第6話 名所の『謎』を解いてみた

 大画面に目をやったヒロシが不思議そうに言った。

「ねー、枝振えだぶりといいみきといい、どっかで見たようなファンタジーな木だけど、これって実在してんの? それともゲーム内の木?」

「実在している。マダガスカルのバオバブ並木だ」

「へぇ。マダガスカルだったら、ここの『謎』には動物が出てくるとか?」

「その通りだ」

 山内が操作するウサギ獣人が『謎』に触れると、【バオバブ並木の謎 その1】とウィンドウが出た。【挑戦ちょうせんしますか? YES NO】の【YES】を選択すると、


【第1/5問】

【この尻尾は誰でしょう?】


 という文章と、しましまの動物の部分写真、写真の下に解答を入力するらん□□□□□□□が表示された。


「しましまのふっさふさ。ぬいぐるみみたいだけど、天然モノ?」

「ワオキツネザルです」

即答そくとう? アリスちゃんて実は動物好きなの?」

「いえ、たまたま聞いたことがあっただけです」

 山内が入力欄に【ワオキツネザル】と入れて【OK】を選択すると【正解!】と表示され、次の問題に進んだ。


【第2/5問】

【ワオキツネザルの「ワオ」とはなんでしょう?

 1.WOW!

 2.輪尾  】


WOWワオ! キツネザル!」

「2です」

 山内が2を選ぶと次の問題に進んだ。

「アリスちゃん、なんで知ってんの? やっぱ動物好きでしょ?」

「たまたまです」

「えー?」

 そのままアリスは五問とも正解した。

「ちょっとー。俺にも解けそうなのないのー?」

「あるぞ」

 マダガスカルにもうひとつあった『謎』は、


【バオバブ並木の謎 その2】

【人間1人と3種類の動物が川の向こうに渡りたい。船はあるが、その船には人間と動物1匹しか乗れない。船を動かせるのは人間だけだ。動物はそれぞれ天敵関係なので、食べられないようにしないといけない。】


 というもので、【挑戦する】を選択すると、洞窟どうくつやダンジョンなどに入ったのと同じ感じで、フィールドが切り替わった。

 画像もドット絵風になり、動物と人間のミニアイコンを実際に船に乗せたり下ろしたりして解くものだった。

 それはヒロシがなんなく解いた。

「昔、似た問題を解いたことあったんだー。んじゃさ、マダガスカルの前に行ったカラフルな山は? あれも実在してんの?」

 山内はウサギ獣人をひとつ前に見た名所まで移動させた。

 草や花がないのに、山肌自体があざやかないピンク、薄緑うすみどり、黄色がかったオレンジ色などの大きなすじでしましまになっている山が大画面に映る。

 絶景を見下ろす位置に、カラフルな模様の入った服を着たNPCアリスがいた。

「ここはペルーのレインボーマウンテンだ」

「マジで実在してんのか! ここはどんな『謎』なの?」

「たしかひとつは名所トリビアクイズだな」


【レインボーマウンテンの謎 その1】

【第1/3問】

【レインボーマウンテンの正式名称は、ヴィ〇〇〇〇山】


「え? レインボーマウンテンが名前じゃないの? ヴィ? ヴィクトリア山?」

「ヴィニクンカ山です」

「ええ? アリスちゃん、なんで知ってんの?」

「たまたま聞いたことが」

「待って。それってもはや常識ってこと?」

 その後も続いたトリビアクイズにもアリスは全問正解した。

「くぅ。俺にも解けそうな『謎』ある?」


【レインボーマウンテンの謎 その2】

【制限時間内にレインボーマウンテンを登りきって戻ってこよう!

