアスラは、目が覚めるぐらい美しかった。

 ちょっと人知を超えるレベルで綺麗だったので、私はアスラの頬を舐めてみた。

 だって美味しそうだったんだもん!


「お、おい……、なんてことするんだ君は……」アスラが苦笑い。「何人か見てたよ? まぁ躱さなかった私も私だけれど」


「まぁまぁ」


 私はニコニコと言った。


「それにしても、こんなに早く国を手に入れるとはね」

「ふっ、アスラの国を超える軍事国家にする」


「それはとっても楽しみだね」アスラが嬉しそうに言う。「正直、現代兵器を使えるなら世界征服できるんじゃないかな?」


「いやいや、使えるの私だけだし、私が死ねばそこで終わり」私が言う。「だから現代兵器は個人利用だよ、基本的には」


「なるほど。それは良かった」

「良かった?」

「創造主様に目を付けられそうだからね、現代兵器をばら撒くと」

「創造主様ってユグドラシル?」

「うん。でも個人利用なら気にしなくていい。君はとりあえず富国強兵したまえ。いつか私らと戦争できるように」

「100年後とかになりそう」


 現時点で、《月花》には到底及ばない。


「いつまでだって、待ってあげるよ」

「それはそうと、《月花》を見学に行ってもいい?」

「いいとも。正式に招待しよう。いつがいい?」

「しばらく忙しいと思うから、来年の春ぐらいで」

「分かったよ可愛い子」


 ダンスが終わり、アスラが私の額にキスをした。

 きゃあぁぁあ!

 アスラみたいな美少女にキスされたらぁぁぁあっぁ!!

 理性がぶっ飛ぶぅぅぅぅぅぅ!

 ふーはーふーふー。

 小さく深呼吸を繰り返し、私はなんとか正気を保った。

 しかしそれも束の間。

 アスラに寄ってきた超絶美形青年を見た瞬間、私は彼に抱き付いた。

 攻略対象者を凌ぐレベルのイケメンだったのだ。


「はっじめましてぇぇぇ!! ローズ公国の大公!! ミア・ローズでぇぇぇす!! イケメンのお兄さぁぁぁぁん!! 今度一緒に激戦地巡りしませんかぁぁぁ!!」


 あとで知ったのだけれど、彼の名はラウノ・サクサと言って、アスラの部下だそうだ。

 アスラがエスコート役として連れて来たみたい。

 そして。

 ローズ公国の大公閣下は幼いけれど美形好きという噂が飛び交った。

 将来は逆ハーレムを目指しているとか、色々と尾ひれがくっ付いた。

 まったく、根も葉もない。

 ごめん、本当ごめん。

 根と葉しかないよね!

 ローレッタに叱られながら、私は半泣きで謝った。 



「つまり大公閣下は、我が国においては全ての爵位を当代爵位にしたいと?」


 ローズ公国宰相スヴェン・エーリクが言った。

 スヴェンは44歳の男性で、私が【全能】で選んだ宰相だ。

 ここはローズ公国、首都ロージアのお城。

 大公の執務室。

 私は執務机に向かって座っていて、宰相のスヴェンは執務机の向こう側に立っている。


「そう。伯爵領を治める伯爵は常に【全能】で相応しい人物を選ぶ」


 もちろん、男爵もそうだし、各種大臣もそう。

 ローズ公国は私の独裁国家にするのだ。

 少なくとも私が生きている限りは、その方がいい。

 なぜなら全能人事があるから!

 人の上に立つって意味じゃ、私ほど向いている人間もいないと思うよ!

 なんせ、最高の適材適所を叶えることができるんだもの。

 まぁ、本当は限定的だけどね。

 魔力の都合上、全国民から選ぶような真似はできない。

 だから、すでにある程度、実績のある人間を集めてその中から選抜している。


「ふむ。無能が爵位を継いで、領地を衰退させないように、という配慮ですな?」


 スヴェンは白髪混じりの紫の髪をオールバックに整えている。

 体格は普通。

 イケメンってほどではないけど、まぁ悪くもない顔立ち。

 44歳だし、こんなもんかな、って感じ。

 平民出身で現在は準男爵。

 宰相の前は国家運営省に勤務していた。


「それもあるけど、子供が可哀想じゃん?」

「と、いいますと?」

「領地経営なんか、したくないかも」

「なるほど。我が国ではみなが生き方を選べるように、と?」

「そう。だからこその当代爵位であり、公立アカデミーなわけ」


 公立アカデミーでは、専門的なことを色々学べるようにしたい。

 領地経営も含めて、ね。

 好きなことを好きなだけ学べるようにしたいのだ。


「国家の衰退は即ち人材で決まりますからね。大公閣下は実に賢い。8歳とは思えませんな。それも【全能】の力でしょうか?」

「そう。【全能】の力」


 ってことにしておこう。

 前世を覚えている、という話よりは信じやすいだろう。


「とはいえ、公立アカデミーが運営できるのはまだ先の話になるでしょうな」

「だろうね。私の12歳に間に合えばいいよ」

「大公閣下も通うと?」

「もちろんだとも」


 私だって青春したい。

 ハンカチ落としてイケメンが拾ってくれるとか、そういうの。

 ふふふ、ふふふ。


「それは、どういう表情で?」とスヴェン。


 コホン、と私は咳払い。


「今から楽しみだなぁ、と」


「……そうですか。まぁ、まだ3年以上ありますので、開校は大丈夫でしょう」スヴェンが言う。「それより爵位授与式の方は私が進めたのでよろしいですか?」


「うん。宰相に任せる。その間、書類系統は私に回してくれていい」


 ちなみに、大切な役職の人間は全て【全能】で新たに選んだ。

 悲しいことに、この領地がローズ公国として独立した時、全ての貴族がホーリエン王国の中央へと引っ越した。

 ふっざけんなボケ、誰か残れよ、と心から思ったけど無理強いはできない。

 おかげで伯爵も男爵も大臣もみーんないなくなったのだ。

 建国記念式典までは義理で残ってくれてたから、まぁ特に支障はなかったけどさ。


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