第11話 情報収集の敵は、喰わず嫌い

 不可解なことが重なる。中酷の失態をアメリカのカード大統領が見逃すはずがない。しかし、自国のインフルエンザ、自身の再任のことがあったとしても静かすぎる点だ。それは、新型コロナウイルスがアメリカのハーバード大学のチャールズ・リーバー教授らから中酷軍の欧米各国へのスパイ活動で生まれたものであれば、殺人ウイルスを開発したのはアメリカである可能性が浮上する。そのウイルスを武漢のラボで手を加えた。それをずさんな管理で垂れ流した。盗んだ中酷、開発したアメリカともに公にできない事情が絡み合い、対岸の火事として扱っているのではないかと。

 新型コロナウイルスの起源はコウモリなどの自然界の動物由来のウイルスにしたい、それが本音だろう、とムハメドには思えてきた。

 ムハメドは、分子生物学の専門書を数冊、エドワードに依頼した。専門書を手に入れたムハメドは寝食を忘れて読み漁った。ムハメドは元々、医師を目指しアメリカのジョン・ホプキンス大学に入学したが、金銭的事情から道を踏み外し、気が付けば、モサドの一員となった逸材だった。患者の症状から出した結論は、風邪のウイルスにHIVやエボラ、マイコプラズマバクテリアなどをハイブリッドしたウイルス兵器だった。

 フェイクニュースも多々あった。高層の住居から拘束しにきた警察から逃れるためベランダから落下する衝撃な映像。しかし、それは仲違いから興奮した住人がべランドを乗り越え落ちた事故では。拘束に来た警官と事故を繋ぎ合わせたものではと疑って見ていた。また、下級職員の買収と言うものもあったがそれは違うと思った。それが可能であれば、潜入していた自分が任務遂行に苦慮などしない。

 実際、上級人民と下級人民の隔たりは大きく、蔑む視線は、嫌と言うほど浴びていた。そもそも、管理がずさんとは言え、実験室などの主要な場所には立ち入れなかったからだ。ムハメドが気になったのは、感染の速度の速さだ。


 自慢の家庭料理を持ち寄り皆で食べる春節を祝う伝統行事「万家宴」が2020年1月18日に行われた。今年は4万世帯が参加した。蔓延の引き金を引くのに十分な環境だった。この時、武漢市は41人の感染を発表していた。「人―人」感染の恐れは排除できないとしていた時期だった。上海市人民政府は感染ルートを直接感染、接触を通じた感染、そしてエアロゾル感染に注意喚起を促した。エアロゾル感染は空気感染とは違う。飛沫感染の延長だとムハメドは考えていた。空気感染なら研究所や職員その家族、その周囲に広がっていても可笑しくない。現に自分は濃厚接触の可能性があるのに今だに発症していない。保菌者かも知れないが。この段階では、マスク、手洗い、うがい、アルコール消毒を心掛ける。後は、重篤な感染に高齢者や疾病持ちが多い点から、免疫力を強めれば、ある程度は防げるのではないかと推察していた。

 幸い米軍の出してくれる食事は栄養価が計算されたものだと思えた。あとは、体力か。そう、思ったムハメドは、ストレッチで汗を搔くことに時間を割くことにした。


 香港人のスーパースプレッダーの出現は、デモの抑制だとも推察される。ずさんだったのはその人物の行動パターンを見誤ったか、ターゲットを間違えたか、今となっては知るすべがない。そこに、付け加えられた動画、記事に興味深いものがあった。

 ムハメドとエドワードは、イングランド(UK)がフェーファイを受け入れるタイミングで現れたイングランドの「スーパースプレッダー」の足取りを追ってみた。


1月20~23日、

 シンガポールの5つ星ホテルで開催されたビジネス会議に参加

1月24日、

 フランス南東部レ・コンタミンヌ=モンジョワのスキーリゾートに11人のグループで滞在

1月28日

 午後6時50分、イージージェットでスイスのジュネーブ空港を離陸。英ガトウィック空港に移動

2月1日、

 英南東部ブライトン近くのパブを訪れる

2月6日、

 シンガポールの会議の参加者から感染が確認されたことを知り、ブライトンの病院で診察を受け新型コロナウイルスの感染が判明(イギリスでは3人目)。ロンドンのセント・トーマス病院に移送

2月7日、

 接触のあったパブのスタッフが約2週間、自宅待機

2月8日、

 フランスのスキーリゾートで一緒にいた9歳児を含むイギリス人5人の感染が判明。子供が訪れた学校は予防措置として閉校

2月9日、

フランスのスキーリゾートからスペイン・マヨルカ島に移動したもう1人の感染も判明

2月9~10日、

さらに「スーパースプレッダー」と接触のあった5人の感染が判明。


イングランド公衆衛生局は「スーパースプレッダー」の足取りを徹底的に追跡し、感染の広がりを把握し、接触した人の割り出しに全力を挙げている。


 ムハメドは、自分で情報を得られない不自由さを思い知らされていた。感染者は犯罪者扱いか魔女狩りの対象者か。他人を思いやる綺麗事は、事が起きれば容赦なく対象者に牙を剥く。タブロイド紙が発症者の実名と写真を公表して物議を醸し出している。マット・ハンコック英保健相は既に「深刻かつ差し迫った脅威」を宣言、感染が疑われる人物については公権力を行使して強制隔離する態勢を整えてた。

