6話 誘惑なんてしてないよっ!


 宿はかなり綺麗なホテルだった。

 ちなみに、この世界において宿屋とホテルには大きな違いがある。

 1番はセキュリティ。

 ホテルの方が格段に高いのだ。

 ホテルによっては、警備員を雇っている場合もある。

 建物も頑丈で、基本的には綺麗。


 まぁ、その分、値段が高くなるけど、公爵家の私らにはあまり関係ない。

 旅費というか、ホテル代はちゃんと家が出してくれた。

 セシリアが取った部屋は2階に2部屋。

 両方とも4人部屋で、このホテルの中では1番いい部屋だった。


「私の部屋より広いね!」


 部屋に入った瞬間、私はちょっと興奮した。

 綺麗だし、オシャレだし、高級感があっていい!


「なかなかの部屋だ」


 アランも頷いている。

 ちなみに部屋割りは、私、ローレッタ、セシリア、アランが同じ部屋。

 私とローレッタに護衛など不要だと、側仕えたちも騎士たちもすでに理解している。

 で、フィリス、グレン、ニーナの3人が同じ部屋だ。

 私たちはさっさと荷物を整理。

 さて部屋着に着替えようと、私が軍服ワンピースを脱ぐ。


「ミア様!?」

「お姉様!?」


 セシリアとローレッタが慌てて言った。


「え? 何? 今日はもう出ないから部屋着にしようかと思ったんだけど?」

「アラン王子殿下がいることをお忘れですか!?」

「だから、アランは向こうの部屋にして欲しかったんです!」


 2人とも酷く焦っているけれど、アランは子供だよ?


「見てない! オレは何も見てない! 大丈夫!」


 アランは顔を真っ赤にしていて、思いっ切り私と目が合っている。

 そのことに気付いたのか、ハッとしたような表情を浮かべ、クルッと後ろを向いた。

 気にしなくていいのに。

 私の7歳の身体に欲情するとか有り得ない。

 まぁ、大人のロリコンなら別だけどさ。


「ああ、ミア様! アラン王子殿下を守る責任があるとかなんとか、上手いこと言っていましたが、本当は誘惑するつもりで同じ部屋にしたのですか!?」


 セシリアは私の目の前に移動し、膝立ちになって目線を下げた。

 実はこの部屋割り、私の意図が介在している。

 アランは絶対に同じ部屋にしてくれと頼んだのだ。

 理由はセシリアの言葉通り。

 何かあったら困るので、私が直に守ろうと思って。

 まぁ、私が大会に参加している間は、2人の騎士たちに任せるけれど。


「まず軍服を着てください!」


 ローレッタが怒った風に言ったので、私は急いで脱いだ服を再び着る。

 そんなに怒らなくても。


「オレは、誘惑なんて、されないぞ……。ミアは、綺麗だし、良い匂いがするし、今まで出会ったどんな令嬢とも違っていて、個性的で、だけど……」


 あは!

 綺麗だって!

 まぁ、私ことミア・ローズは美人だからね!


「お姉様! 表情! アラン! 余計なこと言わない!」


 ローレッタがサッと私を睨み、次にサッとアランを睨んだ。

 でもアランは後ろを見ている。


「もう着たから、こっち向いて良いよ」


 私が言うと、アランはおっかなビックリ振り返る。

 まだ顔が赤い。

 さすがに怒ったんじゃなくて、照れたんだと分かる。

 ふむ。

 私の精神が大人だから、子供の下着姿なんかに興奮しないと思っているだけで、同年代のアランは興奮しないまでも、困るのかもね。


「それでミア様? アラン王子殿下を同室にした真意を、正直に話してください。今なら怒らず、部屋割りの再検討だけで済ませますから」


 セシリアはまだ私を疑っているようだ。

 いくら私でも、7歳のアランを襲ったりしないし、誘惑もしない。

 出会った瞬間に抱き締めて振り回した私が言っても、説得力皆無だけどね!


「守るためだよ。こういう、ホテルにいる時、気が抜けている時が1番危ないんだよ。だから私が直接、護衛するためだよ。王子様だからね。拉致しているわけだし、何かあるとまずいからね」


 私は真っ直ぐにセシリアを見て言った。

 嘘は吐いていない。

 まぁ、そりゃ?

 ちょっとぐらいは?

 ラッキースケベみたいなこと?

 あったらいいなって?

 思ってなくも?

 ないけれど?

