第48話
翌日、祖父からのお土産をもって、古城とともに三田の病院へ向かった。
もちろん、チャッピーも一緒に。
「今日は行くって連絡してないから。ママ、ビックリしますね」
「そうだね」
「こんな風に驚かせるの初めてなんです。ママ、すごく喜んでくれると思います」
花音は嬉しそうに笑った。
「ママ、どんな顔するかな~? 楽しみです!」
病室の扉に手をかけると、
「……一度、きちんと説明を受けたいのです」
「ですから、いつも申し上げている通り……」
「……先生、私が聞きたいのは、どれくらい生きられるかということです」
「……な、何をおっしゃるんですか……」
担当医の瀬戸の声だ。
「ここに移って大分なりますのに……弱るばかりです。健康になりたいなんて思っておりません。でも、もう少し普通の生活がしたいのです。」
「ご不安は分かりますが、目立った発作もなく安定しています」
医師は、落ち着いた口調でゆっくりと答えている。
「そうおっしゃいますけど……、日に日に体力が落ちているのが自分で分かります。死を近くに感じるのです。出来るだけのことをしたいのです」
「それは……」
話の途中だったが、花音は思わず病室の扉を開けた。
「まあ、花音!」
母は驚いたように花音を見て、下を向いた。そして、聞こえないぐらい小さな声で言った。
「……い、今の話を……?」
「盗み聞きして、ごめんなさい。ママ。ねぇ、ママの病気のことで私の知らないことあるの?」
「花音……」
「ママ、今、どんな状態なの。私にも分かるようにはっきり教えて……」
「……花音……」
花音の言葉に頷いて、母は医師の方にきちっと向き直った。
「先生、先生が優秀な医師と言うのは重々承知しています。でも、これから、自分の体がどうなっていくのか、心配で仕方がありません」
「しかし……」
医師は言いよどむ。緊張した空気が漂う中で、言葉を発したのは古城だった。
「発言してもいい?」
古城が花音に少し覗き込むように言った。
「え? あ、はい」
「私はこういう者です」
古城は名刺を差し出した。受け取ると、医師は名刺をジッと見た。
「私は担当医の瀬戸と申します」
「よろしくお願います。早速ですが、ここでカルテを拝見してもよろしいですか?」
古城は花音のママを見た。ママは深く頷いた。
「上司に確認してきます。でも、カルテを見てお分かりになりますか、その……」
「御心配には及びません。こんなに不安がられているんですから、すべてお話した方が良いと思います」
「……わかりました……」
しぶしぶといった様子だが、瀬戸医師はカルテを取りに行った。
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