第六条 女だらけの大運動会~部活対抗リレー(決勝)~
第一項 委員長がアンカーじゃなきゃ負けちゃいますって!
え?
第1走者が委員長?
え?
委員長100mだけ?
え?
しかも、エア聖火ランナー理亞ちゃんが第3走者?
理亞ちゃん300mも走れるの?
私の頭の中から次々と
そして、我に返る私。
「って、いやちょっと、待ってください! 委員長がアンカーじゃなきゃ負けちゃいますって!」
「そうしたいのは山々なのだが、先ほどの騎馬戦で足を痛めてしまってな。100mが限界なのだ。」
な、なんですって?
言われてみれば騎馬戦の時、先頭騎馬の委員長は何回も右へ左へ華麗にステップを踏んでいた。そのことを考えると確かに、あの強敵が連なっていた壮絶バトルの騎馬戦。
多大なる負担が足にかかっていたことは私でも容易に理解できた。そう考えたら短い100mですら、委員長は走りきることが出来るのかと心配になってしまう。
委員長の言葉を聞いて、思わず駆け寄る生徒会長。
「零様っ!!」
「大丈夫だ百々花、大したことは無い。」
「零様のお気持ちは分かりますが、無理はなさらないでくださいませ。棄権しましょう。」
そうだ。
負傷した足を引きずりながら走ったら、ケガが更に悪化してしまう恐れがあることくらい私にも分かる。
「大丈夫だ。100mだったら何とか走ることが出来るから。カポエイラの試合でケガは日常茶飯事、もっと酷い時だってある。こんなケガなんて慣れっこだ。」
「零様……」
委員長はカポエイラ全国大会1位の実績を持つ。
カポエイラだって猛者揃いなのは間違いない。ケガをすることだって、そしてケガをおして戦うことだって普通にあるだろう。
それでも、こんな時でも珍しく冷静沈着な理亞ちゃんは質問するのだった。
「それで、第1走者は委員長として、他のメンバーはどうします?」
「ああ、そうだったな。第2走者、鬼龍院百花、第3走者、風祭理亞、そして、第4走者、アンカーは西園寺由宇。以上だ。」
ぐぇ。
ですよねー。
そうなっちゃいますよねー。
と思いつつも、ツッコミを入れずにいられない私。
だって、委員長、ケガしたとか嘘かもしれないしっ。100mは走るって言ってるんだから、私への嫌がらせかも知れないし。
だって、アンカーなんて、そんな責任重大な役割、プレッシャーに押しつぶされそう。さっき騎馬戦の騎手が終わってホッとしたばかりなのに、気を抜いたところへの怒濤の攻撃、みたいな。
流石の私も抗議せずにはいられない。
「え、えええええっー?! 何ですかそのツッコミどころ多すぎるラインナップはっ!!」
「そうか? 至極、正当なラインナップだが。」
「そんなあ……無理ですよう。」
「大丈夫だ。西園寺由宇、お前の100%を出してくれたらそれで良い。」
100%……痛いところをつく。
でも、さっきのリレー予選が100%ですよ?
200mでバテバテですよ?
でもなー。
女子走り生徒会長、エア聖火ランナー理亞ちゃんにアンカーを任せるわけにはいかないし、消去法で私しか居ないのも理解できる。ものスゴくイヤだけど。
「ううう……委員長が走れないんじゃあ仕方が無いですよね。でも負けても文句言わないでくださいよ?!」
「もちろんだ。悪いな、西園寺由宇。」
絶対、悪いって思ってないでしょ?
だって委員長、顔がニヤけてるもん。
となりで黙って聞いていた理亞ちゃんが、腕を組んで半笑いで言う。
「うーん、僕300mも走れるか自信ないっす! あはは!」
「その点については、心配していない。……だろ?」
だろ?
心配していない?
はて?
あのエア聖火ランナー理亞ちゃんを見て心配していないなんてセリフ、どこをどうやったら出てくるんですか?
