第65話

「何がまずいだ。馬鹿者が。珈琲など淹れた事の無い会長が、お前たちのために一生懸命淹れてくれたんだぞ。有難く思え」


社長に怒られた二人はシュンとなったが、すぐに復活したアンディが言った。


「そんな事言うんだったら、今度、爺ちゃんの珈琲を飲んでみれば良いんだよ」


「いや、それは遠慮しとくよ」


社長が大真面目に答えたのが、おかしかったのかアンディはまた笑った。


「あ、でも、賢、親父と話し合ってたなら、なんで言ってくれなかったんだよ」


「聞かれなかったから、知ってると思ってた」


古城が当然のように言う。


「それはそうだけど……」


アンディは自分が知らなかったことが釈然としないらしい。


「それにしても、二人とも会長に付いてくれて有難かったよ。上手く事件の糸口を掴んで一気に解決してくれたし……こういう裁判は長引くと思って覚悟していたからね。ほんとに有難い」


「でも、当初は気分を害されたでしょう」


賢が申し訳なそうに言った。


「そうなんだよ。三友の洗い出しをしていると耳にしたときは、生意気だと思ったもんだ。内部調査くらい済ませてたしな」


社長がカカカと笑った。


「被害が日本の中小の病院に限られていたので、視点を変えて確認したかったんです」


「しかし、結局、賢の見立て通り、出てきたからなぁ……安藤のヤツにはしてやられたわ」


「ふつうは、横流しが一番考えやすいもんネ」


「うん。そう、でも、すべてLCMから入荷されたものが納品されていたんだ」


「だから、内部調査も逃れたんだネ」


「面目ないわ」


アンディの言葉に社長は頭をかいた。


「でも、その安藤サンも慌てただろうネ。LCMからの物だからこんな大問題が起きるとは思ってなかっただろう?」


「いずれにせよ、自業自得だよ。……LCM側の相手も特定できたんだけど、そこで行き詰ったんだ。LCM社の内部に立ちいる事ができなくて、証拠を集めが難航した」


「なんせLCMの副社長が相手だからなぁ……。設立から関わっているデービット氏。身辺調査に手間取るのは無理ないわなぁ」


社長が相槌を打つ。


「ええ」


古城は頷くと、コーヒーを飲んだ。


「そこへボクが訪ねてきたんだよね。成功したのはボクのお陰だよ」


「うん。ありがとう。お前が協力してくれなかったら解決しなかったと思う」


「う……そんな風に言われると居心地悪いな。お前の綿密な調査の成果だと分かってるよ。ボクはそれを確かめただけだからネ」


「いや、ふたりの力があってこそ解決できたんだと思うな。ほんと二人に感謝だ」


社長の言葉にアンディが嬉しそうに笑った。

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