現出と衝突 その3
あー意識が遠のいてきたな。これは本当に僕は死ぬんだろうか。まぁいいかあの子は無事みたいだし。
「――ありえない! 私の治癒術では手に負えないくらいだったのに」
セレナの声が少し遠くに聞こえる。
「――まさか私より上位の術を使ってるの?」
身体が揺さぶられる。ちょっと乱暴じゃないか? せめて安らかに眠らせてくれ。
「キミ! 全然死なないよ! 起きて!」
何を言ってるんだ。こちとら身体がボロボロだぞ。流石に生存できないことくらい自分でもわかる。
「むーっ。こうなったら!
「あばばばばばば」
僕の身体にテーザー魔法をくらったみたいなものすごい痺れが来た。一瞬自分の骨が透けて見えたような気がする。
「なにするんだ!」
思わず身体を飛び起きさせて怒鳴りつけた。
「だって起きないんだもん」
なんだコイツ頭おかしいのか? もう死ぬってやつに電気ショックって。心肺蘇生でもする気か?それは心臓が止まってからするもんだぞ?
「というか、穏やかにさせてくれよ。もう僕の身体はボロボロだ――」
違和感に気づく。焼けるような痛みが消えていることに。もちろん完全に痛みが消えたわけではない。今も身体は動かしたくないくらいには痛い。しかして見れば、欠損した部分や大きな傷が元に戻りかけているのだ。
僕は彼女に尋ねた。
「治癒術とやらを使ってくれたのか?」
「ううん。私は使ってない。キミが自分で治したんだよ。というか――」
彼女は頬を膨らませ、目を潤ませ、小刻みに震えている。
「私の涙をかえせーっ!」
「知るかーーーー!!」
「元はと言えば、キミが1人でも大丈夫とか豪語するから!」
「そっちはそっちでウッキウキで飛んでいったくせに何言ってんだ!」
確かに僕が行ってこいと言ったのは事実だが、それとセレナの憤りとは全く別の話だ。僕のせいにしないで欲しい。
「私は心配したんだよ! なんでかはよくわからないけど涙まで流したのに!」
「勝手に自分の涙を安売りしただけじゃないか!」
「ひどい! でもそれだけ騒げるなら大丈夫そうだね」
「え? あぁ、うん。そうだね」
「やっぱり大丈夫なら文句をいっぱい言わせてもらうよ! まず最初に――」
あれ、なんか騒いだらまた視界がふらついてきた。やばい、これ倒れるやつだ。意識が急速に遠のいていく。
「あ、ちょっとキミー! おーい――」
◇
「鞍部継穂クンか」
「気になるのですか?」
「無意識に上位治癒術を行使したことに興味はあるね」
いくつかあるモニターのうちの1つに1組の少年少女が映っている。画面が切り替わり超高層ビルが建ち並ぶ街の情景が映った。
その部屋には、動きやすいように改造された和装の若い男と、燕尾服の壮年の男性がいた。
「代表と同レベルの治癒術ですからね」
「いやいや
「相変わらず謙遜か尊大かわからない態度ですね。それと
「えーじゃあ拙者とか?」
「なぜそんなにも古風なのですか。それで時代に馴染んでいるつもりで?」
スーツの男は半ば呆れたように問い返す。
改造和装は親指を自らに向け、
「じゃあボク様でどうだ!」
「子供ですか。ボクでいいじゃないですか、やつがれと同じ意味ですよ」
改造和装は何か納得いかなそうな表情をする。後ろ頭を右手でかきながら彼は言う。
「一人称なんてのはどーでもいいんだよ!」
「代表がふざけなければ良かっただけですよ。それで、彼の処遇は如何しますか?」
「……うん。ウチに誘ってみようか」
スーツの男は手帳を開き、何かを即座に書き記す。そしてパタンと手帳を閉じ、指示されたことへの返答を行なった。
「では代表、その手筈で進めます。くれぐれも書類仕事のバックれはないようにお願いします」
「
「仕事ですから。それに代表がそういうことを仰っているから私が仕事をこなしているのです。それでは失礼致します」
そう言い残すと、スーツの男はモニタールームから出ていった。和装の男は椅子に倒れ込むように座り、大きなため息をついた。
「労いが足らないよ、労いが。別に仕事してないわけじゃないってのに。このモニタールームの遠見の術だってボクが休めば機能しなくなるのにさ」
彼は目の前のデスクに肘を置き、頬杖をつく。指を鳴らすと、目の前のモニターに再び、銀髪の少女と言い争う少年が映る。
「地脈が荒れて状況が混沌としてきた中で現れた、高位魔術を使う少年か。楽しいことになってきそうだ」
彼は新しい玩具を手に入れた子供のように声を出して笑う。笑い声が部屋の外にまで聞こえるのではないかと思えるくらい感情が溢れ出しているようだ。
「さて、彼は時代の転換点たる
和装の男は誰もいなくなった部屋で人知れず独り言ちるのであった。
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