第1話 辺境の魔物
王城に届いた一報は、何でもないものと思われた。
「領内の辺境の村に魔物が出没した。」
言ってしまえばそれだけに過ぎない。
さりとて、辺境の地までの遠征に名乗りを上げるものなどそうはいない。
・・・いや、一人いた。
王国最強と名高い、騎士団長その人である
この人物、平民からのたたき上げで平民への情も厚い。加えて件の辺境の村が、彼の生まれ育った村の近隣だからである。
騎士団長への信頼の厚い王は、彼の里帰りも兼ねる感覚で討伐任務を任せた。
実力に加え人望も厚い騎士団長。「団長が生まれ育った村を見てみたい」と、瞬く間に魔物討伐パーティが編成された。
内訳は団長含むベテラン騎士が三人、魔物討伐に優秀なハンター、および魔法使いが二人。
万全と思われる6人パーティでの魔物討伐。
・・・にもかかわらず、ただ一体の魔物に対し、全滅したのである。
その、誰もが予想だにしなかった精鋭たち全滅の知らせに、城内は騒然とした。
「外見は、その辺りにいる人型の魔物とそれほど変わらないのです。」
「ですが、「魔法障壁」を常に張っており、剣、弓、魔法いずれも通用しておりませんでした。」
「しかも、反撃とばかりに来る熾烈な触手攻撃に一人、二人と倒れ、最後は我々を逃がすために騎士団長も・・・」
「・・・報告わかった。ゆっくりと休むがよい。」
「はっ!失礼します!!」
報告兵を退室させ、国王は苦虫を噛んだ表情で側近たちに問う。
「魔法障壁・・・それでか。」
「はっ。魔法障壁を常に張る魔物。当国きっての剣技の持ち主である騎士団長殿ですら通用しないとなると、それは間違いないでしょう・・・」
「同行した魔法使いに、障壁中和の魔法が使えるものはいなかったのか?」
「おりました・・・が、障壁中和を行おうとしたものの、敵の障壁レベルが高く失敗。逆に件の触手攻撃をくらい、真っ先に殺されたとのことです。」
「同行した魔法使いも腕利きだったはず。これは、かなり深刻な敵だな。」
「はい。あの6人で倒せなかった以上、軍隊規模の討伐が必要です。」
「それで、今の我々でそういった部隊は編成できそうか?」
「・・・今すぐにはできかねます。申し訳ございません。」
「いや、無理もない。今回のケースは想定外だ。・・・早急に準備と手配を進めてくれ。」
「はっ!」
しかし後日、偵察隊から更に不穏な報告が届く。
「報告します!「騎士団長殺し」は、移動速度は亀のように遅々としたものであります。」
「ですが、一定の距離内に動物が入ると、件の触手でほぼ一撃にて致命傷を負わせ、・・・そして、死に至ったものから吸収致します。」
「吸収タイプの魔物か・・・」
「はっ。・・・それゆえ、騎士団長はじめ、戦死した皆様の亡骸は回収できませんでした。」
「・・・・・」
「さらに魔物は、獲物を求めてか、再び近隣の村まで移動を始めました。」
「わかった。・・・いつ状況が変わるかわからぬ。距離を保ちつつも偵察は怠らないよう、改めて部隊に伝えよ。」
「はっ!」
報告を終えると、再び偵察兵は任務へと戻る。
「吸収タイプと言う事は、下手に手出しはできぬな。」
「はっ。吸収タイプの魔物は単に食料としてではなく、取り込んだ生物の能力も吸収するものも多くいます。」
「・・・それも踏まえた上で、軍の編成を急がせよ。」
「御意。」
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