『オーケストラ、宇宙を行く』第1部《太陽系編》
やましん(テンパー)
第1話 『オーディション』その1
『このお話しは、登場する音楽作品や作曲家など以外は、すべてフィクションです。それ以外の登場人物も全員架空の存在で、そのよって立つ生活環境や施設なども、すべて空想の産物であります。さがしても、この世にはどこにもありません。ただし、一部、実在の人物がモデルになっている場合は存在します。』
『宇宙オーケストラ団員募集』
の、広告に、腹ペコのぼくは、ふらふらと応募した。
地球人収容所の廊下に張ってあったのだ。
詳細なんか、読んでいなかった。
推薦状なんてない。
キャリアなんて、さらに、ない。
専門家でもない。
だから、演奏家ではない。
ライブラリーとして応募したのである。
ただし、ぼくには、よい点がある。
つまり、地球に、後腐れがないことだ。
財産も、家族もすでにない。
自宅などは、没収された。
地球に、帰る理由はなかった。
ただし、応募する多くの人は、みなそうだ。
ぼくにあるのは、5万点に及ぶ、古いレコードや、CD、さらに、本や楽譜のやま。
それと、お安いフルートが一本。
本来、価値なんかあまりないが、先の第3次世界大戦で、さまざまな資料や、楽器などが大部分焼失した現在、かなりな貴重品になってしまった。
たまたま、某大陸の、ど・いなか、の、山の真ん中に、住んでいたせいで、核弾頭の業火からも、焼け残ったのである。
ただし、放射線の影響は計り知れない。
まだ、生きていること自体が奇跡だったのである。
🌎
そもそも、地球上の国は、大方消滅していた。
地球人類の滅亡は、もはや避けられないと思われたが、そこに、『銀河連盟』の助け舟が入ったのだ。
主体になったのは、博愛主義の、パガテル星人と、ヴィヴラート星人を中心とする地球救済チームだった。
しかし、オスティナート星人をはじめとする正義派は、地球人の深い罪を主張して、救済に値しないと言っていた。
『大宇宙神』を信仰するピッチカート星雲人は、地球人類が、神の救済に値するかどうかを、確かめるべきだと申し出た。
無信仰主義のヴィヴラート星人とオスティナート星人は、反対の立場から、それは意味がないと言った。
すったもんだの末、地球人類に課題が課された。
それは、アートによって、銀河連盟加盟星からの支持が得られるか、確かめるというものだったのである。
そこで、彼らが提供した新型宇宙船に乗り込んで、加盟している惑星などを歴訪し、地球のアートを紹介するという、膨大な計画が持ちあがったのである。
そこには、実際のところ、芸術文化からスポーツまでの、様々な領域が含まれていた。
しかし、最大の問題は、大多数の天才や、専門家が、もう、いなくなっていたことだ。
それで、生き残った人類に、まだ復興の価値があると証明できるのか、非常に疑問だったのだ。
実際、選別されて、シェルター内で生き残った人々は、予想以上に少なかったのである。
生き残っていても、地上に出られなくなったシェルターも多発した。
持ち込まれた疫病が、蔓延してしまった施設もあったらしい。
頼みのコンピューターが、大暴走して、大量殺人を行ったケースも見られた。
おまけに、かなりの生命維持システムは、計算した様には働かなかったらしい。
殺し合いになった場所も、あったようだ。
また、アート活動に使用するべき様々な機器(例えば楽器とか)も、その多くはすでに失われていた。
世界的な名画や彫刻や建築物は、大分部が消滅してしまっていたか、地中や海中深くに埋没していた。
残されていたのは、ごく少数のプロと、大多数のアマチュアと、名もない機器類だったのだ。
🌏
ぼくは、捜索にきた、パガテル星人の船に、家ごと収容された。
『あなた、ついてましね。』
通常は頭が体の下側にある、パガテル星人の救助員が言った。
必要になれば、頭だけ高く持ち上げたり、危なくなったら、胎内に収容もできるらしい。(彼らは、両性具有なのだそうだ)
『この国あたりで、たしかったのは、あなただけね。』
ついていたのかどうかは、確信が持てないのだが。
しかし、これらを、寄贈することを条件に、その付属ということで、自分は雑用係として、応募したわけなのだ。
頭から、落とされると思ってはいたが、なぜか、書類選考は通過したのだ。
思えば、不思議なことだが、そのときは、深く考える余裕などは、なかったのだ。
ぼくは、オーディション、つまり、選考試験に臨んだ。
それは、大西洋のど真ん中に浮かぶ、宇宙の支援者たちによって造成された、新たな人工島にある、地球暫定政府の庁舎で行われたのである。
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