第十五匹 旅団の愚者達Ⅱ(追放SIDE)

 「りょ、旅団長!! た、大変です。大勢の団員達が体調不良を訴えています」


「は、腹が痛い・・・、だ、誰か・・・ヒ、ヒーラーを呼んできてくれ・・・早く、早く」


その知らせを聞いた旅団長も同じく原因不明の体調不良で苦しんでいた。


一体どうして、その様な惨状になったのかは数時間前に遡る。



∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴



 その日は、狩猟されたシカ肉が全団員に振舞われた日であった。久方ぶりの肉料理に低級冒険者たちは、笑みを浮かべながらそれに齧りつく。


だが、すぐにその喜びはすぐさま違和感に変わっていく。


「シカ肉ってこんなもんだったか・・・。前に食べた時はすげぇうまかった覚えがあるんだが、今回のは、味も血生臭いし、何より臭いが駄目だ」


と、一部の低級冒険者たちがヒソヒソと呟く。その違和感は旅団の幹部達も一緒であった。


「この肉、なんだかまずいですね・・・。味も微妙です・・・」


「なんだこの肉、今まで出されてきた肉でダントツにまずい・・・。」


そう口々にまずいと料理にケチをつけ始める。それに腹を立てたのか、旅団長が一喝する。


「ならば、無理に食うでない。まずいのであろう・・・」


そう身も気もよだつような声が静かに怒る。それを聞いた幹部達や団員達は、一斉に態度を変えて


「う、うまいぞこの肉。味も悪くないなっ! そう思うだろ」


「そ、そうですね。わ、私の勘違いだったようです。おいしいなぁ・・・このお、お肉」


そう口々に言い始めていた。それに気分をよくしたのか


「そうであろう。俺が獲ってきたからな。さぁさぁ、皆の者遠慮なく食べるんだぞ。ハハハハハッ」


と、旅団長は高笑いしながら、自身が仕留めたシカ肉を豪快に齧りつくのであった。



∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴



 だが、その数時間後、大勢の団員達が嘔吐や下痢、腹痛などの症状を訴え始める。旅団長や幹部の数人も同様の症状を訴え、旅団内は一種のパニック状態に陥る。


そうして、それが落ちつくまでに三日三晩を要するほどであった。幸い、死者などは出なかったが皆、苦しい思いをしていて、下級冒険者達の間でこんな噂が出回るほどであった。


「あの肉、旅団長がシカの死体から獲ってきたものらしいぜ・・・。」


誰が言い始めたのか、わからなかったがその様な尾ひれをつけて団員達を駆け巡り、ついに旅団長の知るところとなる。それを知った彼は、


「何をでたらめを!! 断じて、死体などから獲ってはおらん。誰だそんなことを言っている奴は」


そう激怒し、この件について今後一切話題に出してはならないと緘口令かんこうれいを敷くほどであった。しかし、それも虚しく旅団長への求心力は日を追うごとになくなっていた。



∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴



 後日、風の噂でそんなことがあったことを聞いたアキトは、その事件の真相をすぐに見破る。


「ああ、嫌味な旅団長のことだ。狩猟に詳しい奴もお伴につけず、運よくゴリ押しでシカを狩れたんだろう。だけど、血抜きや解体処理とかを聞きかじった知識でやったから、今回の事件が起きたんだな。


差し詰め、衛生管理が徹底されてなかったんだろう・・・。これはド素人が招いた人災だな」


そう呟いて、哀れだなと思うのであった。

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