能力隠してても強いですけど何か?

福田点字

第1話 接触

 小さな時から感じていた通常と現状の齟齬。


 幼少の僕も幼心に理解していた、僕が他と違う事を。


 厨二病にも聞こえるだろうけど、実際僕は他と違う。


 例えば、そうだな、、、


 僕は生まれながらに言語を介していた。


 いや、正確には初めに聞いた雑音のような周囲の声を意味のある言語として解していた。


 こう聞くと生前の記憶でも持ち越したように聞こえるだろうけど特にそうゆう事は無かった。


 唯の基礎スペックとして、僕には言語を瞬時に読み解くだけの思考能力が備わっていた。


 他にも、例えば算数だ。


 僕は習うよりずっと前から算数の概念、もっと言えば最初に映った無機質な天井のボヤけた景色ひとつや初めて見た植物の有りよう、、、


 そんな情報から高校2年程度の数学を一歳になる少し前には把握していた。


 と言うより完全に理解していた。


 そんな僕なのだから普通はメディアで『天才少年あらわる!』みたいな見出し付きの紹介を受けていそうな物だが、、、


 僕がそんな連中に絡まれる事は今まで一度もない。


 何でかって?


 言っただろう?


 僕は理解していたんだよ、僕が優秀すぎることくらい。


 目立っても良いことなんか無いってね。


 だからひた隠した。


 本当はとうに喋れても態々気を利かせて一歳五ヶ月位の少し遅いくらいで喋ってみせた。


 そんな僕の逸話は幾ら語っても語り足りない。


 そんな僕を持って到底理解し得ない現実。


 そんな非現実が、都合の良いことに向こうから出向いてくれた。


 ソレは高1に上がって初めての登校日、僕が入ったのは県下じゃソコソコ上に食い込むようなレベルの高校。


 目立たない程度に良い成績を収めて目立たないよう細心に注意した特に目立たない何処にでもあるような4人グループ。


 そんな僕だが容姿も無駄に整ってるもんだから変なのばかりに好かれて少し悪目立ちし始めていた中学から出て初の高校、入学式の日。


 別に高鳴らない胸に少し溜息をつきながら満員の電車に乗っていた僕の目が、見ようともしていないのに見てしまう。


 中年くらいのおじさんが僕と差して変わらないくらいの女の子の後ろに立っていた。


 それだけなら別に日常風景。


 でもおじさんは女の子のスカートを撫でている。


 ようは痴漢だ。


 胸糞悪い、とかは別に思わない。


 人には其々に千差万別の考え方があるし歩んだ歴史がある。


 でも僕は少し高鳴った胸を撫で下ろして態と音を出しポケットから出したスマホのカメラでシャッターを切った。


 一泊遅れてビクッとしたように僕を振り向いたおじさんに僕は少しニコッと笑った。


 そしておじさんの所に人混みをわけて近づく。


 細い体が幸いしてスイスイと進める。


 そしておじさんの後ろに立つと、振り向いていた目を真っ直ぐに見据えて言った。



「売ってやろうか?」



 僕がさっき撮った写真を見せ言うとおじさんは顔を青くして「ああ、買う、買うから、許して、くれぇ、、、」と言った。


 そして僕はおじさんにスマホを借りメアドを確認した。



「ソレじゃ、また連絡するね」



 僕はそう言うとおじさんの肩を軽く叩いて人混みを割って離れようとした、その時だ。


 急に人が信じられない位重くなった。


 割って入ろうにも全く動かない。


 ソレどころか少し前まで耳を揺らしていた電車の音と周囲の喋り声も消える。



「止まっ、てる?」



 そんな言葉が溢れた僕は、数秒遅れて肩に鞄とは別の感触を感じた。


 ずっと有ったのに気付かなかったような気がする。


 振り向くと居たのはさっき痴漢されていた女の子。



「ありがとね?」


「いや、え、、、?」



 別に可愛くも無い地味なだけの女、そんな子には似合わない声優みたいな声に面食らいながら色んなことで頭がぐちゃぐちゃになる。


 纏まらない思考で何か返そうと言い淀んだ僕の耳に、聞こえなかったはずの音が流れ込んだ。


 電車の音に人の音、目の前にはすでに女なんていなかった。


 まるで時間が止まっていたような気さえした。


 そんな僕の耳に『次は〇〇駅〜』とゆう目的地の駅名が聞こえる。

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