竜魂の巫女 ~輝石物語~

カエリスト

序章 消えぬ野望

邂逅

 暗い闇の中、一つの魂が当てもなく彷徨う。


 (なぜこんなことになったのか?)


 何千、何万と繰り返した答えのない問い。

 その魂は、ただ納得がいかなかった。

 多くの敵を屠り、同族の屍を築き、それでも進んできた結末がこれなのか?

 もうあの高揚を感じる事も出来ず消え去るのみなのか?


 (否!そんなはずがない!)


 魂だけとなった今も覇気は衰えず。

 だが、それでも残された時間は少ない。


 魂は少しずつ削り取られていく。

 

 (奴らの狙いは『支配の力』だろう。だが簡単には渡さぬ!)

 

 既に幾分か漏れてしまってはいる。

 だが、いまだ力の大半は己の魂の中にある。

 一族の宝、そしてなにより肉体を失った己の文字通り魂の拠り所。

 これを失う事は、本当の死を意味する。

 しかし、その抵抗ももはや限界を迎えようとしていた。


 

 だが、そこに奇跡が起きた。



 魂の近くに一人の人間の少女が落ちてきた。

 

 (これは……。ニンゲンか。これも喰われたか)


 最初は特に興味も持たなかった。

 この空間に閉じ込められてから、人に限らず様々なモノが落ちていくのを見てきた。

 大体は落ちていきながら溶けるように消えていくだけ。自分のように意識を持つ者はいなかった。

 だから、この人間もすぐに消えてなくなると思って興味も持たなかった。

 だが―――


 (なぜ、これは消えない?)

 

 別に興味があったわけではない。ただ単に他に注意を払う事もなかったから見ていただけだった魂は、ようやくソレの異常性に気付いた。


 (どうなっている? ただのニンゲンではないのか?)

 (死んではいない。だがこの感覚は……。はは、ハハハハハ!)


 落ちてきた人間の少女を調べていた魂は笑い、己の幸運と祖先の霊に感謝を捧げる。


 (未だ我が覇道はならず。なればこそ我はまだ果てるわけにはいかぬ!)


 魂は人間の娘の体に重なり消えていく。

 

 

 それから幾ばくかの時を置いて。

 暗闇の空間のあちこちにヒビが入りバラバラと砕けていく。

 砕けた場所からは光が差し、少女はうっすらと目を開けた。


 こうして二つの魂が生還した。

 それが、いつくもの世界を揺るがす出来事の始まりであった。


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