ルーティーン
あかりんりん
ルーティーン
ルーティーン
「習慣的、定型的な手続きや仕事のこと。日課。定常処理。英語ではroutine」
私の名前は二宮(にのみや)。
このマンションの二階の住人だ。
自分でいうのもアレだが、そこそこ有名な大企業に勤めており、毎朝5時に起き、朝食を一人で食べ、歯磨きをして6時にゴミ袋を持ち家を出て電車で会社へ向かい、帰ってくるのは毎日21時過ぎだ。
こうなりたいと望んだ訳ではないが、気がつけばこれが私のルーティーンだ。
数年前まで、「サービス残業」は月10時間程度が当たり前、月20時間以上で一人前、多い人は月100時間を越えて自慢していた人もいた。
しかし、今では「コンプライアンス」が当たり前で、サービス残業も「賃金未払い労働時間」と制度名も変わり、「賃金未払い労働時間の撲滅」が当たり前になりつつある。
それなのに不景気に加えて業務効率化検討のため、皮肉にも業務量は増えており、上司を含め変化する会社の方針に不満を持ってはいるが、文句を言っても変わることはなく、多くのストレスと闘っていた。
そして私は、その日も、いつも通り、朝5時に目覚ましで目を覚まし、6時に家を出た。
俺の名前は三谷(みたに)。
このマンションの三階の住人だ。
俺は中学、高校といわゆる「悪ガキ」で、16の頃からバイクを乗り回していた。
だが、ノーヘルで白バイから逃げる時に事故ってしまい、下半身が動かなくなった。
それからずっと車椅子生活だ。
だが、幸いにも祖父がこのマンションのこの部屋と複数の部屋を持っていたので、家賃収入だけでもなんとか暮らしていけた。
今では祖父と両親はもう死んでいて、頼れる人もいないので、買い物だけはどうしても苦痛だった。
そして、その日もいつも通り、この部屋の真下に住む住人が朝6時に家を出た。
その音を聞いて、俺は車椅子でエレベータに乗り、二階に降りて俺の部屋の真下の二宮の部屋へ入る。
このマンションの1階の入口はオートロックとなっているが、安心して二宮は部屋のカギを締めていないこともルーティーンとなっていた。
俺は二宮の部屋へ入り、おそらく二宮の実家から野菜や食料品が大量に送られている段ボールを開けて、中身を少しずつ取って、自分の二つのリュックサックに入れる。
毎週のように届く大量の食料品は、二宮の仕事の帰りが遅いためか、料理嫌いなためか、ほとんどがダメになっている。
だから俺が持って帰って役に立ててるんだ。
「二宮もゴミが減るし、Win-Winってやつだな」
そう呟いて俺は昼前までゆっくり物色して、自分の部屋へ戻っていった。
僕の名前は四熊(しくま)。
このマンションの四階の住人だ。
テキトーな大学に通いながらフリーターをしている。
そんな僕だけど、一応夢はある。
それはアパレル関係の仕事に就くことだ。
小さい頃からファッションなどのオシャレに興味を持っていて、在学中も二回ほどプロのカメラマンに声をかけられて写真を撮ってもらい、雑誌に載ったことが更に夢を追いかけるきっかけになった。
食べることも小さい頃から好きだったけど、太ってしまうと着こなしが難しくなるから、常に体重を管理して痩せ型をキープしつつ、ジムに通い筋トレをすることがルーティーンとなっていた。
そして、その日もいつも通り、この部屋の真下に住む住人が6時15分頃に家を出た。
その音を聞いて、僕は三階に向かい、僕の部屋の真下で、カギを締めていない三谷の部屋へ入る。
三谷の部屋にはあちこちに現金が乱雑に置かれている。
三谷ってやつは金に興味が無いのか、あるいは金を有り余るほど持っているのかは分からなかったが、こたつの中やテレビの裏、トイレのトイレットペーパー置き場に数万円が置いてあったこともある。
同じ箇所から取ってもバレないとは思うが、念のため、複数の場所からくすねて、ポケットに入るだけ現金を入れてから、僕は三谷の部屋を後にした。
あたしの名前は五十嵐(いがらし)。
このマンションの五階の住人。
昔から目立つことが大好きで「人より違う」ことをすることが大好きなの。
今は高校生だけどデザイナーを目指してて、あたしがデザインした服とかをネット上に投稿してる。
今はまだ数人しかフォロワーがいないけど、いつか私のデザインを気に入る人が増えて、それから企業に注目されて、あたしも有名になってお金持ちになってセレブの仲間入りするのが夢なの。
だけど今は地元から上京していてお金が無い。
服もたくさん見たいけど、さすがにお店の写真を撮らせてはくれないから、雑誌で我慢してる。
そんなあたしには親友にも言ってないルーティーンがあるの。
そして、その日もいつも通り、この部屋の真下に住む住人が6時30分頃に家を出た。
その音を聞いて、あたしは四階に向かい、あたしの部屋の真下に住んで、いつもカギが開いている四熊の部屋へ入る。
四熊の部屋の洋服棚を開けて、洋服を端から端まで写真を撮る。
さすがに一枚ずつ取り出している時間は無いので、急いで撮る。
ここに来る度に服が増えていて、写真も撮るから帰って細部までゆっくり見れるし、なにより近いこともメリットね。
写真を撮ってそそくさとあたしは四熊の部屋を後にした。
そして日曜日の午後。
二階に住む二宮は、マンションの1階の駐輪場に「いつもの原付バイク」が駐輪場に無いことを確認して、5階の五十嵐の部屋へ向かった。
確認した原付バイクは五十嵐のもので、それが無いということは、五十嵐は外出しているということだ。
二宮はカギをかけていない五十嵐の部屋に入り、それこそ足の踏み場も無いほど部屋中に置かれている雑誌を数冊拾い上げ、部屋を後にする。
最近の若い子はこんなアイドルが好きなんだな。他にはこんなスイーツ店が人気なのか。なるほど。
独身の二宮は会社の若い子の興味を引くために若者向けの雑誌がずっと欲しかったが、この年になってそんなものを買うなど絶対にイヤだというプライドがあったため買うことが出来ずにいた。
だから週末に、女子高校生である五十嵐の部屋から雑誌を拝借し、また次の新しい雑誌を拝借するタイミングで読み終えた雑誌を五十嵐の部屋へ返すことが、二宮のルーティーンとなっていた。
「ホントにあのマンションの住人は面白いな」
彼らの向かいのマンションに住んでいて、この部屋の窓越しから4人の行動を見ることが、趣味の無い私の、いつしかルーティーンとなっていた。
以上です。
読んでいただきどうもありがとうございました。
最近はお湯割り焼酎+柚をゆっくり飲みながら、パソコンに向かい小説を書くことが楽しくて、私のルーティーンになりつつありますが、他にも夢中になって楽しめることをつくりたいなと、今からワクワクしています。
ルーティーン あかりんりん @akarin9080
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます