第79話

「チャッピー~。今日だけだからね」


花音が少し怒った声で言うと、チャッピーは古城の影に隠れて出て来ない。その様子が可笑しくて、古城は笑ってしまった。


「いつもドッグフード?」


「はい。後は、塩なしで茹でたチキンとか野菜です」


「健康的だね」


「でも、チャッピーは私たちの食べ物のほうが好きみたい……」


「ははは」


何処がおかしかったのか、古城が笑ってくれたので、花音も嬉しくなった。


朝食をとった後、古城はシャワーを浴びて身支度した。


「あ、服……」


昨日と違うスーツを着ていた。


「ああ、アンディを送った後、取りに行ったんだ」


「あ、あの、ワイシャツ、洗っておきます」


「いいよ。いつも出してるから、気にしないで」


花音は、もう少し粘ってみたかったが、プロより自分が上手とも思えないので、黙ってしまった。ションボリしてしまう花音。


「何枚か持ってきたんだけど、どこに置けばいいかな?」


「あ、あの、この部屋使ってください」


花音は、パッと明るい顔をして、あの雨の日に用意した部屋へ案内した。


「今日は一緒に出よう」


古城は荷物を置くと言った。


「はい!」


朝の混雑する時間に出たが車の流れは良かった。古城は花音の会社の前に車を止めると、手を伸ばして助手席の扉を開けてくれた。


「着いたよ」


「あ、有難うございます」


「仕事が終わったら、お母さんの病院に行こう」


「はい」


「じゃあ、気を付けて」


「はい! 行ってきま~す」


扉を閉めると、古城の運転する車は走り出した。花音は見えなくなるまで見送っていた。


(ありがとう、ママ。ママのお陰で大好きなあの人と一緒にいられる。でも、あの人の目に私はどんなふうに映っているのかな……)


そう思うと花音の胸はキューっと痛くなった。


(でも、私はあの人の姿を見ていられるだけで、幸せ!)

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