第8話 〜"学校のカイダン"編⑤〜

 「ぜんっぜんダメだ」と三芳のため息。

 「まだ分かんないよ。好きになったら冷たくなるタイプかも」陣台じんだいが三芳を励ました。

 「そうだよ」と松下まつしたも陣台に同調した。

 「まだクラスの3分の1しかオトせてないんだぞ。ここで行き詰まってどうする」三芳が苛ついた声を出した。

 「だから、行き詰まってないかもしれないだろって」三芳につられて陣台もイライラし始めた。

 「それに、まだ6月だし。大丈夫だよ」と怯えた声の丹波たんば

 「戻るぞ」

 三芳の声がした後、足音が少しして音は切れた。谷川が録音器を回収したのだ。


 「おとす…?何の話してるんだこいつら」吉野は付けていたイヤホンを外し、床に寝転がった。

 「先輩、ご飯どうぞ」毎日この家のご飯を作っているのは夏だ。夏はおぼんにのせた料理を、吉野のいるリビングに運びながら、「会議しながら食べましょう」と言った。

 「わぁ、うまそー。俺は料理できないから結婚するなら料理上手な人だなー」

 「え、先輩、それって渡しにプロポーズしてます?」夏が嬉しそうな顔をする。

 「いや、そういう訳じゃないけど。いただきます」手を合わせてそういうと、吉野は夏の手作りのハンバーグを食べ始めた。

 夏は、今度は残念そうな顔をして手を合わせ、食べ始めた。「いただきます」

 「そういえば今日、三芳と話してたな」

 「昨日三芳君が傘を忘れて、私の傘に一緒に入れて欲しいって頼まれたんです。だからここまで2人で来て、傘を貸して三芳君は帰りました。その話をしてたんです」

 「その後あいつらトイレに行ったろ?会話を録音して、さっき聞いてたんだけどさ。女子をおとすって、どういうことだと思う?」

 「私の、3年間に渡る中学三年生の記録からは、それは好きにさせるということだと思います」  

 「確かに!そう言われればそうだな」

 「私、先輩のそういうところ好きです」

 「どうして三芳は、女子をオトそうとしてるんだろう。まだ3分の1しかオトせてないって言ってたな…」

 「明日、聞いてみます」

 「よろしく。終わったらすぐ本部に行くからな。先に行っててくれ」

 「分かりました」


 次の日。夏は本部に来た。受付に行くと、橋本が「この書類、ボスに届けてもらえるかな?」とファイルを渡してきたので、エレベーターに乗って最下階へ向かった。


 「ボス、お願いします!」重時は手を合わせ、神田に向かって頭を下げる。

 「まだダメ!」神田が言う。

 「そこをなんとか!どうか、どうか俺を会員にして下さい!!」重時は土下座までしだした。

 「いや、そこまでする?顔上げてよ、重時君」

 会員とは、会社の中でも特に信用された社員だけがなれる、機密情報を扱う者たちのことだ。新入社員は、会員になることが憧れなのである。

 夏はエレベーターから2人のいる部屋までの道のりを、2人の大きな声を聞きながら歩いていき、頃合いを見計らって神田にファイルを手渡した。

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