第十四匹 ひっ迫里

 隠れ里に帰った俺らは、一旦スミスの旦那の工房に立ち寄る。


「おう、アキトの旦那。どうだい、その銃の使い心地は? 」


「悪くない感じだ。ただ、俺の感想としては、弾が連射数が少ないという点とすばやくリロードしやすくしてほしいのが改良案だな。でも、それ以外は悪くなかった。散弾も広範囲に拡散していたし、射程もよかったと思うぜ」


「ふむふむ、そうか。次は、ポンプアクション式に改良してみるとするか・・・。そういえば、アキトの旦那が猟に出ている間に首長が来てたんだ。旦那に話しがあるんだとさ」


「お、そうか。それはすぐに行かないとな・・・」


「それなら、その間にアキトの旦那の銃を改良・点検しといてやるよ。村田銃、こいつの寿命も近い、よく頑張ってくれたよ・・・」


「無理に使って、破損なんてことにはなってほしくない。状態が悪そうなら、別の奴に取り替えても大丈夫だ」


そう言って、スミスの旦那にヘカテリーナを預ける。



∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴



 俺は首長の元へと行く。そこは洞窟内をまっすぐ行って一番奥にある場所で、そこで金が取れたことから神聖な場所として儀式や占いなどをする間として使われている。


「おおお、アキト。久しぶりじゃの・・・。よぉう来たの・・・」


「お久しぶりです。首長殿、お元気そうでなによりです。」


かなりの老齢に見えるドワーフの首長とは俺が小さい頃から良くしてもらい、親父のことを良く知る最後の1人でもある。


「ほぉーこっち寄れ寄れ。どうじゃ、銅でも食うか? 銀か? 金か? 食いしん坊じゃの~~」


「前にも言いましたけど、ドワーフはそれを毎日主食にして生きていますけど。俺はヒトなので食べれないんです」


「ほほほほほ~~~そうじゃった、そうじゃった。さて、冗談はさておき」


穏やかだった、場の空気がピリリリと緊張感が増す。


「さっそくで申し訳ないのじゃが、アキト・・・。お前に折り入って頼みがあるのじゃ・・・」


「この里が、俺にしてくれたことは忘れようがありません。何なりとお申し付けください」


「その頼みなんじゃが・・・。村で採掘しおった鉱山がもうすぐ閉山しそうなんじゃ。ここらの鉱山はすべて掘り尽くしてしまって、もう行き場がないのじゃ。遠方だと我らの体力では着きそうにない。

どうか、良き次なる採掘所を近場から探し出してくれんかの? 」



 ああ、これは無理難題を吹っ掛けられたと思ったアキトは、かなり考えるのであった。近場に鉱山なんてもうないよなぁ・・・。俺は真っ先にその問題に突き当たる。


それもそのはず、もうすでにこの世界中の目ぼしい鉱山は国が開発に着手しており、どれもこれも先客がいる。故に、近場の鉱山なんぞないし、未だ手付かず鉱山なんてのもあるかどうか怪しいほどだ。


となると、新たな鉱山に移り住むのは現実的ではないという結論に至り、このことを首長に伝える。


「残念ですが、現在、目ぼしい鉱山はほぼ国が抑えている状態であり難しいかと・・・」


そう伝えると、


「そうか・・・、やはりそうであったか・・・。では、小人の我らに残された道は、もはやダンジョンに潜るしかほかないか・・・そうすれば、戦利品の鎧や剣、それに貴重な鉱石、古銭などが手に入って食っていけるのだが・・・」


「首長、それも難しいかと思われます。確かに、主食である金属を戦利品で代用する案は悪くありませんが、ドワーフ族は、戦闘向きの種族ではないと思われます」


実際ドワーフ達は鍛冶技術や武器の製作には優れた面があるが、戦闘面に限って見ればまったく強くない。そんな彼らが、ダンジョンに潜るなど自殺行為に他ならない。


どこか、鉱山級に金属が埋蔵されている場所はないかと頭を考えていると、先ほどの言葉が引っ掛かる。


「ダンジョンに潜れば・・・、戦利品が手に入る。いや、しかし俺たちはダンジョン向きではないし・・・。 」


何か、閃きかける・・・。もうちょっとで新たな発想が舞い込みそうである。


「ダンジョンに潜るのは、現状無理だ。だが、どうにかして戦利品を得ることができれば、食べさせていける。俺にできるのは、なんだ・・・、狩猟で大漁に肉をとってくることぐらいだ・・・」


