第四項 私、真面目に、真剣に、やってたから!
「ちょっとー?! なんで待っててくれないんですか?! 大変だったんですよ!」
信じられない信じられない、ほんっとーに信じられない!
だってさ、無理矢理、
私、本当にイヤだったのに、イヤだったのに、頑張ってやったのに、なんで、なんで、先に帰っちゃうの?
どうなの?
それ、人としてどうなの?
本当、人としてだよっ!
だって、男の人、血相変えて追いかけてきたんだよ?
本当、殺されると思った、死ぬかと思った。
で、だよ。
本当に頭にくるのは、前の話、何で理亞ちゃんが語り部をやってるのよ?
私でしょ。
この物語のストーリーテラーは私でしょ?
何か、私の決死のチャレンジが、ドキュメンタリーが、理亞ちゃんのお陰で、お笑い、コメディになっちゃってるじゃない。
いやいや、笑い事じゃないから。
私、真面目に、真剣に、やってたから!
リアクション芸人みたいに扱われるの本当、不本意でしか無い。
何で、理亞ちゃん視点な話になっているのかの意味が全くわからない。
はあはあ……
あ、ごめんなさい。
思わず興奮してしまった。
そんな頭に血がのぼった状況の私に、委員長は平然と言ったのだ、言い切ったのだ。
「期待以上の働きだったな。良くやった。もう大丈夫かと思って退散した。」
「全然大丈夫じゃないですよー! 殺されるかと思った。」
もう大丈夫。って、どこをどう見たら思えるのか。じっくりと、ゆっくりと解説して頂きたい。
一歩間違えたら、救急車案件だ。
――女子高生、男に撲殺される。
明日の新聞、地域版に載るくらいの出来事だ。地域版ってところが、またリアルでしょ?
理亞がニヤニヤと話しかけてくる。
「綺麗なフォームで走ってたじゃない。中学時代を思い出したよ。」
「こんなことで思い出さないで! 男の人に超追いかけられて怖かったしっ!」
まったく、他人事なんだから!
確かに中学時代は陸上をやっていたけれど、それとこれとは全く別の話だよ。それに、今後、陸上に関わる気は、全く無い。全く、だ。
「無事逃げ切れたようで何よりだ。これで正式に入会を認めよう。」
「ありがとうございます!」
「むしろ認められたくなかった……」
「何か言ったか?」
「いえ、何も。」
「うう……。」
どれが誰の会話かと言うことは、敢えて触れないことにしよう。賢明な私に同情してくれている読者様なら、きっとわかってくれることだろうから……
委員長は、私たちの方に向き直る。
「で、だ。委員が増えたことで、副委員長を決めたいのだが。」
「なるほど。お任せください。」
「おや、立候補か?」
お任せください。
もちろん、これは理亞ちゃんの言葉だ。
さすが、やる気満々で委員会に入っただけのことはある。
枯石零委員長、風祭理亞副委員長、まあ、なるべくしてなったと言うか、満場一致案件だ。そもそも他にやる人が居ないというのもあるけれど。
だがしかし、ここで理亞ちゃんが私の意に反して、とんでもないことを言い出した。
「いえ、由宇ちゃんを推薦します。」
「ええっ?!」
な、何言ってくれちゃってんの、この娘!
当たり前のように、堂々と胸を張って、むしろ私の方に手を向けて、前のめりで推薦する理亞ちゃん。
そんなの無理でしょ!
無理無理無理!
だって私、委員会を辞めたいくらいに思ってるんだよ?
これで万一、副委員長にされてしまったら、この委員会を辞めて軽音部に入ると言う私の野望は打ち砕かれてしまう。
そうだ、私から理亞ちゃんを推薦すれば良いのだ!
「わ、私は、理……」
「なるほど。では早速、決を取ろう。」
遮られたー!
委員長に、大事な私の言葉を遮られたーっ!
グルなの?
委員長と理亞ちゃんはグルなの?
グルグルなの?
私の居ない間に、談合でもしたの?
したり顔で同意する理亞ちゃん。
「ですね。」
ですね……じゃねぇよお!
勘弁してくれよー!!
私の意志とは別に、話は進んでいく。
「西園寺由宇を副委員長としたいもの。挙手を。」
「はい! はいはい!」
「ちょっと! 理亞ちゃんやめて!」
両手を挙げて挙手する理亞ちゃん。
両手挙げたところで、一票しか入らないよ?
