とある予知能力者の異世界召還(魔王:ショートver)

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とある予知能力者の異世界召還(魔王:ショートver)

とある異世界の魔王城の奥深く。

魔王と側近達が膨大な魔力を巨大な召還陣に注いでいた。

魔族達の命運を救う為に。


人族から送り込まれ続ける、異世界から召還されし勇者とその仲間達。

倒しても倒しても、後続は絶えない。

魔族と人族との間は永き時を争い続けてきた。

一進一退の攻防は、人族が禁忌とされた異世界からの助っ人を召還し始めた事で天秤は傾いた。


その後数百年の間、人族の攻勢は続いた。

かつて半々の勢力で分かち合っていた世界の3/4の版図が人族の勢力下に置かれた。

勢力比が4/5にならんとする頃、ここ百年の魔王を務めてきたイージャに神託が下った。

相手にやられた事をやり返せば良い、と。

しかし勇者召還は人族最高の秘儀とされ、これまでどれだけ諜報部隊を差し向けようと魔法陣の一部でさえ盗み出せなかった。

人族にとっての邪神の助力で、魔王とその配下は魔法陣を整え、秘儀を執り行った。

召還されたのはただ一人の少女だった。

何の特別な力も持っていなさそうに見えた。

人族は多ければ一度に数十名を召還し、そのうち数名が特に優れた力を発揮し、勇者と呼ばれる特別な存在と行動を共にして魔族領へ侵攻し、虐殺と略奪に励んできた。

目の前の少女は、それら人族の英雄に立ち向かえるような存在には到底見えなかった。


だがしかし、魔神によって選ばれし存在だ。無力な筈が無いと、魔王は問いかけた。


「我は魔王イージャ。故あってそなたを元の世界からこちらへ誘った。いや強制的に召還した。人族のそなたに無理な願いかも知れぬが、人族に攻められ続けている我らに力を貸して欲しい」


そして淡々と状況を説明したイージャに、美しいとは言えぬ外見の少女は考え込み、尋ねてきた。


「人族は滅ぼすの?」

「いや、そこまでは考えていないが、せめて勇者召還は止めたいと願っている」

「新たな召還を止めるには、滅ぼさないとダメなんじゃない?」

「しかし、そなたも人族であろう?その、ためらいは無いのか?同族への情けなどは?」

「知らない人達だもの。関係無いわ。少なくとも、勇者召還の秘儀を行えるような連中は皆殺しにする事。それが私があなた達に協力する為の条件の一つ」

「わかった。可能かどうかはわからないが、最善を尽くそう」

「もう一つは、もしその目的を達成できたらでいいから、私と結婚して」

「・・・魔族の悲願を成し遂げられたのなら、いいだろう。魔王として魔神に誓おう」

「最後の一つは、私の言う事に従う事。どんな理不尽に思えたとしても。出来る?」

「・・・・・・それで悲願が達成され、魔族が守られるのであれば」

「守られるでしょう。守れるよう、私も、最善を尽くすわ。約束する」


少女は左手の小指を差し出してきた。

魔王が何のつもりか理解できず首を傾げていると、少し恥ずかしげに少女は言った。


「私のいたところではね、約束する時に、小指を絡めるのよ。いいからそうして!」

「こうか?」


イージャが自分の小指と少女の小指と絡めると、少女はひそやかな声で歌った。


・・・嘘ついたら針千本飲ます、と。


「あまり穏やかな歌ではないな」

「・・・嘘をついて罰を受けないよりは、マシでしょう?」

「それもそうか。にしても、そなた、その顔のあざはどうしたのだ?髪や服も濡れて汚れて」

「どうって事ないわ。いつもの如くいじめられて、誰も助けてくれないで、ついに最後まで盛り上がっちゃった連中に、屋上から自殺に見せかけて突き落とされてただけだから」

「ひどいな」

「そう思ってくれるのなら、魔族の方が人族より優しいのかもね。さ、時間が惜しいわ。とりあえず最初のお願いを聞いてもらおうかしら?」

「それもいいが、名前を教えてもらえないか?」

「ミク。未来と書いて、ミク。星川未来。ははっ、名前と顔は全然一致しなさ過ぎていじめの一因になってたんだけど、今はいいわ。忘れて。気にしないで」

「そうもいかない」


イージャは魔法でミクの傷を癒し、汚れを清め、髪を乾かした。魔族の衣装もいくつか用意させようとしたが、ミクは固持した。後でいいと。優先させないといけない事があると。


「何だそれは?」

「レベル上げ。パワーレベリング。出来るでしょ?」


 レベル1だと、1日1回で、ランダムで一つの事しか占えず、占える範囲も明日までだとミクは言った。


イージャは騎竜の鞍にミクを乗せ、その後ろに座り、魔王側近の訓練場ともなっている狩り場へと向かった。

そこで瀕死状態にまで追い込んだ魔物を拘束し、魔王の武器に手を添えさせてトドメを刺させた。


きゃっ、ケーキ入刀しちゃった、とかいうつぶやきが聞こえてきたが、意味はわからなかった。一匹だけでもレベルは25まで上がったらしい。


だが、日が暮れるまでひたすらに同じ作業は続けられた。一週間後、ミクがレベル100に達するまで。


「とりあえず100日後まで占えるようになったわ。作戦を立てましょう」


ミクは、人族の大攻勢がおよそ一ヶ月後に始まる事を告げた。そこで可能な限り魔族の軍勢を引きつけ、すり潰しながら侵攻。魔族中枢の援軍をおびき出したところに、勇者達が魔王城へ潜入。魔王を討伐する作戦だと。


過去に類似した作戦が無かった訳ではないが、わかっていても対応がむずかしかった。だが、ミクは言った。

「大丈夫。どんな相手がどこから来てどんな手を打ってくるのか、全部占えているから」


ミクの言葉は嘘ではなかった。こちらの奇襲は全て成功し、相手の有力な指揮官や強者達を次々と暗殺していった。彼女はそれだけでなく、勇者達の中に裏切り者がいる、と人族の軍勢に噂を流した。

あちらの偵察や陽動は全て潰し、指揮系統だけでなく後方からの補給線まで狙い撃ちにすれば、人族の軍勢の志気の低下は著しく、一部の国の軍勢は戦う前に引き返していった。


しかし勇者達は違った。孤立させられながらも、どの道魔王城へ潜入するつもりだったのだからと開き直った。


イージャはミクに尋ねた。

「彼らをどう迎撃するつもりだ?」

「迎撃?しないわ。魔王城、使い潰していい?いいわよね」

「迎撃せず、魔王城を使い潰すとは、どういう事だ?」

「勇者達、倒しても次のが召還されちゃうんでしょう?なら、閉じこめて出れないように封印して時間稼ぎするの」

「閉じこめられたとしても、勇者は規格外の存在だぞ?」

「それでも、どこでも好きなように転移できるわけじゃないんでしょう?なら、やりようはあるわ」


今代の勇者パーティーは、勇者、剣王(剣聖の中で最も優れた者が剣王として選ばれる)、聖騎士パラディン、賢者、大魔導師、聖女。

バランスの取れた強敵で、魔王が一人で戦えば勝負は五分五分以下で負けると見られていた。


「まともに戦う必要なんてどこにも無いわ」


ミクは魔王城をほとんど空城にして、あちこちに罠をしかけつつ、魔王の謁見の間への通路の壁にはいくつもの落書きを残した。


「これは、本当なのか?」

「さあ。占いでは、本当らしいわ」


落書きは、いわゆる醜聞だった。

勇者パーティーの男女比は4:2。大魔導師と聖女が女性。ミクの占いによると、魔王軍の諜報部隊もつかんでいない情報だったが、勇者も剣王も賢者も聖女に求愛していたが、聖女が実際に恋慕しているのは幼なじみでもある聖騎士。聖騎士はだが聖女は仕える対象として捉えており、実際魔王討伐後は王族と宗教勢力との合意で勇者と聖女が娶される事に決まっている事もあって、聖騎士は残る大魔導師に求愛していたが、大魔導師は剣王に惚れていて肉体関係まで持っていた。剣王は聖女にあこがれてはいたものの、やはり権力には逆らえないと内心あきらめてはいたらしい。


ミクが通路に残した醜聞の数々は、勇者達に物理的なダメージは与えなかった。だが、互いの内心や実際の関係まで全て把握しているわけもなく、魔王の座が近づくにつれ、だんだんと暴露されていくそれぞれの思いに、勇者パーティーの絆はほどけつつあった。醜聞の大半は真実を言い当てていたがほんの一部悪辣な嘘が混ぜ込まれていた事も疑心暗鬼を加速させた。


内心ばらばらになりつつも、とにかく魔王を倒そうと空城を駆け抜けた勇者達は魔王と謁見の間で対峙した。


「魔王、覚悟!」


いつも通り、勇者は一人飛び出した。少し遅れて、剣王も続いた。聖騎士は後衛の警護に残り、賢者と聖女は次なる展開に備え、大魔導師は魔王へ攻撃魔法を唱えた。

次の瞬間、魔王の座の周囲を除いて、全てが崩落していた。柱も壁も天井も床も下へと落ちていっていた。

勇者や剣王はそれでも崩落する瓦礫などを足場に魔王へと向かおうとしたが、魔王は重力魔法を彼らの足下へと放ち、近寄らせなかった。


「くっそ、真面目に戦え!賢者、大魔導師、なんとかしろお!」


しかし後衛は後衛で意志も動きもばらばらだった。

賢者は勇者や剣王ではなく、自分と聖女のみを空間位置を固定した結界で覆い、聖女は足場を失ってどこまでも落ちていく聖騎士を聖なる結界で覆い、大魔導師は攻撃魔法を中断して飛翔魔法で何とか剣王にたどり着き助けようとした。

大魔導師の手は何とか恋人の手を握ったが、その直後に二人は瓦礫の津波に飲まれて互いの肉体の破片を乱雑に混ぜ合わせた。

魔王城の崩壊が収まった頃になって賢者が上空を見上げると、騎竜に乗った魔王がいて、さらにその上空からは巨大な土塊が落ちてきていた。それこそ魔王城の落ちていった穴にちょうど落ちていきそうなくらいの大きさの物が。

姿の見えなくなった聖騎士の名を呼び続け、彼を助けるよう泣き叫ぶ聖女を抱き抱え、賢者は緊急脱出魔法を唱えた。本来なら目に見える範囲にいる味方も一緒に転移できる魔法だが、見えない味方は救えない。けれど、賢者はためらいはしなかった。どうせ、また勇者候補は召還されるのだから。


巨大な土塊が結界に衝突する直前に緊急脱出魔法は発動した。安全な位置まで、魔王城突入前の晩にキャンプした位置へと転移した。聖女は賢者を責め続けたが、それどころではなかった。

魔王城にはいなかった魔王直属の精鋭達の姿が遠目にも確認できたからだ。緊急脱出魔法は一日に一度しか使えない。前衛も大魔導師もいなければ、敵を殲滅する攻撃力の大半は失われている。じわじわと魔力を削がれていけば、いずれは・・・。


賢者は死力を振り絞って抵抗し続けたが、半日も保たずに聖女と共に討ち死にした。

魔王城のあった大穴は土の巨塊に塞がれていたが、ミクはさらにその大穴との隙間から水を流し込んで埋めるよう指示し実行され、賢者達の討伐と同じ頃に完了した。


「さて、後は仕上げだけ。準備は出来てる?」

「もちろんだ。勇者パーティーとの戦いで被害も出なかったからな」


ミクが指示したのは可能な限り大勢の竜族を揃え、魔王が彼らを引き連れ人族の領土奥深くへと侵攻する事。人族の砦や街や村、街道筋を可能な限り避け、秘匿されている勇者召還に用いられる魔法陣を次々に破壊。各国の王城にあれば王族と城ごと葬り消し去っていった。

もちろん、魔法陣を改めて構築できる術者達の抹殺も忘れはしない。

超長距離の移動と連戦とで、魔王も竜達も疲弊し、少なからぬ竜達も討ち取られたが、それでも、かつてどの魔王も竜族でも成し得なかった快挙を成し遂げた。


しばしの休息を取った後は、今度は魔王軍と対峙していた人族の軍勢へと直線的に移動。今度は姿を隠す事はせず、ミクに指揮された魔王軍にさんざんに打ち破られ敗走する人族諸国の軍を魔王と竜達とでさんざんに追撃。人族の領域に完全敗北を知らせる為の生き残り以外は抹殺した。


勇者達の抹殺ないし封印。人族軍の壊滅。諸王国の王族全滅と勇者召還陣の消滅。


ミクの指示により、人族の言葉で書いたビラで人族の敗北を知らせ、生き残った領主達は魔王に臣従を誓わせた。反抗をもくろんだ者達はその領地の住民ごと抹殺された。逆に反抗さえしなければ酷い仕打ちはされないと広まった後は、逆らう者達は消えていった。


ミクの最後の指示は人族の教会勢力の抹消で、教会建物も人材も虱潰しに消されていった。


それら全てが終わった後、人族のミクと魔王イージャの婚姻が全世界に知らされた。二度と異世界から勇者達が召還されない事と、二度と魔族と人族との間で戦争は起こらない事と併せて。


イージャは最後にミクに尋ねた。なぜ教会勢力を完全に消したのかを。ただでさえ人族から恨まれているミクがさらに恨まれるのではないかと。


「私は知らない誰かから恨まれたってちっとも気にしないわ。それに、これは約束だったの」

「約束?私との約束に含まれていたのか?」

「あなたとの約束にも含まれていたかもしれないけれど、これはあなたと出会う前に交わした約束」

「誰とだ?」

「私の元いた世界の神様。あんなくそったれな世界の神様に恨みしか無かったんだけどね。それでも、二度と誰からもいじめられる事のない世界で、理想の相手と結ばれる機会を与えられるとしたら、お願いを聞いてもらえないかって」

「そのお願いというのが、私を助ける事だったのか?」

「そ。そして二度とこの世界に私の元いた世界から誰かが召還されないようにする事だったの。だいぶ頭に来てたみたいね。何十人何百人て異世界に拉致し続けてるこの世界の神様に仕返しがしたかったみたい」

「ふふ、その一助を担えたのなら、我もうれしい」

「私も、あなたと一緒になれてうれしいわ。あなたが約束だからではなく、私を愛してくれるようになったら、もっとうれしいのだけど」

「そうだな。そなたがしてくれた事だけでも充分すぎるのだが、努めよう。我が愛をそなただけに注ぐように」


そして二人は生涯を共に幸せに暮らしたと伝えられている。

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