◼️◼️◼️◼️の島

富升針清

第1話

 男は長い時間、船に揺られてその土地にやってきた。


「こ、ここは……」


 男は白い人だった。肌が白く、髪は金髪。綺麗な緑色の目を持っていた。


「地図にない新しい土地だっ! ひ、人はいるのか!? 人は……」


 男は地図を持って浜から走り出しました。

 男は遠い海の異国の地から遥々やってきた男で、この未開の地を探していたのです。

 しかし、この未開の地に人がいなければ、男には仕事になりません。

 浜には人影もなく、船もない。

 最悪の結果が、男の脳裏に過りますが此処迄辿り着くのに、男は多くの犠牲もお金も払ったのです。

 何とか何かないのか。

 祈る心で男は森の中に入り、足早に森を抜けてきました。

 男が森を出ようとしたその時です。


「◼️◼️◼️◼️」


 誰かの声が聞こえてきました。

 明らかに、人間の声です。

 でも、何を言っているのかは分かりません。

 しかし、声は確かにしたのです。

 男が恐る恐る振り返るとそこには、一人の女の子が立っていました。

 女の子は頭の上にとても大きい瓶を持っており、男と目があうと、はじけんばかりの笑顔で一礼しました。

 女の子は肌の色が濃く、絹のように美しい白い髪を長くたらしておりました。


「き、君はこの土地の人かい?」


 男が恐る恐る女の子に声を掛けると……。

「◼️◼️◼️◼️」


 そう、女の子は笑いながら答えました。

 矢張り、女の子の言葉を男は理解できません。

 どんな発音なのかすら、男には聞こえないものでした。

 ですが、男は喜びあまり女の子を抱きしめたのです。

 人がいる。

 それだけで、男は激しい喜びを感じました。

 長く辛い航海の日々を思い出すと、涙さえ零れ落ちそうでした。

 そして、男は神に感謝を捧げました。

 無事に航海を終えた事に。

 目的が果たせれた事に。

 それに……。

 言葉が通じないとは都合が良い事に。


「君たちの部族、いや、仲間の人はどこにいるのかな?」


 しかし、何時迄もこうしている訳には行きません。

 身振り手振りで男が話すと、女の子はまたもにっこり笑い、男の手を掴んで再び森の中に入っていきました。

 話が通じたのでしょうか。

 確信は持てないまま、男は不安げに女の子の後ろを歩きます。

 それから暫くすると、漸く森の中で開けた場所に辿り着きました。

 そこには、 女の子の種族の人々がたくさんおりました。誰が旅人の男を毛嫌いする人もなく、みんな笑顔で男を村に迎え入れました。

 でも、矢張り言葉は通じません。

 しかし誰もが男に笑顔を向けて、そして男を労う様に沢山のフルーツや美酒を男に振る舞いました。

 どれこれも美味しい事!

 まるで、楽園に来た様な夢見心地ではありませんか。

 男は皆に勧められるまま、沢山のフルーツを頬張っていました。

 その時です。


「あら。お客人がいらしたの?」


 ひとつのテントから、その場には似合わない白いワンピースに、白い日傘。ピンクの髪に白いリボンをつけ、隣に小さい白い犬を連れた女性が出てきました。

 どう見ても、ここに居る人達とは違う人種、それでいて女性の言葉は男にも分かりました。


「……君も、客人なのかい?」


 男は酷くと驚いた顔でいいました。

 なんたって、ここは未開の地。

 まさか先客がいたとは夢にも思わなかったのですから。


「客人? 私がですか? いいえ。この子の散歩ついでに立ち寄っただけ。ちょっと疲れたので休憩させてもらいましたの」


 女性はそう男に言いました。

 見たところ、何処かの国の御令嬢でしょうか。

 気品ある振る舞いに男は目を見張ります。

 しかし、それよりも。

 男は叫びました。


「散歩って、この国は陸伝いにあるのかい!?」


 ここは船でしか行けない未開の地ではないのか。

 苦労して手に入れた地図は、まさか騙されたものだったのか。

 男の顔は見る見る心配色に染まって行きます。

 それを見て、女性は小さく笑いました。


「いいえ。違いますわ。ここは海に浮かぶ島ですわ。貴方は何の用でここにいらしたの?」

「あぁ。そうなのか……。よかった……。ああ、君は僕の言葉がわかるから、この島の人間じゃないよね……。僕は、奴隷商人なのさ。最近植民地から連れて来る奴隷たちがいまいちばっかりで、困っていてね。だから、僕は新しい奴隷を探すことにしたんだ。僕は本当に付いている! 何たって、一回の出航で、こんなにいい奴隷牧場が見つかるなんて……」


 男は女性に自慢げに話しました。


「まぁ。奴隷商人でしたの」

「えぇ。見るところ貴方はどこかの国のお姫様じゃありませんか? どうですか? この機会に。一個奴隷を購入するのは。お安くしときますよ」


 男は女性に商談を持ち掛けます。

 まるで、商人の鏡。どんなビジネスチャンスも逃さないとばかりに、素晴らしい。


「まぁ。商売上手な方。でも、残念ですわね。出航一回で見つかってしまうなんて。もっとほかの国とか見たかったでしょうに……」


 女性は微笑みながら男に言いました。


「いいえ。それは付いてるんですよ! それに、ここがなくなったら、またほかのところを探しにいかなくてはならないんですし。僕はなんて運がいいんだろう。これも神のお導きのお陰です。先程も神に感謝の言葉を捧げたばかりですよ」

「あら。酷い神もいるものね……」


 女性は心底気の毒そうな顔をしました。


「え?」


 何故、そう思うのですか?

 そう、問い掛けようとした時です。

 男が言葉を発する前に、男の首が体から切り離されてしまいました。


「この種族は人食い、カニバリズムの精神の人々なんですのよ。よそ者は食べられてしまいますから、気をつけないと、……あら。どうやら、もう聞こえないみたいですわね」


 女はそう言いながら男の首を掴み上げると、男をここへ案内した女の子に投げてあげました。女の子はまた笑顔をみせ、女に一礼しました。


「もっと違う国を周ってから、この国にきた方が幸せだったのに……。本当に、酷い神もいるものね……」


 男を食べた人、人を物と扱い奴隷にさせようとした男。さて、本当に酷いのは?




おわり

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