それでも俺はデカ乳に屈しない。

@hathinokiAlice

第1話



春、それは出会いの季節。今日からこの俺、平板望(ひらいた のぞむ)は日本屈指の名門校「父森学園(ちちもりがくえん)」に入学する。この学園を選んだ理由はただ一つ、理想の美少女と運命の出逢いを果たす為だ。この学園には毎年、全国各地から美少女が集結する。理由はよくわからないが(噂では裏口入学なんて話もある)、とにかくレベルの高い女子達に囲まれて学園生活を謳歌することの出来る最高の環境なのだ。勿論その話は有名で、倍率500倍を超える難関入試を乗り越えなければ「楽園」にたどり着くことはできない。必死に勉強に打ち込んだ末、なんとか俺は合格することができたのだった。全ては理想の少女と出逢う為、夢を追う若人は誰にも止められやしない。

……とまあ、こんな感じで今日を迎えたわけだが、ワクワクし過ぎて四徹もしてしまった。眠ろうと思っても妄想が邪魔をするのでしょうがない。ちなみに妄想の中で9月までシミュレーションした。彼女もできた!

天気も心も晴れやかなのに、体調はドス黒い曇りのまま新鮮な通学路を歩く。三歩毎に強烈な吐き気が襲う。クソ……こんなところでくたばってたまるか。

???「あー!望おはよー!」

望「そ、その声は……」

たんぽぽ「はーい!今日も元気なたんぽぽでーす」

こいつは俺の幼馴染の冨士原たんぽぽ。見ての通り明るい性格だ。見慣れた黒髪が、朝日に照らされてキラキラと光り、走ってきたせいか、たわわな双丘が不規則に揺れていた。

望「お、おはよオェェェエエエ」

たんぽぽ「わっ!?大丈夫?」

望「な、なんとか耐えた……大丈夫だ」

たんぽぽ「ガンは早期治療が大切なんだよ、病院行かなきゃ!」

いやガンじゃねーよ、とツッコむ気力も無く俺はその場にうずくまる。もう少しで汚物を放出(リリース)するところだった……

たんぽぽ「……本当に大丈夫?おばさんに連絡しようか」

望「心配、ない……これは……ただの体調不良だ……!」

たんぽぽ「それなら大丈夫かー!(バンバン)」

もっと心配してもいいよ?てか背中叩くなマジでヤバいから。

たんぽぽ「いやーそれにしても同じ学園に通えるなんてねー」

望「は、はは……そうだな」

たんぽぽ「もう望と何年一緒かわかんないや」

望「小学校から……一緒だもんなぁ……」

たんぽぽ「懐かしいなー小4の時男子のキンタマ蹴り過ぎて怒られたっけ」

望「お前そんなことしてたの!?」

たんぽぽ「先生が、キンタマには日本の未来が詰まっているから傷つけたらダメだって」

望「先生の言う通りだよ……てかそんな出来事知らなかったよ俺……」

たんぽぽ「3,4年は違うクラスだったし」

望「あー……そうだったな……」

いや、俺の知ってる思い出を語る流れじゃないんかい。やはりたんぽぽのペースに一度呑まれると、ツッコミ担当になってしまうな。

たんぽぽ「それにしても父森学園に寮があってよかったねー、通学楽だし」

望「寮費も安いしな……神に感謝だぬォォオエエエエエ」

たんぽぽ「わっ!また?」

望「ふ、心配……するな……まだ大丈夫」

たんぽぽ「んー、なら行こっか!」

……見栄を張って全く心配されないと、それはそれで悲しいよね。


たんぽぽ「そういえば、望は彼女が欲しいんだっけ?」

望「あぁ……理想の美少女を絶対に見つけてみせる」

たんぽぽ「理想かー、私の目の前にも現れないかなぁ伊藤カ◯ジみたいな人

望「それただのダメ人間だろ」

たんぽぽ「破滅に向かう様を間近で見たいんだよー」

望「えぇ……」

たんぽぽ「それで、望の理想ってどんなのだっけ?」

望「何千回も言ってるだろう?俺の理想は——」

望「 貧 乳 だ 」

たんぽぽ「変わってるなー」

望「変わってなんかいない!確かに貧乳好きはマイノリティかもしれないが、俺から言わせて貰えば世にごまんといる巨乳好きの殆どは思考を放棄しているんだよ。あいつらはただ"デカい"だけでよだれを垂らし目を輝かせているんだ、馬鹿馬鹿しい。IQ10も無いんじゃないか?一応言っておくが別に俺は巨乳が嫌いなわけでは無い。ただ、巨乳よりも貧乳の方が遥かに魅力的なのだ。慎ましい胸には夢と浪漫が詰まっている。まず貧乳というのはだな」

