第81話

「でもね、吉原さんの事、駄目になって良かったかもよ」


「どうして?」


「聞いた話だと、吉原さん。親の介護してくれる人を探してるって言ってたそうよ」


「え? 介護」


「詳しくは知らないけど、父親が寝たきりで、母親は介護疲れで入院してるそうよ」


「へえ?」


小西は、ほっとしたような返事をした。


「それで言いなりになりそうな娘を探してるんじゃない?」


「私、里井さんのお陰で、涙が引っ込んだわ」


小西は急に晴れ晴れとした声になった。


「はは、現金ね!」


「当り前よ。相手の親の介護のこと、考えないわけじゃないけど。まだ若いんだもん。結婚したとたん、介護なんて嫌よ」


「でしょ? 吉原さんは伊藤さんにあげたら?」


「そうする。私、次の恋を探すわ。今度はややこしくない次男が良いな」


「そうよ。長男とか一人息子って言うのはやめといた方が良いかも」


呆然としていた花音は、給湯室から出てきた二人とぶつかった。二人は花音に気付くとびっくりして、そそくさと逃げるようにその場を離れた。

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