第2話二人の少年 二

バサド山麓へ向かい森に入り森の中の獣道を逸れて道なき道を草や枝葉を搔き分けながら進むトラウとコウキ

トラウ「じいちゃん町の中に住んでくれりゃ行くのも楽なのに…!」頭に鍋を乗せて片手で草木を除けるトラウが文句をたれる

コウキ「山の管理や山から魔物が山から降りてこない様にあそこ住んでるって言ってただろ、それにじいちゃんはあんま人いるとこ好きじゃないみたいだしな」

トラウ「そうだけどよぉ…お!じいちゃん家見えたぞ!ようやくこの鍋ともおさらばだな」煩わしい鍋を手放せる事に歓喜するトラウ

トラウ「あれ?あ…てか!コウキの能力でこれ入れといてくれりゃいいじゃねぇか!」

コウキ「…ホントだな」今気づいた様な反応を見せるコウキ

トラウ「自分ばっか手ぶらで…!」

コウキ「まあ、すぐそこなんだからいいじゃねえか」睨むトラウに苦笑いで対応するコウキ

トラウ「このやろー…」

二人が小屋の前に着き扉をトントンと叩く

トラウ「じいちゃーんきたぞー」応答がない

コウキ「中いなさそうだな…」窓から中を覗きコウキが確認してみても人の気配らしきものは見当たらない

コウキ「裏じゃねぇか?」二人が小屋の裏手にまわると老人が畑の中で鍬を振っている

トラウ「おーすっ!じいちゃん!」二人が老人へ駆け寄る

ロダン「おお、来たか」

コウキ「じいちゃん畑なら俺らがやるよ」

ロダン「年寄り扱いするでないこれくらいできるわ…ふー」体勢を起こし息を吐きながら腰をさする

コウキ「じじいじゃえねか…」

トラウ「じいちゃんこれ母ちゃんから、肉じゃがだって」鍋を渡す

ロダン「おお!これはありがたいサクラの故郷の料理はうまいからの〜」

コウキ「そうだ、こっちはエイダス先生から」そう言いながら何もない所に空間の穴の様なものを開け紙袋を取り出すコウキ 

ロダン「あの悪ガキが先生とはの〜」

トラウ「先生が悪ガキ?」

ロダン(おっと余計な事を言ってはまた小言を聞かされるわい)

ロダン「そんな事より!そろそろ修行を始めるとしよう!」

トラウ「おっしゃー!」

コウキ(ごまかしたな…)コウキの冷たい視線を避ける様に小屋へ鍋と紙袋を置きに行くロダン

ロダン「ではまず魔力の操作の鍛錬からじゃな」そう言って小屋の前にいる二人の目の前に円柱の虫籠を一つずつ置く

トラウ「えー!またこれかよー!」

ロダン「魔力の操作は能力を操る上での基本の基本、これが出来ん様では話にならん」二人が地面にあぐらをかき座るトラウはブツブツ文句を言っている

ロダン「トラウは虫籠のマショウチュウの色を均等に、コウキは全体の虫の色を均等にしつつ魔力の出力をあげる練習じゃ」


マショウチュウ…強位1 全長十cm 円盤の様な形で自身の魔素や魔力が当たっている部分の色を白から青、青から黒へ変化させ周囲の仲間に危険などを知らせる白色の虫の魔物


トラウ「うぇーい…」不満気に返答するトラウ

コウキ「均等に大きく…」ボソボソ言いながら集中し魔力を虫籠へ向けて発する、コウキの虫籠の虫が皆薄い水色に変色しちょっとずつ青に近づく、続いてトラウの虫がゆらめき白や水色、青に変色したり戻ったりを繰り返している

ロダン(コウキは順調じゃな、トラウはやはり生まれつき魔力の感知が出来ない分、難しそうじゃな…)

ロダン「二人とも一旦休憩じゃ」しばらく魔力を放ち続け休憩をはさむ

トラウ「動いてもねぇのに疲れるなー」トラウがバタッと後ろへ倒れる

コウキ「はぁ…はぁ、あー疲れた…」ロダンが二人をそのままに小屋に入り木刀を一本と輪っかのような金具を二つ持って出てくる 

ロダン「次は森へ入りトビウサギを獲ってくるんじゃ」

トラウ「そんなん楽勝!」


トビウサギ…強位3 体長三十cm程 臆病な性格で外敵に気づくと強力な後ろ脚を使い外敵とは反対の方向へ跳ぶウサギ、跳んだ直後に前足から後足にかけて伸びた皮を広げて滑空して逃げる。肉は旨味や脂は少ないが淡白で柔らかく、臭みもない為幅広く好まれる。毛皮は小物や衣類として活用される事が多い


ロダン「だたし!能力は一切使ってはならん、二人ともこの腕輪をつけるんじゃ…」持って来た金具を二人に渡す 

ロダン「これは刑に服している囚人や犯罪を拘束する際に使う枷じゃ魔力の流れを阻害する鉱石でできておる」

トラウ「まじかよ…犯罪者でもねぇのに…」

ロダン「反射的に能力を使ってしまうじゃろう?特にトラウはな」

ロダン「あーこれこれ、コウキよ、いつもの双剣ではなくこっちの木刀を使うんじゃ」トラウとロダンの会話を聞きながら空間に穴を開け自身の剣を取り出そうとするコウキに言う

コウキ「木刀?」ロダンから木刀を受け取り振ってみて手に持った感じを確かめる

コウキ「なるほどね…」

ロダン「二人とも能力に頼りすぎじゃからの、身一つで戦う術を身につけよ…!」

ロダン「それとコウキ魔力の感知も阻害されるぞ」

コウキ「え?マジかよ…」

コウキ(ホントだ…モヤがかかったみたいになって流れがよくわかんねぇ…)

トラウ「くっくっく、これで勝敗あったんじゃねぇか?」コウキを嘲笑するトラウ

コウキ「能力使えねぇ方向音痴に負けるわけねぇだろ」負けじと張り合うコウキ

トラウ「この辺りで迷うわけねぇだろ!」トラウとコウキが火花を散らしている

ロダン(多少競わせるつもりではあったが…まあ、よいか)

ロダン「では二人とも準備は良いか…?」

トラウ「いつでもこい!」

コウキ「いいよ…!」

ロダン「制限時間は日没までとする!では始め!」ロダンが始めの合図と共に片手を上げる

二人が合図とほぼ同時に茂みや木々の間へ入っていくトラウが左へ、コウキは右へ負けまいと草木を分け進む

トラウ「どこかなー?うさぎちゃーん…」茂みを掻き分けたり、木々の上を跳び移り上から見渡したりしながらトビウサギを探すトラウ

一方コウキ

コウキ(見つかりにくい背の高い草や木の実が有る様なとこにいるはずだ…)動物の習性や痕跡から推測し探す

その頃ロダンは家の中に入り温かいお茶を入れ貰ったおかきを食べながら窓の前で日向ぼっこしていた

ロダン「二人に会うのは楽しみなんじゃが…長い間居ると疲れるからの〜」二人が探し始めて一時間が経過

トラウ「用のない時はチョロチョロしてるくせにー…!くそっどこだよ!」文句を言いながら木々の上を跳び回っていると少し離れた所からザッ!ガサガサ…!という音を茂みから聞き取る

トラウが音のした方へ横からひっそり回り込み確認すると、お目当てのトビウサギが茂みに巻き付いた蔓の木の実を齧っている

トラウ「おっ…!いた…!」静かに歓喜する

隠しきれていないトラウの気配を察知したトビウサギが地面を蹴って跳び上がり皮を広げて滑空し逃げる

トラウ「あっ…!おい!まて!」

一方コウキは

コウキ(木の実を齧り取った後がある、このあたりにいるのか…?)何かを見つけたコウキが近くコロコロとした茶色の玉がいくつか転がっている

コウキ(これはうさぎの糞だな)横に落ちていた枝で糞を突いてみる

コウキ(まだ乾いてない…この辺りにいそうだな)体勢を低くしながら静かに痕跡を探しながら獲物を探す

コウキ(お…いた…!)トビウサギを見つける

コウキ(この距離じゃ厳しいな…)木々や茂みを盾にしながら獲物に忍び寄る

一方トラウ

トラウ「うおらー!待てー!」強靭な後ろ脚で跳ね前脚から後ろ脚にかけての皮を広げて滑空しては、走ってはを繰り返し逃げるトビウサギ

トラウ「逃がさねぞー!」負けじとトラウが追う

走って跳んでを繰り返すうちに疲れてトビウサギが草に脚を取られる

トラウ「よっしゃー!おらぁーー!」しめたと思ったトラウが力いっぱい跳ぶ

トラウ「よし!取った!」トビウサギの耳を掴む

一方コウキ(この距離なら行ける…)トビウサギの真後ろに陣取り小石を拾うコウキ

コウキ(こいつは咄嗟に反対方向に跳ぶ癖があるからな…)

コウキがシャッとトビウサギの右斜め前へ石を投げる突然の音にびっくりしたトビウサギが左後方へ跳び滑空する

滑空しているトビウサギの首の皮をガシッとコウキが掴む

コウキ「いっちょあがり!」滑空しているトビウサギの首の皮をガシッとコウキが掴む

トビウサギを捕まえた二人がロダンのいる小屋へ一直線に走る

トラウ「げっ!もう捕まえやがった!」向こうに木刀で枝を払いながらトビウサギを手に小屋へ走るコウキの姿が見える

コウキ(トラウのやつ思った以上にはえーな…!)トラウが茂みも草木も突っ切ってがむしゃらに走っている

二人が小屋へ近くなるにつれて横並びで並走になる

トラウ「俺が勝つーーー!」コウキ「負けねえぞーー!」二人が同時にロダンの小屋の扉を破壊し飛び込む

ロダン「な、何事じゃー!」陽気な空気に包まれて寝てしまっていたロダンが破壊音に飛び起きる、扉は壊れ部屋の真ん中にあった食卓は粉々になっている

ロダン「な、何が起きたんじゃ、いったい…!」惨状に理解が及ばないロダン

トラウ・コウキ「じいちゃん!どっちがはやかった?!」ロダンの様子などは意も介さず二人が口を揃えて問う

ロダン「へ?」

ロダン「これはトラウとコウキの仕業か…?」

トラウ「本気の勝負だったからな!」

コウキ「なかなか早かっただろ!」

ロダン「…ふ、二人ともそこに正座せえー!」二人を正座させ説教するロダン、トビウサギが騒動の隙に壊れた入り口からピョンピョン逃げていく

ロダン「まったく!わかっておるのか!どこの誰が人の家を破壊してまで競う者がおる!」三十分程説教をくらい次の修行を再開する

ロダン「魔力を使わなかった分、回復しておるじゃろ次の修行はこれじゃ」ロダンが二人にマショウチュウの虫籠を渡す

トラウ「えー!またこれかよー!」

ロダン「…トラウおぬしまた儂の家を壊したいのか?ん?」ロダンが睨みをきかせトラウに詰め寄る

トラウ「な、なんでもないです…」目を逸らすトラウ

二人が枷を外し魔力操作の修行を始める、ロダンは散乱した家の中を片付け扉を直している。二十分程経過する 

ロダン「よし、二人とも今日は終わりじゃ」日も暮れはじめたので二人に終了を促す

トラウ「じいちゃん…まだ行けるぜ…!」

コウキ「…こんなところで立ち止まるわけには、いかねぇ…!」

トラウ「俺らの夢はガビテの優勝…!」


ガビテの戦祭…正式名称「グァヴィツェの戦祭(せんさい)」グァヴィツェという町から発祥した大会。オリンピックの時期とは、ずらして行われる世界中から予選を勝ち抜いた者が集まり能力・武器の使用を条件を満たして可とする大会。先に大きな街で予選と選出戦が有り半年後に世界の中心とされている島で本戦が行われる、本戦に出られるのは予選通過後の選出戦で一位二位を勝ち取った選手のみ


コウキ「そうだ…!」魔力の内容量が限界が近い状態で魔力を発し続ける二人

ロダン(うーむ…無理矢理やめさせるのもなぁ…)

ロダン「わかっておるわい…その為に明日は特別な修行を用意しておる!」修行で無理をする二人に告げる

トラウ「…特別?!」コウキ「いつもと違うのか?!」揺らぐ二人

ロダン「特別じゃ…!その分万全の状態でなければ挑む事ができぬゆえ、もし無理をして体を壊せば明日の修行は無しじゃ…!」

トラウ「わかったぜ!じいちゃん!」

コウキ「よっしゃー!明日楽しみだな!」特別な修行と聞きすぐに魔力の修行をやめ疲れも忘れて二人がはしゃいでいる

ロダン(まったく…この二人は…)手の焼ける二人にため息をつくロダン

ロダン「ということで今日は終わりじゃ町まで送る」

町の北門に二人を送り届け小屋に戻るロダン

「今日は裏で野宿じゃな…明日、町の資材屋に修理を頼むか…ハァ」壊れた小屋を見てため息を吐き肩を落とす

翌朝

ロダン「よし!二人とも準備は良いか?」

トラウ「いいぜ!」

コウキ「いいよ」

トラウ「じいちゃん、特別な修行ってなんだよ」

ロダン「うむ、昨日帰り際に一泊すると話したのは、各々ちゃんと伝えたか?」

トラウ「もちろん!」

コウキ「院長もじいちゃんとこならいいってよ」

ロダン「ゴホン!では今日はあの聳え立つバサド山を登る!」


バサド山…この大陸の東側に位置する約七千mの山脈、小中型の生き物しかいない様なオリーブの町周辺とは違い危険な生き物が生息する。頂上へ近づくに連れて生息する生物の危険度が上昇し頂上付近には精鋭の実力者でないと対処が難しい危険な生物が生息している


トラウ「おお!ついに!」

コウキ「やっとここまできたなトラウ…!」

トラウ「やったなコウキ!」

ロダン「山の麓より上辺りで目的となる獲物を狩る」

トラウ「えー、途中までかよー」

ロダン「そりゃそうじゃろ、頂上がどれほど危険じゃと思っとる!」

コウキ「じいちゃんでも危険か?」

ロダン「儂なら散歩程度じゃな」

トラウ「じいちゃんがー?!」実力を疑うトラウがロダンの言葉にそんなわけないと腹を抱えて笑う

コウキ(昔は実力者とかなんとか聞いたけど…今はなー…)

ロダン「まったく…!ほれ行くぞ」

ロダンを案内人にバサドの山へ向かう一行、道中歩きながらロダンが今からやる事の概要を説明する

ロダン「今回の標的はトゲクロトカゲじゃ」

トラウ「誰だそいつ」

コウキ「なんでも丸呑みにするトカゲじゃなかったっけ?」

ロダン「そうじゃ、土や岩に巣穴を掘る際や外敵に襲われたりすると強力な消化液を吐くトカゲじゃ」ロダンが二人の前を歩き、前を向いたまま説明する

ロダン「気温が低めの場所に生息するトカゲでの山の中腹にいる様なトカゲなんじゃが、ここ最近、何故か麓近くに居着いた奴が居ってのぉ…麓にもちらほら降りてくるようでな町に被害が出る前に…」

コウキ「俺らの修行ついでに倒すなり追い払うなりしようというわけか…」

ロダン「そういうことじゃ…ほれこれがトカゲの資料とトカゲを見かけたという報告がある場所じゃ」二枚の紙をコウキに渡す、一枚はこの辺りの地形の簡単な地図の様な紙に所々赤丸が付けてある 

コウキ(この赤丸がトカゲを見かけたとこか…?)もう一枚はトカゲの絵とトカゲの説明が記載されている 


トゲクロトカゲ…強位21気温の比較的低い地域や山に生息する体長二m程になるトカゲ。溶かした斜面等に巣穴を作り生活する、背中に生えている黒い棘と甲殻は非常に硬い、外敵に襲われると棘を逆立て消化液を吐きかけ攻撃する。主に小中型の生物を狙い.獲物を見つけると粘着性のある唾液を吐きかける。獲物を捕らえると丸呑みにし巣穴へ持ち帰り防腐作用のある体液に包んだ状態で巣穴に保存する習性を持つ。肉は旨味があるが、硬くゴリゴリしており臭みが強くクセがあるため香草等と一緒に長時間煮て食べる事が多い、素材は甲殻や皮、骨が主に防具や武器に加え建築等にも使用される事がある。


トラウ「ふーん」二つの資料をコウキと一緒に眺めるトラウ

コウキ「…」コウキ(わかってんのかよ…)

ロダン「さあ、着いたぞ」

トラウ「じいちゃんトカゲいねえぞ?」

コウキ「この二つの資料を使って探すんだよ」

ロダン「そのとおりじゃ」察しのよいコウキに感心するロダン

トラウ「あ、なるほどね」

ロダン(トラウは色々心配じゃのー…)

ロダン「ここからは二人に任せる!日を跨いで明日、本格的に活動するも良し!これから標的を見つけだし狩りに行くも良し!儂は遠くから見守っておるぞ!…ではの」そう言って茂みの中へ消えていくロダン

トラウ「よっしゃー!コウキ!行こうぜ!」

コウキ「おう!早速って…んな訳ねーだろ」

トラウ「えー!すぐ行こうぜ!」

コウキ「初めて来た様な場所で不用意に探してたら夜になっちまうよ、今日の寝床確保してこの辺りの地形やらを下見して明日だ明日だ」

トラウ「えー!…しょうがねえなぁ」天幕を張り、張り終えたら周りの地形とロダンから受け取った地図を照らし合わせながら明日どこから索敵するかなどを考え下見しながら晩飯を調達する

トラウ「お、魚!」トラウが近くに流れていた清流へ下りて魚を獲る

コウキ「俺は向こうで焚き木拾ってるぞー」

トラウ「あいよー」

コウキ「食える木の実も割とあるな、こんなもんかな…」焚き木を集めて積む

トラウ「おーい魚、取ってきたぞー」トラウが四十cm程の二匹の魚を手に戻ってくる

コウキ「おお!黒いゴノメだな!」


ゴノメ…強位1 山の清流に住む苔や小魚を主食とするマスのような形の魚、黄色い目の前と後ろに黄色い班点が二つずつ、ついており目が五つある様に見えることからゴノメと呼ばれる、食べている主食により体色が違い、苔を主に食べる個体だと緑に近い色に小魚や虫などを主に食べる個体であれば黒に近くなる。黒い方が甘く脂がのっている、逆に緑に近い程苦味が強く、微かに胡瓜の様な香りがする大人の味、大きい物で体長一m近くになる、大食いで栄養を蓄える為、旨みが強い


コウキ「トラウこれに火つけてくれ」そういって比較的乾燥した枝をトラウに渡す

トラウ「任せろ」枝を受け取りゴノメを持つ手とは反対側の手で枝の下の方をグッと握る

コウキ「自分の能力使って火傷すんなよ…」

トラウ「しねえよ…!多分…」握っていた枝から煙が上がり、間を置いて微かに火がつく

トラウ「ついたぞ」

コウキ「流石やるな!」

トラウ「まあな!」枝の火がついてない部分をコウキに向け手渡す、受け取った枝で火をつけ。コウキが内臓だけ取り出し木に刺したゴノメに塩をふって焼く、ゴノメから脂が滴り落ち、火が大きくなる度に香ばしい匂いが食欲をそそる

トラウ「美味そー!」

コウキ「そろそろいいだろ…」

トラウ「いったっだきまーす!あつっ!」トラウが勢いよく齧り取った身が思いの外、熱く息を吸ったり吐いたりしながら口の中の身を冷ます

コウキ「ふーふー、うん久々に食べたけどやっぱ美味えな」

トラウ「だよなー!やっぱ黒いゴノメだよな!」

コウキ「まあ、そうだな…院長は酒のツマミに小さめの緑のゴノメがいいらしい」

トラウ「あー父ちゃんもそうだな、母ちゃんとミレアは黒と緑の間ぐらいが一番つってたな」

コウキ「ミレア大人だな」

トラウ「ショーユ持ってくりゃよかった…」

コウキ「ショーユ?」

トラウ「魚にかけると旨めんだよ!」

コウキ「ショーユなんて初めて聞いたな…」二人で他愛もない話をしながら食事をし、天幕で就寝する

そして翌日早朝

コウキ「おい、起きろトラウ、おい!」トラウを揺すって起こそうとするがまったく起きない

コウキ「こりゃ遅刻するわけだ…うーん困ったな…」起きないトラウに頭を悩ませる

コウキ「あ、そおだ…!」何かを閃いたコウキ、深く息を吸う

コウキ「トカゲ!トカゲが出たぞー!」コウキが叫ぶ

トラウ「トカゲ?!ど!どこだおい!」飛び起き、急いで天幕から飛び出しトラウが辺りを見回すが穏やかな朝が広がっている

トラウ「…?…あれ?」

コウキ「起きたか?おはよう」コウキがしてやったりという顔で天幕から出てくる

トラウ「…コウキ、やりやがったな…」

コウキ「いくら起こしても起きねんだからしゃーねぇだろ、そんな事より行くぞ早く支度しろ」

トラウ「クッソー…」納得がいかないトラウを放って置いて荷物をまとめ始めるコウキ、それを見たトラウも渋々支度する。

コウキ「よし!じゃあ行く前に…」地図を広げるコウキ

コウキ「トカゲを探す場所なんだが…この道を通ってこの辺りを探そうかと思う」

トラウ「…その辺りは赤い丸ついてねえぞ?」

コウキ「トゲクロトカゲは巣を中心に活動する、だから赤丸がトカゲの活動範囲だとすると、」コウキがバサドの中腹より麓に近い所を指差す

コウキ「この赤丸が散らばったとこの中心に巣があるんじゃないかと思うんだ…」

トラウ「ふーん、まあ!そのへんは任せた!」

コウキ「いいのかよ…」

トラウ「だいじょぶ!だいじょぶ!コウキを信用する!」親指を立て何故か自信満々なトラウ 

コウキ「そうか…?じゃあ、とりあえず出発だな!」目星をつけた場所を目指す二人

トラウ「なあ、コウキこれ…」トラウが何かを見つける

コウキ「ん?」土が露出している獣道に普段見かけない足跡を見かける

コウキ「この辺りを普段通ってる可能性が高いな…」獣道を進みながら目的地を目指す、バサド山が近くなる

トラウ「何の匂いだ…?」一瞬、鼻を刺すような酸い匂いが漂い反応するトラウ

コウキ「匂い?」周囲を探り匂いの発生源を二人で探す

トラウ「おーい!コーキー!あったぞー!」

コウキ「おい…!バカ…!大声だすな…!」静かにしろと合図しながら駆け寄る

コウキ「大声だすんじゃねえ…!近くにいたらどーすんだ…!」声量を抑え強く言う

トラウ「すまん、すまん」苦笑いで返すトラウ

トラウ「おい、これ…」トラウが見つけた物を指差す

コウキ「これは…なんかの唾液みたいだな確証は無いけどトカゲが獲物を足止めする時に吐きかけた物かも…まだベタベタしてるな、近くにいるかもしれない…注意しながら進もう…!」山を少し登ると斜面の岩肌に乾燥した粘液の様なものが付着している

コウキ「…この辺りを一回、見てみようか」

トラウ「おう!」

コウキ「トラウはそっち側を見てくれるか?俺はこっち側を見てみる」

トラウ「任せとけって!」

コウキ「気をつけろよ」

トラウ「大丈夫!大丈夫!」トラウがそう言いながらコウキと反対側を探しに行く

コウキ(足跡や付着した体液から考えるにこの辺りだと思うんだよなー…まあ、ハズレでもまだ昼前だし大丈夫だとは思うけど…)

トラウ「おーい…!」トラウが声を最小限にこっちへ向かってくる

トラウ「いた…!いたぞ…!」

コウキ「え?まじかよ?!」

コウキ(いや、そんな簡単に見つかるか…?なんかと勘違いしてんじゃ…)

トラウ「ホントだよ…!向こうの方が臭えから匂いを辿って行ったら穴が空いてて中にいたんだよ!」興奮しながらコソコソとやりとりする二人

コウキ「とにかく見に行こう…!」

トラウ「そうだな…!」静かに小走りし…巣穴らしき場所に近づくとソロソロと忍び寄る、溶かされた様に凹凸の少ない直径一m程の円形の穴が空いている

トラウ「覗いてみ…」コウキに耳打ちする

コウキ(え…?いや覗いてみって…)戸惑うコウキにトラウが行け行けと合図する

コウキ(うわっクッサ!)穴から漏れる匂いを我慢しながら暗い穴に目を凝らすと暗い中でわかりにくいが黒いトカゲがいる

コウキ(動いてねえな…寝てんのか?)トラウがどうだと言わんばかりにのけぞり自慢気な顔をする

コウキ(はいはい、わかったよ…にしてもこいつ寝てんなら閉じ込めて煙で燻すなりした方がいいんじゃねえか?)コウキがそんなことを考えているとトラウに肩をポンポンと叩かれる

トラウ「…じゃあ始めるか」コウキに静かに伝えるトラウ

コウキ(始めるって何を?策でもあんのか?)コウキがそんな事を考えているとトラウが穴の前に仁王立ちし深呼吸する

トラウ「すぅー、おきろー!!」

コウキ「いっ?!何してんだ?!」トラウの行動に驚愕する

トラウ「あぶね!」飛び起きたトカゲが咄嗟に巣穴から頭を出しトラウに噛みつこうとする

コウキ「おま!何考えてんだ!」

トラウ「え?だってこいつだろ?」さも自分の行動が当たり前の様に返すトラウ 

コウキ「はぁ…もういいよ…こんな勾配のあるとこじゃ戦えない、こいつを誘導するぞ!」二m以上ありそうなトカゲが巣穴から出てきて二人にシァアアと威嚇する

トラウ「おっしゃ!」トラウがトカゲへ向かって小石を拾って能力を使い真っ直ぐ打ち出す、顔に当たり擦り傷一つ付かないが苛立ち二人を追いかける、二人が山を駆け下りる

コウキ(この辺りなら良さそうだな…)開けた林に入り、向きを変え追ってきたトカゲと向き合う、トカゲが突如、自分の方を向いた二人を警戒し無闇に襲ってこない


トラウ「久々だな能力使って戦うのは…!」

コウキ「ここ最近、基礎訓練ばっかだったからな…」そう言いながらコウキが空間に穴を開け愛用している双剣を取り出す


トラウの能力…自身や周囲のエネルギーに魔力を流し魔力を流したエネルギーを流動させたり留める事ができエネルギーを別のエネルギーへ変換する事も可能、本人曰わく変換しやすいエネルギー変換しにくいエネルギーがあるらしい


コウキの能力…何もない所に自身だけが開ける亜空間への出入口を作り出す事が出来る、作った出入口は動かすと魔力が乱れて崩れてしまう、亜空間の中の時間経過は通常通り、中は五十mの立方体の箱の様な空間。自身が中に居る時は出入口を閉じたり開けたり出来ない為、強制的に魔力を消費する


コウキの双剣…片方が赤い剣、もう一方が青い刀の双剣。コウキが産まれて間もない頃にオリーブの町近辺になんらかの形でコウキと共に飛ばされており、見つかった時にはコウキと共に飛ばされたらしき男性の遺体があった、その時のコウキの横に添えてあった双剣を愛用している。


三者出方を窺う中、足と右手に力を集めトラウが足に溜めた力を放ち一気にトカゲに距離を詰める

トラウ「オラァ!!」力を溜めた拳でトカゲの左側の頭を打ちつける、少し怯むもののイマイチ効かない

コウキ「そいつは背中や頭が硬い!狙うなら腹だ!」

トラウ「それがわかれば…」腹に狙いを定め力を溜めるトラウにトカゲが消化液を吐きかける

トラウ「おわっち…!あぶねー…」間一髪トカゲの後ろ側へ回避する

トラウ「コウキ!挟み撃ちだ!」

コウキ「あいよ!」

トカゲの前後からコウキとトラウが同時に仕掛けるが、トカゲが後ろの棘を逆立てトラウへ向かって突き立て、コウキへ向かって粘着液を吐きかける

コウキ「うおっ?!汚な!臭っ!」吐瀉物に思わず避けるコウキ

トラウ「くっそ!…おっ!」トラウが自分側に向いている尻尾を、掴み能力で運動力を流動させぶん回し、一回転させた後にコウキへ投げ飛ばす

トラウ「コウキ!任せた!」

コウキ「流石!やるな!」飛んでくるトカゲに向かって構える

コウキ「これでどうだ!」飛んできたトカゲの腹目掛けて斬りつける

トカゲが大木に衝突し、しばらく様子を見るが起き上がって来ない 

トラウ「へへん!どんなもんだ!」

コウキ「ふぅー結構、余裕あったな…」

ロダン「終わったようじゃな…」ロダンが歩いてくる

トラウ「じいちゃん俺らならもう竜だって狩れるぜ!」

ロダン「すぐに調子に乗るでない…」呆れるロダン

トラウ「へっへっへ」ロダンの反応を見て笑うトラウ

ロダン(ただこの歳でこれだけの実力があるとは恐れ入る…)

ロダン「では…帰るとするか!」各々家へ帰り疲れを癒す。

残りの休みの日を訓練に費やし、休み最後の日…。

トラウ「おーい」コウキ「きたよー」朝から森の中を歩いてきた二人がロダンの小屋の前に着く

ロダン「おお…今日は悪いんじゃが昼からにしよう」何か支度しながら伝えるロダン

トラウ「え?なんで?」

ロダン「昨日、議会の者が町に訪ねて来てバサド山の近況を知りたいと言うでな…」

トラウ「え?やだよ」

コウキ「まあ、しゃーねえか…」

ロダン「では三人で町へ戻るとするか…」トラウを無視して話を進めるロダンとコウキ

トラウ「無視すんじゃねえよ!」

ロダン「しょうがないじゃろー」

トラウ「俺ら修行してるからじいちゃん一人で行ってくりゃいいじゃん」

コウキ「確かに…」

ロダン「老いたじじい一人で行かせてじじいになにかあったら…と心配じゃろ」

トラウ「バサド山、散歩出来るじじいが何言ってんだよ」

ロダン「…」

ロダン「裏の野菜、見たらすぐ出発じゃからな…」ロダンが裏の畑へ回る

コウキ「町で適当にやろうぜ」町で特訓しようと促すコウキ

トラウ「そうすっかー」コウキの言葉を聞き渋々了解しながら小屋の中へ入っていく、町へ行くために小屋を掃除していたのか部屋は綺麗、食卓に荷物の鞄が一つ乗っている、鞄を見てトラウがニヤリと笑む

トラウ「コウキ!あの虫のおもちゃ貸してくれ…!」

コウキ「こんなもんで遊ぶ年じゃねえだろ…」呆れながら亜空間から見た目本物のような気持ち悪いゴム性の虫のおもちゃを取り出し手渡す

トラウ「ケッケッケ…!」悪い顏をしながらおもちゃを鞄に潜ませる

コウキ「ぷっ!おま!知らねぇぞ…!」二人がヒソヒソと笑っているとロダンが戻ってくる足音がする

トラウ「お!やべ…!」急いで小屋の前に出て何事もなかったような態度をとる

ロダン「では、行くとするかの…」ロダンが鞄を首から提げ、小屋に鍵をかける

トラウ「こんなの鍵、掛けなくても誰も入らねぇよ…」

トラウ「イテッ!」軽口を叩くトラウの頭をロダンがチョップする

トラウ「いてー、なんだよー…」

コウキ「馬鹿だなー」トラウを見て嘲笑するコウキ、出発しようとするとガザガサと茂みから隊の若い男が出てくる

ジェイナス「ロダン様、お迎えにあがりました」

ロダン「いらんと言うたのに…」

ジェイナス「そうはいきませんよ、では行きましょう」堅物ジェイナスと四人で町を目指し森へ入る

トラウ「誰だあいつ」

コウキ「オリー部隊のやつだよ、会ったことあるだろ?」

トラウ「あるか?」

コウキ「あるよ、オリー部隊の授業の時に来てたよ」

トラウ「ダセー、名前だよなオリー部隊…」オリーブの町の治安部隊の名前を嘲笑するトラウ

コウキ「おまえんとこのおじさんだぞ」

トラウ「は?」

コウキ「名前決めたの」

トラウ「…」トラウが顔を赤くして両手で顔を隠し下を向く

コウキ(オリーブの治安部隊で、オリー部隊は俺もどうかと思う…)

ロダン(ファウデンが決めたのか…そういえばトラウの名前も昔、別のにしようとして皆に非難されておったのー…)少し先行するロダンとジェイナス

ジェイナス「ロダン様は何故、森の中に住われているのですか?」ジェイナスが何気なく問う

ロダン「儂は人の気配が多いとこは好かん」

ジェイナス「ですがもう少し近場でも良いと思うですが?」

ロダン「こやつらの修行場所としても都合がいいんじゃよ」

ジェイナス「魔力の勉強なら教育の一環として学校で受けられるはずですが…」

ロダン「この二人に関してはあそこで学べるような事など何もない」

ジェイナス「左様ですか…」納得していない顔のジェイナス

ロダン「今の机仕事が板についたジェイナスお主なら…二人がかりであれば勝てはせずとも劣らぬよ」

ジェイナス「ご冗談を子供なら何人相手でも変わりませんよ」木々を抜け獣道を歩き北門を潜ってすぐの広場に着く 

ロダン「ではトラウ、コウキ修行は用事が終わり次第じゃ」

トラウ「え?!昼からじゃねぇのかよ!」

コウキ「やっぱそおだよなー…」

ロダン「早ければ昼までに終わる…かもしれん」

トラウ「えー!」

コウキ「自主練だな」

ロダン「流石コウキじゃ」

ロダン「…で二人に言っておくが決してバサド山に入ってはならん!」

ロダン「もし儂の居ぬ間に入ろうものなら三ヶ月修行なし!」

トラウ「なげー!」

ロダン「特にトラウ…わかっておるな?」

トラウ「しゃーね、そんかし!はやくね!」

ロダン「わーっとるわい、儂も大勢に迎えられる様な所に長居しとうないわい」

ジェイナス「ロダン様そろそろ…」

ロダン「うむ」

ロダン「では行ってくるでの」

コウキ「へーい」トラウ「いてらー」ロダンを見送る二人

トラウ「はぁー、今日の半分修行無しになっちゃったな」

コウキ「そうだなー」

トラウ「なあ、久々に海の方行ってみねーか?」

コウキ「んーそうだなー…行ってみっか!」

町の東北東の林を抜けると浜辺や磯が有り、南東へ行くと漁港が有る。

散歩気分で二人は浜へ歩いて向かう。

一方ロダンは、ジェイナスに誘導されてロダンが町の会議等を開く際に使う部屋に入ると、十数名の町の自治や治安を取り仕切っている者に加え、議会の者が数名…皆立ったまま雑談している

ファウデン「おー、親父さん、お久しぶりでトラウの奴がいつも世話んなってます」ロダンの入室に気づいたファウデンが話しかけてくる

ロダン「おー久しぶりじゃなファウデン、まあ儂の孫じゃからの」

ファウデン「そう言っていただけると助かります、たまにはウチにも顔出してくださいよ、サクラやミレアも会いたがってますよ」

ロダン「そうじゃな町に来たついでに顔、見に行くとするかの…」

エイダス「お久しぶりですロダンさん…」

ロダン「おー、立派に先生やっとる様じゃの、あれだけイタズラばかりしておったおぬしがのー」

エイダス「昔の話ですよ」眉を顰めるエイダス

アルマ「あ!ロダンさんお久しぶりっス!」

ロダン「おーアルマか、また逞しくなって…」顔をしかめるロダン

アルマ「なんスか、その顔は…」

ロダン「それで手料理の一つも出来んでは貰い手もないんじゃぞ…?」

アルマ「会って早々にそんな事、言わないでくださいよ」図星で返す言葉もない

ワンド「これはこれはロダン様、議会からオリーブのギルド設立を任されましたワンドと申します」

ロダン「おー、これはこれは、よろしくお願いします」町の者や議員と挨拶を一通り交わした後に一同が席に座

ジェイナス「えー、それでは始めさせていただきます」立ったままのジェイナスが資料を手元に進行し、ギルド設立の為の資材、人材や議会との連携方法等、またそれらの問題点や障害を話す

ワンド「やはり人や物が行き交う際にバサド山が大きな障害になりますか…」

この町は大陸の最東部にあり、北がバサド山、東に海が広がっている、バサド山は村の西側が少し出っ張っている為、西にある街などへ向かう際、山を迂回せねばならない、その上出っ張りからの魔物の脅威を警戒せねばならないので、そうすると余分な人材などが必要になる

ズド「おいファウデンお前なら西側の伸びてる山、どっか飛ばせんじゃねえか?」席に座っている元傭兵の海の漁師頭の荒っぽいズドが提案する

ファウデン「まあ、あれくらいならな…けどその後がなー…」

ワンド(流石はファウデン殿じゃ…)ファウデンの言葉を聞き議会の者達がどよめく

ロダン「ただ山の生態系になんらかの異変は起きるじゃろうな…最悪の場合、近隣の村や町に影響がでるじゃろう」

ジェイナス「山頂付近の魔物が下りてくると対処できるのはロダン様かファウデン隊長あとはズドさんくらいでしょう」問題が解決せず一同が頭を悩ませる

ワンド「…ところで海にも面しておると思うんじゃがそちらはどうなんでしょう」何気なく聞くワンド

ズド「あー、昨日漁港近隣にナミオタツが出たそうでして俺はその場にいなかったもんで直接見たわけじゃないんですが…船を三隻やられましたよ、誰も死んではいねぇみてぇですが、重傷者もまあ…」

ワンド「命を落とすような、者が出ないだけでも幸いですな…」顔を顰めるワンド


ナミオタツ…強位40 体が波打った波紋の様な模様の甲殻で覆われており櫂の様な形の幅の広い尾が生えている、海に棲む体長七〜八mの水竜の一種。特徴的な模様の甲殻が水の抵抗を受け流しており、水中で素早く行動する事が可能。肉は海のありとあらゆる魚類の旨味を蓄積しており味わいが深く脂も蓄えている為非常に美味。素材は船の製造や武具で重宝される


ズド「あー、ただ…船を沈めた後の消息が分からずといったところです…」

ワンド「海岸に近づかぬ様、喚起は?」

ズド「もちろん朝の時点ですぐに」

ワンド「ならひとまず大丈夫そうじゃな…」

ロダン(…まずい!あの二人は知らんままじゃ…!)一点を見つめ冷や汗を流し固まってまま動揺しているロダン 

ファウデン「親父さんどうされました?」

ロダン「儂も今知った故、あの二人に言っておらん…」

ワンド「以前、会ったあの若者ですかの?」

ファウデン「そうです…」ワンドに返答するファウデン

ワンド「ほっほっほ、流石に強位40の魔物が居れば逃げるでしょう」

ロダン「…向かっていき…そうじゃの…」

ファウデン「コウキだけならまだ…大丈夫だけど」

ズド「トラウはなー…殴りかかりそうだ」

アルマ「どうします…?」二人を知る町の者が一様に渋い顔をする

ワンド「では一旦中断して…」

ファウデン「…いや!若くとも彼らもまた戦士です!勝てる勝てぬは彼らが判断し相応の対処をとるでしょう…!」

ロダン「そうじゃな…これだけの方に集まって頂ける事もそうあるまいて」

ジェイナス「…では会議を進めるということで…」

ロダン「無論!」

ジェイナス「では話が逸れたので一旦戻すと西の街道のバサド山の件なのですが…」

ジェイナス「ロダン様、資料の方は本日持って来ていただいておりますか?」

ロダン「ああ、そうじゃったな、あるぞい…アルマそこの儂の鞄、取ってくれぬか」

アルマ「これっスね…はい」荷物置きに置いてあった鞄をロダンに手渡す

ロダン「すまんの…」鞄を受け取る

ロダン「ではバサド山のまとめた…」

ロダン「どょわーー!!な、なんじゃこれは!」ロダンが鞄の奥に入っていた不気味な虫のおもちゃに絶叫する

ファウデン「どっ、どうしました!」ロダンの悲鳴に皆も驚く、鞄の中から出てきた虫のおもちゃを見て皆が沈黙する…

ファウデン(最悪だ…後で絶対、俺が怒られるよ…)

エイダス(イタズラもしないように言っておけば…)

アルマ(ロダンさんも大変だけど隊長も大変っすねー…)

ワンド(あの元気坊主か…)

ズド(トラウは全然、成長しねぇな…)

ジェイナス「では、資料いただいても?」唯一反応しなかったジェイナスが整然と資料を受け取りに行く

ジェイナス「ありがとうございます、では…」気にせず会議を進めるジェイナス


一方その頃、事の張本人達は…浜辺に来ていた

トラウ「ひょえー!海来んの久々だなー!」

コウキ「お前泳げないもんな…」

トラウ「ふざけんな!泳げるわ!…ちょっとだけ…」

コウキ「ぷっ!子供でも泳げるぞ」コウキが嘲笑する

トラウ「くー!このやろ…あれ待て…おい、あれ」トラウが何かに気付き指差す

コウキ「ん…?」トラウの指差した浜辺から少し離れた林の奥に目をやると何か大きな者が寝ている

コウキ「ありゃー…ナミオタツだな!」コウキがトラウを引っ張り物陰に隠れる

トラウ「ナミオタツ?なんだそりゃ」

コウキ「海にいる竜の一種だ…なんでこんな所に…」

トラウ「へえ!ドラゴンか!美味いのか?」

コウキ「ドラゴンなんて言葉よく知ってんな…よだれ垂らすくらい美味いらしい…」

トラウ「マジかよ!」

コウキ「とりあえず町に戻ってみんなに知らせよう…」

トラウ「いや、待て」

コウキ「なんだよ」

トラウ「二人でいけねぇか?」

コウキ「ふざけんな!いけるか!強位40とかのやつだぞ!」

トラウ「でもよ、あいつはいつも海にいるのに陸にいるって事は普通より弱いとおもわねえか?」

コウキ「だとしてもだな…!」

トラウ「でもよ、寝てんだから二人で不意打ちすりゃいけんだろ」

コウキ「うーん、だとしてもな…」

トラウ「でもよ、ガビテ予選の街に行くにも、金が必要だろ?あいついい金になんじゃねぇか?」

コウキ「くっ…こんな時ばっか達者な口だなおい!」

コウキ(金のことなんてホントは考えてねえくせに…!)

コウキ(うーん…でも確かに何かと金はいるしなー…!うーん!)考え込むコウキ

コウキ「よし!じゃあ!…不意打ちしてダメそうなら即退散な!」

トラウ「さーすが話わかるでないのー」コウキをうまく釣れたトラウがニヤニヤしている

コウキ(くー!ムカつく顔だぜ!)

コウキ「ムカつく顔してねえで近づけるとこまで行くぞ!」

物陰や林の木々に隠れながら近づきコウキが空間から双剣をそおっと取り出す、それを見てトラウが右手の拳に自身かかっている重力や自分にかかっている力を右手に集める

コウキ(よし…!行くぞ)コウキがクイっと顎と目線で合図する、トラウが頷く

トラウ「ウオラァァー!!」トラウが莫大な力で水竜の腹部を殴り、水竜が吹き飛ぶ、水竜が木々に突っ込む。コウキがトラウの横を走り抜けていく、起き上がろうとした水竜の首をズバッズバッと斬りつける

水竜「グォ…!」怯む水竜

トラウ「ふぅ…どうだ!」トラウが反動を流しきれなかった右手をさする

コウキ「多分まだだな」水竜が急な衝撃と痛みに怯みながらもゆっくり起き上がり、頭を上げる

トラウ「結構、思っきりいったのにな…!」

コウキ「陸地でもやっぱ竜だな…」

水竜「グォォォー!!」怒った水竜が口を大きく開き咆哮を二人に浴びせる、水竜が首を引き、構えた後に大きな水の弾を吐き出す。二人が咄嗟にコウキが左にトラウが右に避け後ろの大木が折れる。水竜が二発目に小さな水の弾をコウキに向かって吐く、コウキ「あまい!」コウキが亜空間への出入口を作り水弾が、その中へ入る

コウキ「自分でくらえ!」入った直後に隣にもう一つの出入口を作ると先程入った水弾が飛び出し水竜の頭部に直撃する

トラウ「いける!」水竜が怯んでいる隙にトラウが水竜の右側へ回る トラウ「がっ…!」攻撃しようとするも尻尾で薙ぎ叩かれ、勢いよく吹っ飛ぶ

コウキ「トラウ!」トラウに気を取られたコウキを水竜が首で薙ぎ、横からコウキに頭突きする

コウキ「やべっ!ぐあっ!…ぁ!」衝撃に吹き飛び木を折り地面を跳ね横たわる

コウキ(あー…やべー…早く動かねえと…)意識が朦朧としうまく処理できないコウキに水竜が近づく

トラウ「うおー!」コウキに噛みつこうとする水竜の頭部をトラウが殴打する、衝撃により水竜の頭の向きが少し変わるがすぐに方向を変え、体の半分もある様な顎がトラウに噛みつく

トラウ「いっ…!ぐぁーー!」能力を使い、力を相殺するが体に牙が食い込む

トラウ「このままじゃ…やべぇっ…!」

トラウ「コウキ…!いつまで寝てんだ!」

コウキ(ぐう…なんだ…?)フラフラしながら声のする方を見る

コウキ「…え?!おい!」トラウに噛み付いてる水竜に驚愕する

トラウ「今ならいける…!」起き上がったコウキに水竜が警戒しトラウを噛んだまま首を引き頭を上げようとする

コウキ「無茶しやがって!」

トラウ「逃がすかよ!」足に能力を目一杯使って、地面にグンっと押し付ける

コウキ「はあぁー!」動かないトラウに戸惑う水竜の喉元をコウキが切り裂く

水竜「グォッ!」顎を離した水竜が痛みに仰反る

水竜「グォォォ…!グゥ…!」二人から見れば巨体な水竜がズゥゥンと地面を微かに揺らし倒れる

トラウ「勝った…!」痛みを忘れ勝った事に歓喜するトラウ

コウキ「はぁー、ホントに死ぬかと思った…」勝った喜びもあるが死ななかった事に安堵するコウキ

トラウ「やったな!コウキ!」

コウキ「おめぇのせいで酷い目に遭ったよ!…けど、やったな…!」

トラウ「ああ…!」

コウキ「…ただホントに死ぬかと思った…」ため息混じりに言うコウキ

トラウ「はっはっは!俺もだ!」笑い飛ばすトラウ

コウキ「笑い事かよ…」呆れるコウキ

トラウ「生きてたろ?」

コウキ「まあな…」

コウキ「さてと、こいつ入れるだけ入れて帰るか…」

トラウ「おう、頼んだ」

コウキ「あほか!ふざけんな!十mもあるような出入口作れるわけねえだろ!」

トラウ「じゃあどうすんだよ」

コウキ「胴回り…三mくらいの出入口、地面に作るからトラウが押して入れんだよ」

トラウ「俺が一番しんどいじゃねえか!」

コウキ「元々お前が言い出した事だしな、水竜討伐」

トラウ「じゃあ一回、町に帰って皆、連れて来りゃいいじゃねえか」

コウキ「馬鹿やろーその辺にいる生き物に肉食われちまうかもしんねぇし、それにちゃんと血抜きしてない様な肉なんてすぐ臭くなるだろ」

トラウ「くっそー!俺は怪我してんだぞ!」

コウキ「俺もしてるよ、なんだったらお前のせいで」

トラウ「くー!あー言えばこー言う!」

コウキ「しゃねーなー、これやるから頑張れ」亜空間から取り出したトビウサギの干し肉をトラウに渡す

トラウ「こんなもんで頑張れるわけねえだろ…!」干し肉をかじるトラウ

コウキ「食ってんじゃねえか…」

一方町にて会議をしていた大人達は…

ワンド「いやはや、問題もまあ、荒技ではありますがなんとか、なりそうですしよかったよかった」

ファウデン「お時間とっていただきありがとうございました」

ワンド「なんのなんの」議会に参加していた大人達が町中央の広場で挨拶を交わしている

トラウ「おーい、じいちゃーん!」東の通りからトラウとコウキが歩いてくる

ロダン「おー二人とも…どうした!トラウ!血だらけではないか!コウキもボロボロじゃし!一体どうしたんじゃ!」

トラウ「ヘッヘッヘ、ついに俺達、竜を狩ったんだぜ」

ロダン「?」ロダンが要領を得ない顔をしている

コウキ「おい、トラウみんなに見せてやろうぜ!」

トラウ「おう!」そう言って、コウキが頭上に三m程の出入口を創る。その中へトラウが飛び込み水竜を力一杯引きずり出す

トラウ「ぬおー!重てー!!」頭が見える

ワンド「おお!なんと!」

ファウデン「ナミオタツか?!」

ジェイナス「子供二人で狩れる相手では…!」一同が動揺する

トラウ「ズドのおっちゃん!手伝ってー!」

ズド「お、おお…!」ズドとトラウが力一杯引っ張ると十mは下らないナミオタツが出てくる

ズド「冗談だろ…」

コウキ「ズドのおっちゃん解体とかって」

ズド「あ、ああ…任せろ…」

ロダン「これを二人でか?」戸惑いながら二人に問う

トラウ・コウキ「もちろん!」胸を張り威張る二人

ロダン「馬鹿ものー!!」怒声が響く

トラウ「いっ?!」コウキ「うっ!」

ロダン「どれほど危険なことかわかっとるのか!最悪の場合、死んでもおかしくない相手だ!わかっておるのか!」落ち込むトラウとコウキ

ロダン「…」

ロダン「ただよくやった…危険を犯し無茶をした事に関しては褒められたことではない!じゃが水竜をよくぞ討伐した!流石は我が弟子と行ったところかの…」ロダン「ハァ…」無茶な行為にため息を吐く

トラウ「よっしゃー!」コウキ「へへっ」喜び合う二人

ロダン「ただ…!もう二度、無茶をせんと約束せい」

トラウ「わかった!」コウキ「わかってるよ」

ロダン(返事だけはいいんじゃよな…)

ロダン「ハァ…」ロダンが再びため息をつく

ワンド「いやはや、恐れ入ります、この歳で水竜を狩ってきますか…」

ファウデン「無茶な息子でして…」苦笑いのファウデン

トラウ「じいちゃん!こいつの肉、美味いんだってよ!皆で食おーぜ!」

コウキ「今日は焼肉だな!」

ファウデン「ワンドさんや議会の皆さんもどうぞ」

ワンド「良いのですか、ではお言葉に甘えて…」

ズド「ファウデンこいつを俺の仕事場まで運んでくれ、ここじゃ場所もあれだし道具もねえ」

ファウデン「ああ、わかった」

トラウ「じいちゃんも今日くらいはゆっくりしてけよ!」

ロダン「そうじゃな森へ帰るのは…あ!そうじゃ!」

トラウ「いてっ!」コウキ「だっ!」ロダンが二人の頭にチョップする

ロダン「トラウじゃろ!儂の鞄にこんな物を入れたのは!」虫のおもちゃを鞄から取り出す

コウキ(やべー、忘れてた…)

トラウ「いてーなー!俺達、怪我してんだぞ…!」

ロダン「やかましいわ!」さらにチョップする

トラウ「いっ?!」コウキ「いて!」

コウキ「なんで俺まで…」

ロダン「連帯責任じゃ!」

ロダン「まったく…!ファウデン!エイダス!」

ファウデン・エイダス「はい!」

ロダン「お主らの教育がなっとらんからこういう事になるんじゃわかっとるのか!」

ファウデン・エイダス「はい…」

アルマ「まあまあ、そのくらいで…」

ロダン「まったく…!」

ワンド「ほっほっほ、流石はロダン様、健在ですのー」

ズド「ファウデン…こいつを捌くとしようか…」

ファウデン「そ、そうだな!」

アルマ「ウ、ウチも手伝うっス」三人が逃げる様にいそいそと行動する

ジェイナス「ワンド様もし良ければ準備ができるまで町を案内いたしますが…」

ワンド「そうじゃなでは頼むとしようかの」

トラウ「じいちゃん、俺らは修行だな」

ロダン「馬鹿もの!病院に決まっとろうが!」

トラウ「えー!」

ロダン「当たり前じゃろまったく…!ほれ!二人とも行くぞ!」

トラウ「はぁー修行だと思ってたのに…」落ち込むトラウ

コウキ「血だらけで何言ってだ…」トラウの言動に呆れるコウキ

その夜、町中心の広場で町をあげての宴が行われ、翌朝まで続いたせいで大人達が酔い潰れ学校は休校になったという…

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