第33話 作戦
「あの……『ニューワールド』って今日ログインできましたか? 私、何度ログインしても強制終了してしまって」
「オレも一緒。なんどやってもダメ。それでレモンとアセロラに食ってかかってとこ」
一葉の質問に純也がおどけて答えた。
「あのお二人は……」
「私はデータマーク社で『ニューワールド』チームのメインプログラマーをしている黄木藍子です」
「あ、青山一葉です」
「オレ、黒沢純也」
「よろしくね。そして、こちらが『ニューワールド』の生みの親、赤坂渉くんです」
「う、生みの親ぁ!?」
純也が素っ頓狂な声を上げ、一葉は目を瞠った。
「え、これってオレと同じ高校生が作ったのかよ……しかも、同じ学校……だよな?」
「あ、はい……僕は一年なんで」
「そっか。オレは二年」
「やっぱり先輩なんですね」
「おう。よろしくな」
純也が渉に対してにっかりと笑った。
「あの、もしかして『ニューワールド』の開発に携わっているお二人がいるのは、今回のことと何か関係があるんですか?」
「そうなの。社内で『ニューワールド』チームを上げて復旧作業をしてるんだけど思うようにいってなくて、生みの親の渉くんに協力を仰いでいたとこよ」
一葉の質問に藍子が丁寧に答えた。
「あの……昨日私はアセロラさんを残してログアウトしてしまったんですけど、あの後何かあったりしませんでしたか?」
一葉は渉に質問すると、それを追うように藍子と純也が渉を見た。
「そうだ! あの……それなんですけど、昨日ライチと初めて会って話したんです」
「は? マジ?」
「渉くん、ライチさんと会ったことなかったの?」
びっくりした藍子と純也に、渉はこくりと頷いた。
「そうなんです。それで、それで……」
渉は一連のことを思い出し、震える手を内心で叱咤してぎゅっと拳を握った。
「ライチが『おしまい』って言ったら、轟音がして『システムを破壊した』って言ったんです。ライチの背にはどす黒い空間が渦を巻いていて……ブラックホールみたいな。そこに何もかもが呑み込まれていったんです」
誰かのごくりと唾を飲んだ音が響いた。
「システムを破壊する……ライチさんが言ったのね?」
「……はい」
「何でそんなこと……」
「わかりません」
渉の返事に純也が眉間にしわを寄せた。
渉の話を聞き、思うことがあったのか藍子がパソコンに向かうとキーボードを叩き始めた。
渉が覗き込むと、『ニューワールド』のシステムを開いてプログラムを確認していた。
「ふーん、なるほどねぇ」
「どうしたんですか?」
打つ手を止め腕組みをした藍子に渉は話しかけた。
「ここ、見てくれる?」
藍子がパソコンの画面をこつんと指先で叩いた。
「システム内に外部からのハッキングされてる跡があるわ。巧妙に仕掛けられてたから気がつかなかった。しかも面倒なことにパスワードでロックされていて、当人でなければ解決出来ないもののようね」
「は? じゃあ、ライチに会わなきゃいけねーじゃん」
後ろからパソコンを覗き込んでいた純也が言った。
「またミラクル起こすの? さすがにそれは無理ゲーじゃね?」
「ユーザーのデータを辿ってみたら分かるかも。ただ『ニューワールド』はありがたいことにユーザーの人数が多いからね。時間はかかるわ」
藍子がふぅと溜息を零した。
「ライチさんは他に何か言っていませんでしたか? 手がかりのような何か……」
「手がかり……」
一葉の質問にうーんと渉は首を捻った。
「あ……そう言えば……君は誰だって聞いたら『あなたの知っている人よ』って」
「それじゃん!」
純也は声を上げた。
「知り合いにそういうことができるヤツいねーのかよ?」
「ハッキングしてシステムを破壊できるような知り合いなんていないですよ。あ、でもこういうことも言ってたな」
「どういうことですか?」
「『あなたがなかなか見つけてくれないから』って……」
渉は自分でそう言うと頭に過ったことがあった。
――見つけてくれた……?
彼女は確かにそう言った。
先日倒れる前に近づいていたらしい学校の旧棟。そこにいた彼女。
話していることが一致していて、渉ははっとなった。
「あの……可能性を潰していく意味でも提案なんですけど」
「何?」
三対の瞳が渉をじっと見つめた。
「五色学園の高等部に旧棟があるんですけど、そこに生徒が閉じ込められているっていう噂話があるんですよ」
「マジで……?」
純也の問いに渉が頷くと、純也がごくりと唾を飲み込んだ。
「僕、この間偶然見てしまって……多分昔の保健室だと思うんですけど、そこに女子生徒がいたんです。僕が覗いてみたらその子がぱっとこちらを振り返って、『見つけてくれた……?』って聞いたんですよ」
「『見つけてくれた……?』って、なんだかライチさんと同じようなことを言うのね」
「僕もそう思いました」
片眉をぴくんと跳ね上げた藍子に渉は同意した。
「あなたに見つけて欲しいということでしょうか?」
「わからないですけど……偶然で片付けるには惜しいというか」
「そうね。閉じ込められているかどうかはわからないけど、可能性を潰していく意味でも接触してもいいと思うわ。渉くん、その子に会うことをお願いできる?」
藍子が情報を判断して渉に頼んだ。
「けど、ただその子には二人組の大人がいて、簡単に接触はできないかも……」
「なんだよ、その二人組の大人って」
純也が怪訝そうに渉に聞いてきた。
「先輩知りませんか? 学校のメンタルケアを担当する二人組の先生が、最近来ていたみたいなんです。精神科医の月島先生と竹橋先生っていうらしいんですけど、その二人が怪しすぎて……」
「ふーん、確かに怪しいな。だったら、オレも一緒に行ってやるよ」
「本当ですか!?」
「お前一人じゃ心もとないしな」
「ありがとうございます!」
にっと口の端を上げて笑った純也に、渉は心強さを感じた。
「わ、私もついて行っていいですか!?」
「え……っ」
一葉の申し出に渉と純也が目を見開いた。
「……真実を知りたい」
一葉の瞳に力が入っているように見えて、渉はこくりと頷いた。
「分かりました。一緒に行きましょう」
「ありがとうございます」
「私は『ニューワールド』のユーザーのデータからライチを辿ってみるわ。分かり次第、みんなに連絡を入れるわ。そっちの件は三人に任せたからね」
藍子の言葉に三人は強く頷き返した。
そして、その場で四人はスマホで連絡を取れるように確認した。
「ほいじゃあ、いつ学校の旧棟に行く?」
「そうですね……」
純也の質問に一葉は顎に手を当て考え込み始めた。その隣にいた渉が声を上げた。
「あの、夜はどうですか?」
「忍び込むってことかよ?」
「僕、一応理事長の息子なんで門を開けることができるんです」
「は? お前、理事長の息子なの!?」
「えっと、そうなんです」
純也は驚きすぎてぽかんと口を開けた。
「それに夜なら先生方もほとんど帰っていると思うんで、接触しやすいんじゃないかなって」
「そうですね。夜なら姿も見えずらいでしょうし、部外者の私がいてもわからないんじゃないかと思います。夜にしましょう」
「そうだな。そうしよう! 夜の学校なんてすげーヤバイな」
渉の提案に一葉が同意し、純也は目を輝かせた。
「じゃあ、決まりですね。僕、出発するまでに鍵を取ってきます」
「お願いします」
「今日のオレらは陽が落ちてからが勝負だな」
にやりと笑った純也に渉と一葉がこくりと頷いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます