第27話 神の気紛れ(SIDEカオス)
*****SIDE カオス
ただ震える王妃をよそに、クリストフは意味を理解して青ざめた。この場で一番賢いのが、王族ではなく貴族。この国の王族は誰の支配下にあるのかな?
さまざまな神々の顔を思い浮かべ、僕は口角を持ち上げた。余計な手出しをしそうな神が多くて困るよ。腕の中で眠るレティはまだ目覚めない。それがすべてだ。この子が目覚めるまでに、世界をわずかでも綺麗にしたかった。レティは恐ろしい目に遭って苦しんだ。これ以上見たくない物を見る必要はない。
「僕が言わないとわからない?」
「いえ……リュシアンの王位継承権を剥奪します」
絞り出した王妃の声に、僕は微笑んで首を傾けた。まるで意味が通じてない。この女は使えないね。正解を求めて視線を彷徨わせた僕に、真っ直ぐ目を合わせたのはクリストフだった。大切なレティの父親、それ以上の価値がありそうだ。
「発言の許可をいただきたく」
そうだよね。まずはそこからだ。神と人は違うのだから、王妃という国で上位の地位にいても同じように考えるのは無礼に当たる。僕にとっては王族でも貴族でも平民でも同じ。人間でしかなかった。
「いいよ」
許可を与えて聞く姿勢を見せれば、クリストフは明らかにほっとした様子だった。きちんと姿勢を正して座り直し、敬意を示すために両手を前に差し出す。礼儀もまったくもって問題ない。頷いて待てば、クリストフは言葉を選んで話し始めた。
「我が国から聖女様が生まれたことに、まずは御礼申し上げます。またご無礼をお詫びいたします。王太子であったリュシアン殿が、聖女様に危害を加えた以上、王太子の地位だけでなく王族としての権利も剥奪すべきと考えます」
顔を上げて何か言おうとした王妃だが、慌ててひれ伏した。そう、大人しくしてなよ。僕は君に発言権を与えていないんだ。いま邪魔したら消滅させるよ。
「それだけ?」
破門状の手配なら終わっている。この時点で王家の血筋であろうと、彼への手助けや施しは一切禁止となった。親であろうと同じだ。破門の話をしようとした神官長を手で遮った。まだ早い。答え合わせの最中だからね。いくらレティの親でも、その誉れに値しないなら対応を考えなくちゃいけない。
「破門は神殿が手配したことでしょう。我々貴族に出来ることは、国を立て直すことです。他国に降りた神託により、我が国は危機に瀕しています。王家の存続はもはや我々も望みません」
遠回しなのは貴族家特有の表現だ。要は王家を入れ替えたいんだね。神である僕のお墨付きが欲しい、と?
「僕はラ・フォンテーヌが王家になればいいと思うけど?」
話を向けてみる。神託ではないから強制はしないけど、どう答えるのか。楽しみだった。
「我が家以外で、選ぶことは許されましょうか」
問いかけではなく、提案の響きだ。聖女を輩出した家が王家になれば、権力が偏りすぎると心配したのか。合格じゃないけど、及第点かな。
「人の世のことは人が行えば良い。でも……」
僕が彼の立場なら王家を潰して、新しい国を興す。その後で王家を誰かに譲ればいい。世襲制にせず優秀な者を養子に取れば簡単だ。王女になれば、レティを傷つける人は格段に減るからね。この男は人間としての視点ではなく、神の視点に近い考え方をするみたいだ。
興味深いな。クリストフが作る新しい国を、見てみたい気がする。だから気紛れの後押しだよ。
「君の国づくりを見てみたい」
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