 観光客の体力がゼロになると失敗だよ。

 高山病の薬、ペットボトル水、酸素ボンベをうまく活用してね。】


 やはりフィールド画面が切り替わり、画像はドット絵まではいかないまでも昔風になって、山へ行きたい観光客を案内する独立したミニゲームのようになった。

「うわ。けっこうヤバかった。ギリギリセーフ」

 初回で解けるのはかなり優秀なのだが、朔哉は黙っていた。

 山内はヒロシからコントローラーを受け取ると、なにも言われずとも、レインボーマウンテンの前におとずれた名所へと移動した。

 大きな画面に並ぶ金色の神像がまぶしい。

「タイのチェンマイだ」

「おぉー。ピッカピカ。どこかで写真を見たことあるかも。いちど本物を見に行ってみたいなー」

 チェンマイにも名所トリビアクイズがあり、またアリスは全問正解した。

 もうひとつは【寺院をできる限りたくさんまわりたいお客さんがいるよ!】で、『制限時間内にいかに効率よく多くの寺院をまわるか』という内容だ。模範解答はない。

 何ヶ所まわるかも自分で設定でき、選んだ寺院の組み合わせごとに他プレイヤーのベストタイムが表示され、自己ベストタイムを出すのに燃える仕様になっていた。

「ヤバい。これ地味にハマりそう。次は?」

「スコットランドの奇岩きがんだ」

 いくつもの不思議な形の岩が荒涼こうりょうとした丘に立ち尽くしている。

「わー、なんかアヤしい魔法使いがかくれ住んでそう」

「……エディンバラには有名な魔法使いの小説の作者が一時期住んでいたらしい」

「へー」

 今日のアリスと同じ服を着たNPCアリスが岩の近くに立っていた。

 ここでも名所トリビアクイズにアリスは全問正解する。

 もうひとつは、今までのようにはっきりした謎解き要素もゲーム要素もなくて、『空中に浮かぶ光る輪の中に入るとワープして別の場所へ移動する』というものだった。

 ヒロシが操作したところ、不思議な美しさのある場所にどんどん移動していった。

 どこもスコットランドの名所らしい。美しい建物や風景を見たり歩いたりして楽しむことが目的らしく、特にゲーム的な要素はない。

「あー、なんかこういうのもいいね。癒やされるー。『謎』ってナゾトキだけじゃなくてミニゲーム集なんだね。これはハマるのもわかるわ。MMORPGは時間的にできないけど、ちょっとだけゲームしたいから、『謎』アプリの方をスマホに入れようかなぁ」

 SOUVENIRアプリは二種類あって、PC版をしない人用に連動しなくていい『SOUVENIRの謎』という『謎』だけを楽しめるバージョンもあるのだと、この前ヒロシは同僚に教えてもらっていた。

 朔哉はそのアプリの存在を知ってはいるが使用していない。

 PC版SOUVENIRと連動していないからか、いくつかの『謎』が謎アプリには収録されていないからだ。

 肝心の『紅葉の謎』も省かれている『謎』のひとつだ。

「これもう一回やりたい」

 ヒロシはすっかり『謎』のとりこになったようだ。

「ヒロシさん、次は私にもやらせてください!」

 アリスも楽しんでいるようだが、朔哉の表情は浮かない。

 名所トリビアクイズは簡単なトリビア問題とはいえ、中にひとつはネットで調べないとわからないような問題が混ざっている。なのにアリスは『謎』を解きすぎている。

(全問答えられるのは、ただ博識なだけか? それとも隠しているがSOUVENIRの関係者なのか?)

 朔哉が怪しんでいる間にヒロシとアリスは満足するまで遊び、次に移動したのは、さわやかな緑の竹林の中を通る一本道だった。

「あれ? よく見たら、なんか見覚えあるような?」

「京都。修学旅行で行っただろ」

「あー」

 レトロなチェックのワンピースを着たNPCアリスが一本道をゆっくりと歩いている。

 京都の名所トリビアクイズにもアリスは全問正解した。

「ちょっ、アリスちゃん! スゴすぎるよ! 今まで全部、全問正解ってヤバいっしょ? 実はクイズ王目指してんの? それとも単に俺が物知らずなだけ? って、自分で言っててダメージががが」

「いや、普通にすごい。ついでにもうひとつ解いてもらってもいいか?」

 朔哉は今まで行った名所とは明らかに違う、いわゆる観光客目的の名所に移動して、そこのトリビアクイズを見てもらった。


【最近一番人気のソフトクリームはどーれだ?】

【1.メロン

 2.サツマイモ

 3.リンゴ】


「……わかりません。」

「これ、土地柄的にリンゴじゃないのー?」

 答えを覚えている朔哉は正解を選び、そこのトリビアクイズを最後まで見せたが、アリスはどれも「わかりません」と答えた。

 今度は観光客目的ではない名所ながら、NPCアリスがアリスの知らない服を着ている場所に移動する。


【動物園や水族館で働く飼育員になるのに資格はいる?】

【1.いる

 2.いらない

 3.いらないが、ある方が望ましい資格がある】


「……わかりません」

 再びアリスはどれも「わかりません」と答えた。

「どうしたの? 今まで全部答えられてたのに。あ、ズバリ動物じゃない問題だったから?」

「ですから。今までのは、たまたま聞いたことがあった内容だっただけで」

「今までの話は聞いた?」

「施設にいたおばあさまです。『若かった頃は海外にもよく行ったのよ』と話してくださいました。いつも楽しそうに話してくださるので、何回も聞くうちに自然と覚えてしまったんです」

「その人の名前を聞いてもいいか?」

「朝倉さんです」

「あさくら……もしかして、家電メーカーASAKURAの朝倉夫人か?」

「あの、そのかたかどうかはわかりませんが、朝倉さんの名前は桜さんです」

(繋がった!)

「サク? どうした? サク?」

 立ったまま動かなくなった朔哉にヒロシが何回も呼びかけるが、反応がない。

 朔哉の頭の中は目まぐるしく動いていた。

 家電メーカーASAKURAは、CMにSOUVENIRの画像を使っているメーカーだ。

 ASAKURAのメーカーロゴが前の社長の時にアルファベットのAと桜の花を組み合わせたデザインに変わった。

 その由来は社長夫人の名前からだとどこかで読んだ。

 確かそこには、『家内と一緒に行った思い出の地を再現して欲しくてSOUVENIRに協力した』とも書かれていたはずだ。

(それをどこで読んだ?)

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