第二条 十文字爆登場

第一項 ポッケから、きゅんです。

 リア充爆ぜろ委員会。


 簡単に言えば、街中でイチャつくカップルを成敗する無茶苦茶な部活。


「無茶苦茶とは心外しんがいだな。」

「あ、委員長! 聞こえてましたか。」


 ヤバっ!

 思わず心の声がれ出てしまった。


「無論だ。この委員会は、女のことをとしか見ていない男どもから、女の子を救う団体なのだ。」

「委員長、かっこいい!」


 お気楽星人の理亞ちゃんが楽しそうに乗っかる。


 彼氏がいるのに「リア充爆ぜろ」とか、良く言うよ。私は、そんな彼女にいつも振り回されている。


 まあ、私も最愛なる彼氏がいるのだけれど。


 なんて、きゃっ!

 照れちゃう!


 なんてセルフ惚気をしている間に委員長と理亞ちゃんの話は進んで行く。みんなもっと私に興味持ってくれよ……!


「そんなに誉めるな風祭理亞。大したことでは無い。」

「いやいやー。委員長は私たちの憧れの存在ですから~。ねえ、由宇ちゃん?」

「……う、うん。」


 ほーんと、理亞ちゃん調子が良いんだから!

 そんなこと絶対思ってないでしょ?


 それでも理亞ちゃんのヨイショオンパレードを聞いて、委員長の顔は緩みっぱなしだ。


「そうかそうか。でも安心しろ。お前達も、すぐに私のようになれるさ。」


 委員長は何かを誤解しているらしい。

 思わず私の口から本音がこぼれ落ちる。


「別になりたくないけど……」

「何か言ったか?」


 私の言葉の端を聞いて、素早く反応する委員長。

 本当は聞こえているんじゃ無いと思うくらいには早い。


 それでも理亞ちゃんは委員長のツッコミに素早く反応する。

 

「なんでもないですよー! 早く委員長のように強くなりたいなーってことですよ!」

「そうかそうか。日々努力しろよ。」


 調子良いなあ。

 委員長から頭を撫でられる理亞ちゃん。


 でも、それはちょっと羨ましいかも。

 黒髪ロングで美人の先輩から頭ヨシヨシされるとか、ご馳走でしか無い。メシウマ案件だ。


 妄想しただけで白飯3杯はいけそうだ。


 って、いけないいけない。

 私も、この委員会に染まり始めているのかな。


 まだ2日目だぞ。

 しっかりしろ私。


 太鼓持ち理亞ちゃん。

 今日も前のめりで委員長に、お伺いを立てる。


「はい! もちろんです! ところで、今日のぜろ活動は、どんな感じで?」

「そうだな。町外れにある寂れた公園に行くか。」

「なるほどっ! あそこは公園と言いながら、全然子供なんて居ないしイチャつきカップルの温床になってますからね。」

「その通りだ。か弱き女の子を守らなければならない。」

「委員長かっこいい! さあ、行きましょ行きましょ!」


 委員長と理亞ちゃんの間で、とんとんとーんと話がまとまったようだ。


 理亞ちゃん、人を乗せるのが上手いからなあ。地頭が良いからかコミュニケーション能力が尋常ではない。ちょっとで良いから分けてほしい。


 理亞ちゃんは天性の太鼓持ち、略してだ。

 略してみたら、、音が似てる。どうでも良いけど。


 ある意味、間違ってない。


 これから公園かあ……行きたくなさすぎる。

 遊びに行くのでは無くて、わば狙撃、ハントしに行くのだから。


 犯行に付き合うとか普通に共犯者だよな。

 15才の若さで、自分の経歴に傷をつけたくなさすぎる。


「はあ、行きたくないなあ……」

「西園寺由宇……どうした?」

「あ、いえ、何でもないです。」

「西園寺由宇。お前は副委員長で、次の委員長候補なのだから、しっかりしてくれよ?」


 ちょ、ちょっと待ってください?

 今、さらっと大変、かつ重大なこと言いましたよね?


 私がリア充爆ぜろ委員会の次期委員長候補……?!


 リア充の私が、リア充爆ぜろ委員会の委員長?

 いやいやいや、無理っしょ。無理です。無理無理無理っ!


 むしろ、枯石委員長が卒業したら、即、この委員会解散するよ? ぶっ壊すよ?


 こんな委員会、後輩だって入ってくる訳無いし、学園の歴史上、汚点でしかないでしょ。


 そもそも私たちが入る前って、委員長委員、1人で委員会が成立していたのが不思議で仕方が無い。


 結論、無理。


「次の委員長?! 無理です! そんなの無理です!」

「何だ、イヤなのか?」

「そ、それは……」


 イヤなのか?

 って、嫌に決まっているけれど、その美しい瞳で真っすぐ見つめられたら、もうきゅんきゅん、きゅんきゅん丸で、言葉が出てこない。


 ふああああ……照れる。


 しゅき。

 ポッケから、きゅんです。


 私がモジモジしていると、理亞ちゃんが横からにょきっと現れた。


「イヤな訳無いじゃないですかー。由宇は照れてるんですよ! ね、由宇?」

「あー、うーん……」


 照れてる。

 ある意味正解だ。


 けれど、うーん。

 照れてるのは次期委員長に指名されたからでは無くて、枯石委員長から見つめられたからであって、でもこんなこと恥ずかしくて言える訳が無い。


 委員長は、満足気に微笑んだ。


「そうかそうか。照れる事なんて無いぞ。私に付いてくれば問題ない。すぐに私のようになれるさ。」

「きゃー! 委員長カッコいい!」

「ふふふ……さあ、行くぞ。」

「はい!」


 理亞ちゃんの水素より軽いんじゃないかと思うノリは、正直羨ましいとも思う。


 私は変なところ真面目なんだよなあ……私も理亞ちゃんみたいに、お気楽極楽人生を歩めたら、どんなに楽しいことだろう。


 はあーやっぱり行くのかあ。

 行きたくないなあ、行きたくないなあ。


 また暴行事件を目の当たりにしなければならないのか。かと言って私は、通報する勇気も無いし、ただただ付いていくだけ。


 委員長から私に何か、神に祈りながら、付いていくだけ。


「うーん……嫌だなあ。」


 私は地面に向かって、溜息を吐くのでした。

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