たんぽぽ「あ、着いたよー学校」

望「ちっ、これからだったのに……」

正面を向くと、中学の何倍かも見当がつかない程の校舎がそびえ立っていた。とある大富豪が山を切り崩して敷地を開発したという話は聞いていたが、それにしてもデカい。説明会や入試の時にも足を踏み入れてはいるけど、未だに慣れないな。

望「ふ……いよいよ始まるな、俺の青春が……」

たんぽぽ「頑張れー!私も応援してるよ」

望「ありがとな……」

ちなみに、俺がたんぽぽに恋愛感情を抱くことはこれからもないだろう。だって幼馴染だし。こいつGカップだし。巨乳だし。俺が貧乳好きになったのは、小学5年生のとある出来事が原因なのだが、既にその頃からこいつの胸はデカかった。裏では「三小(母校です)のホルスタイン」とまで言われていた事をおそらく本人は知らないだろう。

望「たしかお前と同じクラスだったよな?」

たんぽぽ「うん!2組だよー」

幸先良いスタートだ。もしクラスに運命の少女がいたら、たんぽぽに情報収集を任せることができる。ククッ、悪いが有効活用させてもらうぜ……ッ!

ひまわり「あ!生徒会の先輩だー」

おっといけない。下心は抑えていかなきゃな……と改め、俺はたんぽぽの指差す方向に視線をやると———



胸。


巨乳。


爆乳。


想像を絶する、爆乳。


それは乳と言うには あまりにも大きすぎた。


大きく 分厚く 重く そして大雑把すぎた。


それは 正に 肉塊だった。


そこには、人のカタチをしたバケモノが立っていた。


生徒会長「あら、新入生の子?」


望「うあぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッッッ!?!?!?!?!?!?」


たんぽぽ「望!?」



そこから、俺の入学式の記憶はない。








医師「睡眠不足ですね」

望「はぁ」

医師「念のため、数日は安静にね」

望「はぁ」


結局、俺は病院に搬送された。学園で入学式が行われていた中、俺は深い深い眠りについていたらしい。60時間も眠っていたのは人生最長記録かもしれないな。土日を挟むから、俺が登校できるのは最速で月曜日からだ。入学式は水曜日だったから、5日以上も取り残されて……学園生活最悪のスタートを決めてしまった。四徹なんてしなければッ!クソッ!


たんぽぽ「お見舞いきたよー!」


そんな中、俺の幼馴染が病室にやってきた。

この前とは打って変わって、可愛らしい私服を着て、果物かごを持っている。なんと優しい…… ベッドの横にある椅子に座りリンゴの皮を剥き始めたたんぽぽに、俺は傷心を吐露した。


望「たんぽぽ……どうしよう俺、盛大に躓いちまったよ……入学式欠席なんて人生最大の誤ちだよ……」


たんぽぽ「まあまあ、死ぬ事以外致命傷って言うじゃんー」


望「人間そんなに弱くねえよ」



しかしたんぽぽの言ってる事もあながち間違いではない。まだここから立て直すことは可能だ!


望「なぁたんぽぽ、クラスの雰囲気はどんな感じだった?」


たんぽぽ「んー?(もぐもぐ)」


早速クラスの情報収集に勤しむ。このためにたんぽぽというスパイを送り込んでいたのさ…… てかリンゴはお前が食うのかよ。


たんぽぽ「そうだなー、凄く真面目そうな人がいたよ、あと不良っぽい人」


望「断片的過ぎて分からん……もっと具体的に教えてくれ」


たんぽぽ「具体的かー……そういえば仲良くなった子がいるよ!」


望「お、どんな子なんだ?」


たんぽぽ「白(しろ)ちゃんって子!ちっちゃくてとても可愛いんだよー(もぐもぐ)」


望「ちょってまてちっちゃいだと!?!?!?どこがちっちゃいんだ!?!?なぁ!?!?」


たんぽぽ「身長だよー、小学生みたいd」


望「胸は!?胸はどうなんだ!?!?」


たんぽぽ「普通くらいかなー(もぐもぐ)」


望「普通……か」


ふむ、なかなか気になるぞその少女。しかし楽しみのためにも、これ以上聞くのはよそう。こいつの普通は当てにならないからな。直に確かめなくては。


望「それで、他には?」


たんぽぽ「えーとね、セラちゃんって子がいてー」


望「その子は貧乳か!?」


ナースさん「あのーすいません、今日の面会時間は終わりです」


たんぽぽ「あ!ごめんなさい、じゃあまたねー望」


望「え!?そこで終わり!?」


たんぽぽ「バイバーイ」


望「おい……」


咄嗟に立ち上がろうとしたが、まだ疲れが残っていたのかよろめいてしまう。実はもう一つ聞いておきたい事があったのだが。というのも、倒れる直前の記憶がかなり曖昧で、一緒にいたたんぽぽなら何か知ってるかもしれないと思って……まあ、いい。また今度聞くことにしよう。とりあえず今は、スマホも寮に置き忘れたから何もできない。回復することに専念しよう、明日退院して明後日に登校することが目標だ。

たんぽぽの置いていった果物かごからは「ガンバレニッポン!」と書いてある紙が見つかった。あいつなりのエールなんだろう、ありがたく受け取っておこう。ところで、かごの中にあった果物はどこ……?



無事日曜に退院することができた俺は、その夜しっっっかりと睡眠をとり夢と希望の月曜日に備えた。


とりあえずたんぽぽの言っていた白という少女が気になるな、あと最後に口走ったセラという子も…… 一体どんな少女なんだろう、貧乳だったらいいな。ダメだ妄想が止まらない早く教室に行きたいッ!まだ朝6時だが、寮から飛び出した俺はそのまま学園に直行した。案の定校門が閉まっていたので、開門する7時までコンビニで朝飯を買ったりなどした。開門しにきた警備員も驚く速さで俺は自分の教室へ向かう。一番乗りで教室にやってきた俺は、ほかに誰一人いない教室を教壇から見渡して叫んだ。


望「待ってろ貧乳美少女ーーー!!!!!」


それからしばらくして、まばらに人が増え始めた。そして俺は思い知らされる事になる、この世の地獄を。





バイ〜ン!ボヨ〜ン!プルンプルンッ!


視界に映るは、揺れる乳。見渡す限り、乳、乳、乳。馬鹿な……ここは父森学園1年2組の教室だ。北海道のミルクファームじゃねぇんだぞ?そりゃ中学に比べたら女子の身体は更に発育していくとは思うが、ここまで巨大になるのか?俺の目視(スカウター)で測ったところ、今のところ一番小さいサイズがEカップだ。異常すぎる……


望「何なんだよこれは……」


たんぽぽ「おはよー!」


望「たんぽぽ!これは一体どういう事なんだ!」


たんぽぽ「これ?」


望「胸のサイズだよ!このクラスはどうかしてる!!」


たんぽぽ「そんな事ないと思うけどなー?」


くっ、こいつは元からデカい上に天然だからこの異常性を理解できてない。だれか話の通じるやつは……


??「あ!君が平板くん?」


望「ん?」


その容姿を見て、すぐにピンと来た。同い年とは思えないほどの背丈に幼さの残る声と顔、薄ピンクの髪は二つに別れてツインテールを形成している。たんぽぽの言っていた少女はこの子に違いない。しかし……


望「なぜ巨乳なんだぁぁぁあああああああああああああああああああああッッッッッッ!!!!!!!!!!!」


白「へっ!?!?」


望「たんぽぽ!!!普通って何だよ!!!」


たんぽぽ「いきなり哲学的だなー」


望「どうみても!普通じゃない!だろ!」


たんぽぽ「?」


白「あ……あの」


はっ……!いかんいかん、流石に声に出すのはマズかった……


望「いや、違うんです。なぜ虚数なんだー!と言ったんです。計算結果が間違ってるみたいでね、はは」


白「えーと……?あ、私は茜ヶ淵白(あかねがふち しろ)って言います!よろしくね平板くん!」


望「あははーよろしく」


たんぽぽ「二人とも仲良くねー」



その後二人にはトイレに行くと伝え、教室を離れる事にした。まさかとは思い、他のクラスを覗く。……そうか、そうなのか。疑惑は確信へ、怒りは悲しみへ変わる。



「この学園には、巨乳しかいない。」


そんなバカげた話があってたまるか……ッ!













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