スマホゲームのガチャでSSR出るくらいには低確率のセリフだと思うのですが。
それでも理亞ちゃんは頭をポリポリと掻きながら言うのでした。
「あちゃー。委員長には敵いませんね。わかりましたよ。」
「ふふふっ。頼んだぞ、風祭理亞。」
「はーい。らっじゃりましたー。」
なんだこの不思議なやり取り。
エア聖火ランナー300m頑張りますってことなのかな?
さすがに私、リカバレないよ?
だって、陸上部とか体育会系居るじゃん。ただでさえ無理なのにビリッけつ待ったなしな予感しかしない。
理亞ちゃんの軽いノリに思わず突っ込まずには居られない私。
「え、理亞ちゃん100mでもあんなだったのに大丈夫?」
「んー。どうだろ? 何とかなるなる。あははははっ」
「その意味あり気な微笑み、不安でしか無い。」
「まあ、楽しければいいじゃん。」
いつでも他人事、お気楽極楽な理亞ちゃんなのでした。彼女の脳は異空間を彷徨っているに違いない。そう思えるくらいには、ぶっ飛んでいる。
それでもさー不安でしかないよ。私は。
「そーだけどさー。理亞ちゃん歩かないでよ?」
「わかったわかった。」
「まったくもー。」
肩を叩いて私を宥める理亞ちゃん。
あくまでも他人事を貫くつもりらしい。変なところ頑固なんだからっ!
でもまあ、女子走り生徒会長が第3走者をやることも無いだろう。だって、生徒会長が第1走者と言うことは、生徒会長は第2走者しかやらないだろうし、また予選みたいにバトンの除菌とかやらされたら目も当てられない。
委員長は、言い合いする私と理亞ちゃんの肩を同時にポンと叩いて言う。
「ちなみに今、当委員会の順位は、陸上部に次いで2位だ。このリレーに勝たなければ逆転は無い。」
ちょいちょいちょいちょい!
おかしくない?
計算おかしくない?
「ええーっ?! リレー予選とか、騎馬戦とか勝ってるじゃ無いですか! 個人競技だって、私結構、一等賞な感じだったし、ダントツの1位だと思ってましたよ! まあ借り物競走はアレでしたけど……」
そうなのだ。
借り物競走はね、借り物がアレな感じでアレだったからね。もう黒歴史だから詳しくは言わないけれども。
なんだー。
1位かと思ってたのにガッカリだ。
騎馬戦の点数配分低かったのかな。
私頑張ったのに、泣ける。
委員長は、私の抗議に淡々と答える。
「まあ、そうなのだがな。他部は、部員数が多いから個人競技で点数を稼いでいたと言うわけだ。」
……え゛?
そりゃ全角使って濁点出したくもなりますよ。疑問を呈したくもなりますよ。
「ちょっと待ってください? 個人競技出たの私だけじゃ無いですか。各競技、各部1人の出場じゃ無かったんですか?」
だってさ、個人競技、私だけの出場だったじゃん。他の人出てないじゃん。理亞ちゃんなんて私の借り物競走、寝っ転がってポテチ食べながら見てたじゃん。じゃん。
要するに、有り得ない。
不満気な私のことを委員長は諭した。
「まあ、そう言うことだ。騎馬戦の騎馬は体力勝負だからな。他のメンバーには体力を温存させた。」
「ひどっ! ウチの委員会、ただでさえ人数少ないんですから、皆出てくださいよ!」
「まあまあ、体力の温存って言ってるじゃない。決勝で勝てばいいんだから。それに終わったことを言ってもしょうがないって。」
「もう! もうもう!」
出た。
他人事理亞ちゃん。
これが私の怒りを煽るんだよなあ。でも、怒る私をみて、更に理亞ちゃんは面白がるのはわかってるから、それ以上の深入りはしないけど。
――見つけたぞ!
――西園寺由宇!
……え、誰?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます