百合の花 ー11ー

A(依已)

第1話

 しばらく、あてもなく町をぶらついていると、どうしようもなく喉が渇いた。

 "茶館"と書かれた店に飛び込んだ。

「ホワンイングワンリン」

と、店員は中国語でなにやらいい、わたしを招き入れた。

 不親切にも漢字のみで書かれたメニューを指さし、てきとうにお茶であろうかと思われるものを注文した。

 透明のグラスに、いっしょに運ばれてきた、透明のやかんのお湯を注いだ。

 すぐに飲もうとすると、それに気づいた店員が、"待て"といっているようだった。

 はやく喉を潤したいのだが、しばらく待つことにした。

 グラスの中のお湯が、その透きとおった透明感を保ったまま、うっすらと色づいた。ただの茶葉だと思っていた、底に沈んでいた塊が、徐々に開き始めた。そして、これはハーバリウムなのではなかろうかと見紛うほどに、中で静かに、そっと開花した。

「うわーっ!」

 無邪気な小学生のように、思わず感嘆の声をもらしてしまった。茶葉にくるまれていた薄紅色の花は、とても綺麗だった。まるで、花嫁が手にするブーケのようだ。

 後で知ったのだが、このお茶は、どうやら"工芸茶"と呼ばれるものらしかった。

 わたしは普段なら、食事のたびに写真を撮って、映えに専念する同世代の女子達に、違和感を覚えるのだが、そのあまりの優雅さに、思わずカメラを構えた。

 ひと口、お茶を含んだ。ジャスミンの香りが、すうーっと優しく鼻を抜けた。わたしの心が、ほっこりとしていくのがわかった。心の渇きも、どうやら幾分、癒やされたようだった。

 窓からは薄日が射し、のどかな田園風景が、眼下にひろがっている。

 

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百合の花 ー11ー A(依已) @yuka-aei

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