手を挙げたのは、当然、理亞ちゃん一人。
間違っても私が手を挙げることは無い。
委員長は、理亞ちゃんの方を向いて、
「では、過半数を占めたので、西園寺由宇くんが副委員長で確定だ。」
だよね。
そうなるよね。
って、えっ?!
おかしい!
絶対おかしい!
私は慌てて委員長に噛みついた。
「何でですか! 理亞ちゃん1人しか手を挙げてないじゃないですか!」
委員長は、首を振り、私のことを
「いや、私と風祭理亞くんの2票。過半数だ。おめでとう。」
「おめでたくない! ひどい! 本人の意志は関係ないのですか?!」
「当委員会は、民主主義に準じているからな。全ては多数決によって決められる。」
「そ、そんな!」
意味が分からない。
多数決って、委員会3人で委員長と理亞ちゃんが組んだら、私の不都合なことが全て通ってしまうではないか。
委員長に批難する私のことを見て、理亞ちゃんが笑う。
「よかったじゃない。副委員長なんて肩書きだけで実質やることなんて何もないよ。」
「そんな
「そんなこと無いよ-。なるべくしてなった結果だと思うよ、僕は。」
確かに副委員長と言うポジションは、委員長の陰で何もやることがなさそうな気もする。
けれど、このリア充爆ぜろ委員会では、この常識が通じない。そんな気しかしない。
さっきのカップルへの特攻と言い、様々なミッションを課せられそうだ。
それを理亞ちゃんは、傍から見て笑うだけ。
そんなん、有り得ない。
私は、委員長に向き直る。
「じゃあ、理亞ちゃんは何をやるんですか?」
「えー。風祭理亞くんには書記をやってもらう。」
「かしこまりました! 委員会の全てを記録に残します!」
「おお、それは頼もしいな。」
まったく……調子良いんだから。
書記。
これもまた、微妙なポジションだな。
事によっては、理亞ちゃんに事実を曲げられて記録されそうだ。なんかもう、不信感しか無い。
委員長は、晴れやかな顔で私たちを見た。
「さて、役員も決まったことだし、次の活動にはいるか。」
「ええっ?! まだ何かやるんですか!」
いやもう、今日は十分に嫌なことがありましたよ。満載ですよ。これ以上、何をさせるのだ。
私の気持ちを知ってか知らずか、私のことを諭す委員長。
「当たり前だろう。『リア充爆ぜろ委員会』の本質を何だと思ってる?」
「わからないですよ。そんなの……」
「そうか。なら教えよう。リア充爆ぜろ委員会、これは世のカップルの親密度、どれだけ信頼関係が築けているかを推し測る団体である。」
初めて聞いた。
さっきのカップル突入で、どうやって親密度を推し測るのだろう?
どっちかと言うと……
「え、カップル達を別れさせる団体じゃなくて?」
「失礼なことを言うな。彼らが真の愛で結ばれているかを我らが確かめてあげているのだ。」
きっぱりと言い切る委員長。
絶対無いわ-。
私と理亞ちゃんは、こそこそと小声で囁き合った。
「うわー。うそくさーい……単に
「まあまあ、そんなのどっちでも良いじゃないか。あまり聞き分けの無いことを言うと、由宇がリア充ってこと、バラす、よ?」
「そんな! 理亞ちゃんだって!」
き、汚い!!
理亞ちゃんも彼氏いるじゃないか。
あ、私、彼氏がいるってことバレた方がいいんじゃない?
そうしたら委員会から抜けることができるかもっ!
……ちょっと待って。
もしかしたら、彼氏と別れさせられて、委員会に残される、辞められないと言うことも?
いやいやいや、それは最悪だ。
バッドエンドも良いところだ。
私たちの様子を見て、委員長は首を傾げる。
「どうかしたか?」
「いえ何でもないでーす! ところで、委員長に見本を見せて欲しいんですけどー!」
「そ、そうですよ! やらせてばかりじゃ無くて、自分でやってみせてください!」
おおおっ!
それは名案だっ!
理亞ちゃんにしては、珍しく良い提案をした!
委員長自ら動いてくれたら、少なくとも私に被害が及ぶことは無い。
私は理亞ちゃんに乗っかった。全体重をかけて。
委員長は、少し考える素振りを見せる。
「うーむ。なるほどな。……よし、わかった。」
おおっ頷いた!
喜ぶ理亞ちゃん。もちろん、私もだ。
「さっすが委員長!」
「やったあ!」
「じゃあ、移動するぞ。」
委員長は、私と理亞ちゃんを引き連れて学校の外に出た。
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