 11日には「状況は良くなる前に悪くなる恐れがある」と警鐘を鳴らす。医師や病院の救急救命科で感染の確認され、一部の学校も閉鎖。ワクチンや治療法がない今は感染者や疑いある者を隔離して時間を稼ぐしかない。簡易検査キットの完成・量産が急がれる。このスーパースプレッダーは、シンガポールの5つ星ホテルで開催されたビジネス会議に参加している。ムハメドは「うん?」と疑問が湧いた。5つ星ホテル?ビジネス会議?中酷には、都市戸籍4億人と農民戸籍が9億人がある。アパルトヘイトってやつだ。都市戸籍を持ち、その中でも共産党員であり役職や利権を有する上級国民が存在する。農民戸籍は下級国民であり極貧の暮らしぶりだ。

 今の中酷を支えるのは、都市戸籍の者で成り立っている。よって、実質の人口は4億人だ。この中でも、北京・上海など都市民族が優先される。現に中酷への救援物資は、上級戸籍の住む、北京・上海に送られる。その際、中酷赤十字が物資の横流しで暴利を貪るのが実態だ。

 会議に参加した感染源が中酷人であれば、都市戸籍の者か、政府機関の者であることが容易に推察される。だとすれば、共産党の上部にも感染が蔓延しているはずだが、情報管理のせいか被害が聞こえてこない。参加した者は帰国したのか、隔離されたのか、隠蔽されているのか、分からない。

 日本ではダイモンド・プリンスと言う豪華客船が、香港人のスーパースプレッダーによって、地獄の日々を余儀なくされている。政府の後手後手の対応は非難されるべきだが、対応を優先する時期だ。失敗は成功の素。諸外国は日本の対応を教訓とし、同じ轍を踏まない対策を取るべきだ。

 WHOへの苦言は、その信用性の失墜で信じるに値しないことは、世界が知ったはず。中酷に毒されたWHOは最早、蚊帳の外。その情報に惑わされることなく、危機管理を行うのが最重要課題だ。

 感染を拡大させた香港人の感染ルートが不明だ。いや、情報を得られない。明らかにされないのは隠蔽か。なぜ、中酷人ではなく、香港人なのか。ムハメドはそこにきな臭さを感じ得ずにはいられなかった。

  ムハメドには、ある懸念が払拭できないでいた。それは鎮圧できない香港デモだ。中酷には世界の目が注がれる中、強硬手段が取れない。そこで、感染を蔓延させ、香港の国民の関心をそちらに向け、ワクチンを持って救世主のように現れ、信頼の回復と中酷の重要性を香港のみならず、世界にアピールする場に利用したのではと考えるようになっていた。

 イングランド(UK)もまた5Gの採用と中酷の重要性をアピールするために仕掛けられたものではないのか、そうでなければ、タイミング良すぎるのではと言う思いを払拭できないでいた。中酷は虚勢を張ることで巨大化を投影している実態の疑わしさが付き纏う。観光客が殆どいない街に煌々とイルミネーションが輝くようなものだ。華々しい実態は、閑散。それが中酷ではないか。限られた情報の中でその思いは強くなっていた。


 エドワードが面白い映像があると見せてくれた動画ある。周近併が共産党指導者らが執務する北京の「中南海」から8キロ北の地区を視察。マスク姿で市民から感染予防や生活の状況を聞き取ったものだ。これの何が面白いのか?うん?これは?

 国家主席の視察にしては、取り囲む人数が少ない。厳戒態勢を取ったとしても、エキストラを用意したものにしか見えない。映り込む建物も生活感も人影すら見えない。まるでゴーストタウン化した映画のセットか。何より奇妙なのがマスクが粗末なもの過ぎる。しかも、形も色合いも、今、配られてつけたような鮮度の良さが目立つ。小心者の周近併が渦中に飛び込むわけがない、これも仕込まれた指導力アピールの演出確定だな。この視察を受け、通信アプリの「微信」には「武漢へ行け!」と言う見出しが印象的だった。

 行動の全てが保身に走るもの。国民が苦しんでいる最中、重要指示をした1月20日にミャンマーへ行ったり、雲南で春節祝賀などをしており、北京にいなかった事実を隠すのに躍起になり、偽装工作を施す有様。パンデミックの責任は、周近併にある。

 日本のメディアは、どこを見ているのか。周近併国家主席を国賓として招こうとしている安倍内閣。こうして、外から見ていると他国のことながら、憤慨と共に警鐘を鳴らしたくなるのはなぜだろうか。とムハメドは苛立ちを覚えていた。


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