氷の世界に叫ぶ。カッコいいを始めよう、と
キューイ
氷に叫ぶ
「スマーッシュッ!!」
ウィンディは思い切りツルハシを氷に叩きつけた。目の前に広がる氷の壁の一部が弾け氷片と化して辺りに飛び散った。しかし気持ちよく砕けたということでもなく、反動がウィンディの腕を痺れさせた。
「いった…………まだまだぁぁ!」
少し弱音が出てしまうもウィンディは再びツルハシを構えた。彼女の目の前に広がる氷の壁の中にはヒーターが埋まっていた。透明な氷にすけて四角いシルエットが見えていた。
一昔前に広がった氷の壁は文字通り文明の発展を妨げている。ツルハシを持った氷鉱夫たちが日々氷の中に埋まってしまった電化製品や、資源、食料を取り出さねば生きていくことは難しい。
そんな氷鉱夫の1人であるピンク色の髪の少女、ウィンディは今日も元気に技名を叫びまくって氷を砕いていた。
「ウルトラスーパーハイパードラゴンアタック!!!!」
先ほどよりいい音が響いた。 目の前の壁にヒビが入って、氷塊がぼろぼろと崩れた。少しヒーターの隅が露出する。ウィンディは今度はツルハシを短く持って細かく削るように氷の壁に打ちつけていく。氷の壁を掘る上の鉄則として、取り出すターゲットに近づいてきたら細かく氷を削るようにするのだ。なぜならそうしないと製品そのものが傷ついてしまう恐れがあるからだ。
「今度は細かく細かく、ビリオンセンシティブマシンガン!!!」
「だぁぁぁぁ!!うるさいわ!」
ウィンディは突然の大声にビクッと体を震わせて真後ろを振り向いた。同僚であり先輩、コウク採掘氷場のリーダーであるドクリが眠りから覚めたのだ。氷の壁が現れてから屋外はとてつもなく寒くなっており、外気に触れた水は片っ端から凍りつくほどだった。そんな中で眠るほどだらけているドクリは欠伸をしてからウィンディを睨む。
「さっきから聞いてりゃなんだウィンディ!」
「何って何よ!」
「変な技名つけやがって!ただの叩きつけだよお前のは!」
「か、かっこいいでしょ!」
「カッコよくねぇ!俺が眠れねぇだろうが!」
ドクリは髪の毛をわしゃわしゃと掻いてから立ち上がった。どすどすと大きな足音がするほど背の高いドクリはウィンディのそばまでやって来ると胸の高さほどの背丈のウィンディの肩をつかんで氷の壁から引き離す。
「あと、さっきからちょっとみてりゃ氷の打ち方がなってねぇ!ちょっとツルハシを貸してみろ」
ウィンディは少しほおを膨らませてからツルハシをわたし、氷の壁から離れた。
ドクリはツルハシを両手でもち、腰を落として低く構えた。先ほどのだらけた印象とは打って変わって只者ではないような雰囲気が彼を覆い尽くす。彼はたしかに氷鉱夫において達人である。しかしそれが他の氷鉱夫に知られないのはだらけているからだ。
「みてろよ、ウィンディ!半円を描いて……こうだ!!!」
砲弾が氷の壁に衝突したかのような衝撃が響いた。辺りに風が巻き起こり、氷片、氷塊が巻き上がった。しばらくするとガラガラと音を立ててそれらは地面に落ちて割れていった。ウィンディはあまりの勢いに目を瞑っていた。氷の音が響き終わり、少しウィンディが目を開けるとヒーターを片手で掴んだドクリがそこに立っていた。
「……か、かっこいい……」
「ふふん。まぁこんなもんよ、ウィンディも作業頑張れ、そして早々に帰れ、静かに俺は寝たい」
「一言余計だなぁ」
ドクリはツルハシをウィンディに返して再びベンチに戻って横になった。
ウィンディもまた再びツルハシを構えた。氷の壁にはえぐれたような大きな穴が空いていた。そして感心と共にウィンディは異変に気づく。氷の中に何かいるのを見つけたのだ。
氷鉱夫が作業をする上で敵が氷の壁だけなら生活と氷鉱夫の作業も少しは容易になるだろう。しかしそうはいかないわけがあった。氷の中には守護者と言われるモンスターが時たまいるのだ。敵意がないならその場で彼らと別れるが、敵意が有れば氷鉱夫は抵抗するしかない。そんな守護者の一体、ハードハードルがガラス一枚を隔てたているかのように氷の中、そこに確かにいた。
「ドクリさん!ハードハードル!守護者出現!氷削りすぎたんだよ!!ドクリさん!」
ウィンディはドクリを叩き起こす。めんどくさそうにドクリは起き上がり、あたりを見渡す。そして今にも薄くなった氷の壁の一部から今にも氷から出てきそうな足が硬い鱗に覆われた人型の守護者、ハードハードルを見るや否や跳ね起きた。
「まじかよ、ダルいな!おい、ウィンディ!戦闘態勢!お前のツルハシ貸せ!そしてその間に俺のツルハシもってこい!」
「はい!」
そう言った直後ガラスの割れるような音と元にハードハードルが氷の壁を突き破って出現した。敵意があるのは一目瞭然だった。ウィンディは急いでコウク採掘氷場の氷鉱夫の控え室に駆け込んだ。中は散らかっていて洋服でいっぱいだ。
その中から銀色のツルハシを見つけ出しウィンディは引っ張り出す。すぐさまそれを持ってドクリの元へ駆け戻る。
ちょうどドクリに向かってハードハードルが硬質化した鱗に覆われた足で蹴りを喰らわせているところだった。ドクリはツルハシの柄でガードしているも少し押され気味だ。
「ドクリさん!!」
連続で続く蹴りの激しさにドクリの使っているウィンディのツルハシは歪みそうだった。ウィンディは彼が取りやすいようにツルハシの刃の方をもって柄をドクリの方へと向けた。
「受け取って!」
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