サルビア

おなか

第1話

 穏やかな緑に囲まれた小さな村サルーパ。


 その入り口で中年の男がアルドに駆け寄ってきた。アルドはちょうど村を出るところで呼び止められ、足を止めた。

「なあ、あんた旅人さんだよな?」

「ああ。そうだけど、一体どうしたんだ?」

「やっぱりそうか。恰好からしてここの人じゃないと思ったんだ。それに剣士ってことは、ここらの魔物は一通り相手してここまで来たんじゃないか?」

 男がアルドの背後に覗く剣へ視線を向けながらそう訪ねると、アルドはそれまでの旅の経験から、この男が何を言いたいのかすぐに察した。

「そうだな……。チャロル草原も、ベガの森の魔物とも何度も戦ったことがあるよ。もしかして、倒してほしい魔物でもいるのか?」

「ああ、あの森に入ったこともあるのか。話が早くて助かる。実は、少し前から森の魔物が外に出てくることがあってな。まあ、村の人たちは森に近づかないようにしているし、魔物も村の近くには来てないから、まだそれほど危険ではないと思うんだが、今のうちに森へ追い返してほしいんだ」

「わかった。お安い御用だよ」

「そうか、助かるよ。あんた、良い人だな」

 男がしみじみ言うと、

「俺にとってはいつものことだから、気にしないでくれよ」

 そう言ってアルドは草原へ出て行った。



 二つ返事で魔物退治を引き受けるお人好しの旅剣士を見送ると、男はサルーパの緑に溶けていくように、跡形もなく姿を消した。村の入り口には、勇ましく駆けて行ったアルドの足跡だけが残っていた。

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