その時、天才的な考えが脳を駆け巡る。


「もしかすると、首長! 新しい新天地、発見できたかもしれません」


「俺が大量に獲物を獲ってきて、その肉を売り捌けばいいんですよ」



∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴



 俺はそうして、革新的な生存計画を隠れ里の皆に説明する。そのお肉事業計画に隠れ里のドワーフ達は、


「そりゃ、いい案だ。これならば、俺らは食っていける」


「アキトは面白いことを考えるな・・・発想がすごい」


「だが、これを始める資金はどうするんじゃ」


おっと、それもそうかこの事業を始めるには、元手が必要だ。


そう皆が頭を悩ましている時、説明会で沈黙を守っていた首長が一言。


「最後の非常食として、隠しておった歴代首長の埋蔵金を使う時じゃ。今、使わなければわしらは滅んでしまう。ならば、今こそ使うしかないぞ」


その発言に皆があっと驚く。


「それを元手にして、事業を始めれば良い」


首長はそう言って、俺の計画を全面的に応援してくれる。


そして、他の村人達も首長がそこまで言うならと、俺の計画に賛同してくれる。


本計画というのは、俺が狩りで大量に狩った屠体を里の者達が解体して、その肉を売り捌いていくという計画だ。そのお金で街中の鉱石や貴金属を買っていくという算段である。


幸いなことに俺より狩猟がうまい奴はいないので、競合相手はせいぜい家畜くらいだ。


それも貴族共や冒険者達に大半が供給されているから、平民には少ししか行き届いていない。


だったら、俺達の商売相手は平民だ。ついでに、所属していた旅団の奴らには絶対に売らないと固く誓う。


そうして、資金も賛同も得た。


後は、獲物の解体拠点となる場所の選定だ。


まずは広い敷地、次に城下町からある程度離れている郊外、最後に近くを綺麗な水が流れている必要がある。


そんな条件の目ぼしい場所が1つだけ心当たりがある。


街の郊外に無人の長年使われていない屋敷があり、そこがすべての条件に当てはまっている。ここを調べる必要にかられた俺は、ヘカテリーナを連れて古屋敷へと向かうのであった。



∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴



 その古い屋敷の壁は所々が草に覆われていて、長年手入れがされていないことを匂わせる。それにこの何かが這ったような痕跡や小動物や中型獣の骨が散在している。どうやら、この屋敷にはお邪魔な生物が住みついているようだ。


ならば、やることはただ一つ、害獣駆除だ。


俺はヘカテリーナを外に待機させて、屋敷へと入っていく。手にはI&L.22LR model949の装填済みリボルバー、そして狩人の勘を頼りに部屋をひとつずつ見ていく。


ガチャ・・・


どうやら、この屋敷は地下もあるようで、そこからはジメジメとした空気が肌に纏わりつく。そして、重そうな扉をこじ開けて地下室に入ると、その暗闇の中から十数個の目玉が光り、俺の方へと向かってくる。その両目の真ん中を次々に狙い撃っていく。


バババババババババァッン!!


俺の高速の早撃ちは、見事に命中していた。その撃った屠体をよく見ると、マダラ模様の蛇だらけであった。それを見て、俺は違和感を感じる。


先ほど、外で見た小動物の骨の他に中型獣の骨もあったのに、先ほど撃った蛇どもは、それを捕食できるほどの大きさの蛇ではない・・・。


「まさか・・・ッ! 」


気配を感じて後ろを向くと、そこには大型のヘビが大きな口を開けて俺に襲いかかろうとしていた。俺は咄嗟に携帯していたマタギナガサを抜刀して、切り裂く。


直後、真っ二つされたヘビの血が吹き出て、俺はそれを紙一重で避けると同時に止めを刺す。そのヘビは断末魔を上げる間もなく絶命する。


こうして、この屋敷の害獣はすべて駆除されるのであった。



∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴



 そうして、無人の古びた屋敷に里の者達と一緒に物資や資材を運び入れていく。幸運なことに地下室の環境は里の洞窟と似ていたため、里の者は地下室に住まうこととなった。


それから、全員でこの屋敷を大改修するのであった。

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