学区対抗戦 【完結】

竹馬 史

学区対抗戦

 仁美は、義父のぱんぱんに膨張した陰茎の裏側に、泣きながら舌を伸ばしてちろちろと舐めた。舌先が当たった瞬間、義父は「おっおう」と声を出して、瞳の髪の毛を掴み、その口に自らの陰茎を思い切り突き入れた。

「お、おおー…これが最後になるかも、なんて思うと、たまらないなぁ」

 義父はそう言いながら容赦なく仁美の喉奥に陰茎の先を当てて、自ら腰をピストンさせる。仁美は苦しさから涙だけではなく鼻水も垂らし、「うっうっ」と唸るだけだった。


 双葉は、次郎のことを思い、自室の部屋の窓から次郎の家の方向を眺めている。その首には首輪がはめられており、首輪から出る鎖は部屋の角に設置されたスチール製のベッドに繋がっていた。心配性な双葉の父親が、双葉が逃げないようにそうしているのである。

 酒飲みで暴力的な父親は、今日は上機嫌でいきつけのスナックへ行っているようだった。

「次郎――…」

 双葉は、ぽろりと涙を流した。その涙は頬を伝わり、床へとぽたりと垂れた。


 次郎は、「明日は絶対に勝て」と叫ぶ母親の言葉に耳を塞ぎながら、布団の中で丸まっていた。もう何度も聞いたその言葉は次郎にとって呪いの言葉であり、その言葉を聞く度に震えが止まらなかった。今夜くらいは、双葉と一緒に居たかった。きっと、みんなそうだろう。決戦前夜くらいは、最愛の人と居たいと思うのは不思議なことではない。

「次郎!明日は絶対に勝つんだよ!母ちゃんはその為だけにお前を育ててきたんだからねッ」

 ――ああ、もうやめてくれ…やめてくれ。次郎は呪いの言葉をその身に受けながら、布団の中でかたかたと丸まって震えていた。


 三平と美枝子は、同じベッドで抱き合いながら見つめ合っていた。この二人だけは特別で、自らの家族の為、自らの理由の為に、『自らの意志で』明日の決戦へと臨んでいる。

「美枝子、おれこえぇ、おれこえぇよぉ…」

「三平、泣いてももう変わらないのよ。もう、やるしかない」

「でもよぉ…でもよぉ」

「三平…大丈夫、新一がおれに案があるって言っていたでしょう?私達は、それに乗った。もう、どのみち引き下がれない」

 美枝子はそう言うと三平の頭を撫でて、頬にそっとキスをした。

「新一ぃぃ――頼む、頼むぞぉッおれこえぇ、こええよッ美枝子とも離れたくねぇよぉッ」

 三平は両目をぎゅっと閉じながら、そう言った。美枝子だって、怖くないはずはないが、三平の手前、気丈に振る舞っていた。だが、美枝子の瞳も次第に潤みはじめ、涙が溢れてくる。

「三平、私だって怖い、三平とも、みんなとも離れたくない。新一を信じよう?ね?もう泣くのはやめて、寝よう。明日に備えよう。新一が――私達のリーダーがいつだってどうにかしてくれたじゃない?今回だって――今回だってきっと――」


 新一は、夜空を見上げながら指を広げ、握り、また広げを繰り返した。そして大きく息を吸い込むと、自分が住むアパートを振り返り、目を細める。

(もう――後戻りはできない)

 口元をぎゅっと強く結び、そう心の中で何度も唱えた。そう――もう後戻りなどできない。すべての準備は整い、後は明日――決行するだけだ。

 そしてゆっくりと歩き出す。仁美のことを――仲間のことを思いながら。

(もう、後戻りはできない――)

 歩きながら、新一の瞳にも涙が滲んだが、溢れるほどではなかった。どのみち、彼には泣いている暇などない。

 明日は――学区対抗戦当日。彼にはもう、泣いている暇も、立ち止まっている暇すら――ない。

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