 少なくとも?

 風呂上がりのアランのスチルとか?

 あったらいいなぁ。


「お姉様! 表情!」


 ローレッタが私の背後に回り、バッチーンと私のお尻を叩いた。

 あまりにも痛かったので、私は飛び上がった。

 力の伝え方が上手くなってるぅぅ!

 お姉ちゃんに対して全く容赦のない一撃!

 まさに傭兵っぽくていい!

 あ、ローレッタは傭兵じゃなかったね。


「ミア様……」セシリアが苦笑い。「ちょっとミア様は殿方に興味を持ちすぎています。いえ、持ってもいいのですが、もう少し控えてください。部屋割りは変更します」


 ああんっ!

 風呂上がりスチルがっ!

 ゲームではあったんだよね。

 ノエル好きだった当時の私でもドキッとしたもんなぁ。

 なんだかんだで、アランの代わりにニーナがこっちの部屋に来た。

 フィリスは向こうでアランのお世話をするらしい。

 セシリアがそう采配して、ローレッタが許可を出した。



 翌日。

 戦闘大会の予選があるので、私たちは闘技場へと向かった。

 予選はバトルロイヤル方式で行われる。

 10人ずつのグループが16個あって、今日中に4個のグループが予選を行う。

 私は3番グループで、ローレッタが4番グループ。

 とりあえず、私たちは選手とその関係者用に用意された観客席に座る。

 前の席なので、試合がよく見えるに違いない。


 ちなみに、3階のVIP席にクラリスとジェイドがいるはずだ。

 まぁここからはよく見えない。

 さて、私たちの席順は、私の右手にローレッタ、左手にセシリア。

 セシリアの左にグレン、ローレッタの右にアラン。

 アランの右にフィリス、ニーナという順番。


 ああんっ!

 昨日から私とアランの接触をローレッタが阻止してるぅ!

 私の考えでは、私の左右にアランとローレッタをはべらせて、両手に花の予定だったのに!

 そんなことを考えていると、1番グループの10人が闘技場内に入ってきた。

 その中にナヨリちゃんがいた。

 さすがに目立つなぁ。

 若い上に、かなりの美人だから。


「さてオレちゃんは実況のアーノルド・サントスだぁ!」


 鉄製音響メガホンを通して、アーノルドが言った。

 アーノルドは実況席に座っている。

 アーノルドは赤茶色の髪で、見た目は30歳前後。

 顔はまぁ普通。

 動きやすそうな濃い緑の服の上から、マントを装備している。

 この気候でマントは暑いんじゃないかと思ったけど、まぁ私には関係ない。


「オレちゃんの隣に座っている美女は、かの有名な魔獣ルーナリアンの師匠、通称ピンクの魔女さんだぁ! ちなみに、解説役な!」


 あ、そっか、この催しって冒険者ギルド主催だったね。

 アーノルドはたぶん、現役の冒険者だ。


「どうも。魔女さんよ。ルーナリアンが小さい頃から、2人を愛で……いえ、育てたわ」


 鉄製音響メガホンを通して、魔女さんが言った。

 魔女さんは20歳前後の見た目だが、たぶん実際にはもっと上だろう。

 サルメとかと同じ雰囲気がする。

 傭兵って意味じゃなくて、年齢をごまかしているって意味。


 だってルーナリアンって2人とも20歳ぐらいだったはずなので、同年代だと『小さい頃から』という言葉と矛盾するのだ。

 ちなみに、魔女さんは確かに美女だった。

 整った顔立ちに、珍しいストロベリーブロンドの髪色。

 ただ、服装が、めっちゃダサい。

 なんかこう、物語の魔女が着ているような、紫のなんかよく分からないダサいローブみたいな服装。


「さぁて、魔女さん、1番グループの推しは!?」

「当然、ナヨリちゃんと言いたいところだけど、あの子、ロリ詐称だわ。わたしのロリっ子識別脳が、あの子は本物のロリじゃないって告げている……」


 魔女さんが言うと、闘技場内のナヨリちゃんが大きく手を振った。

 そうすると、観客たちが割れんばかりの歓声を上げた。


「魔女さん! そうじゃねーよ! 強さだよ強さ! 予選突破しそうなのは!?」

「それもナヨリちゃんでしょ」


 魔女さんは確信を持った声で言った。

 私もナヨリちゃんは強いと思うけど、さて、どんなもんか見てあげようじゃないか!

 

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