第13話 [条件]


目の前をとことこ歩くトゥイーニーさんに連れられて、またあのソファーの部屋に入る。


中には白いドレスに着替えたルルゥさんと服装の変わっていないマグダがいて、僕を見たルルゥさんはにっこり微笑んだ。


「ご機嫌はいかがですか。食べられるものはございましたか」

「ありがとうございます、元気です。食事は……ちょっと」

「生命力に衰えはないです。人間はトロミンもワイバーンも食べられなかったです。でも魔力虫は食べてたです。水も無毒化してあれば問題なく飲むのです」

「そうですか。カル様にはご不便をおかけします」


美少女にしょんぼりされると悪いことした気分になるなぁ。でもこの美少女吸血鬼にアイテムとしての血と魂を要求されているだとわかると、そう簡単に罪悪感を覚えてはいけない気がする。


ルルゥさんは吸血鬼で、僕は消費される側だ。しっかりしないと。


「スチュワードが人間を詳しく知っている方を招く予定ですので、到着するまでにお互いの条件を決めましょうか」

「条件、ですか」

「カル様は生命力がとても弱く、魂を削ってしまうと存在が消えてしまう可能性がございます。ですので、魂はカル様が死亡することが確定した場合のみに頂くというのはいかがでしょうか」

「魂って削れるんですか」


提案に対して質問で返すのはよくないけど…気になってしまった。


「この世界の魂は総量がございまして、種族や個体値によって差があります。魂はその個体にとって絶対的なものですので、魂を削ることで契約・生殖・強化などの強い結び付きを持つものの対価となります」

「ルルゥさんの庇護下に入ったのは契約になるんですか?」

「いえ。カル様は簡単な契約でも魂のほとんどを削られてしまうので、あれは口約束のようなものですね。それに魂の使用には互いの合意が必要ですので、カル様が拒否すれば大丈夫ですよ」


ルルゥさんは良い人なんだろう。あれがわからない、これがわからないと僕が質問すれば嫌がらず教えてくれる。


「血はどうなるんですか」

「カル様の体調の良いときに少量の血を抜いて、それを保存しておこうかと思っておりました。出血とショックで死んでしまう可能性があるのですが、緊急のときは太い血管から直接吸血させてください」

「緊急のときがあるんですか!?」

「貴様は自分が貴重な存在だとまだ理解していないのか?争いの火種はあちこちにあるが、今は貴様もその火種の一つだろう」


それは……そうか。吸血鬼ってルルゥさんだけじゃないし、人間を欲しがる種族は吸血鬼だけじゃないかもしれないんだ。


「魂は回復が不可能な瀕死のときに、血は少量を定期的にという条件でよろしいですか。その後に不便だと思うことがあればまた話し合いましょう」

「じゃあ、それでよろしくお願いします」


今以上の環境を探せるとは思わない。ルルゥさん以上に話し合いや譲歩してくれる種族がいるかもしれないが、僕にはそれを探す手段がない。


もうそれならルルゥさんのところにいたほうがいいだろう。僕にとって不利な条件を出された訳じゃないし、あとは食べるものさえ改善されればとりあえずは生きていけそうだ。


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