二人の弟子
朝、浜辺に来て修練を始めて、かれこれ三時間は経つだろうか。だいぶ日が高くなってきた。私の弟子の二人は、剣を交え、お互いの動きについて話している。私も時折、助言をしつつ修練を進めている。傭兵部隊の隊員全体の訓練では、弟子のみに個人的な助言は、立場上することができない。そう言うこともあって、我々は必要があれば休暇を合わせて、集中的に修練をやっている。
私の二名の弟子は、それぞれ違う理由ではあるが共和国崩壊後に傭兵部隊に加入した。
一人は、オットー・クラクス。
長身で金髪の碧眼の男性で二十四歳になる。ズーデハーフェンシュタットの北にある都市モルデンの出身だ。モルデンは“ブラウロット戦争”で戦場となり街は焼野原となった。戦後、復興作業が続いているようだが以前のような規模にまでは再興されないままになっているという。オットー自身は帝国軍が侵攻してきた時、義勇兵として参戦していたそうだ。彼の家族は戦いの前にズーデハーフェンシュタットへ脱出。彼自身も帝国軍との激しい戦いの後、命からがら脱出し、ズーデハーフェンシュタットまで逃げ延びた。その後、共和国が無条件降伏した後、オットーは傭兵部隊に志願。そこで私と知り合うことになった。彼は、私が“深蒼の騎士”だということで、その騎士道を学びたいということで弟子入りした。モルデンでの戦闘で思うような戦いができなかったことが心残りで、剣技を極めたいという。そして、いつか“深蒼の騎士”のようになりたいという。
もう一人の弟子は、ソフィア・タウゼントシュタイン。
赤毛の長髪で青い目が美しく、女性にしては背が高め。彼女は、まだ二十歳になったばかりだ。ここズーデハーフェンシュタットの出身。彼女自身は“ロットブラウ戦争”時は、カレッジで学ぶ学生だったため戦争には参加していなかった。彼女の叔父が“深蒼の騎士”だったそうだ。叔父は“ブラウロット戦争”の際、国境防衛隊に所属していたそうだが、開戦まもなくに戦火に紛れて行方不明となったと聞く。戦後、彼女も叔父のような“深蒼の騎士”になりたいと思い、カレッジを中退し、“深蒼の騎士”の数少ない生き残りである私を探し当てて、弟子となったわけだ。
二人は性格も剣の扱いも対照的だが、自らの持ち前を上手く活かすように指導している。
オットーの剣さばきは大胆で、力強くかつ巧みだ。その長身から振り下ろされる刃に、まともに切られれば致命傷になろう。恐れをあまり感じることがないのか、相手の懐に飛び込んで積極的に戦うスタイルだ。
一方、ソフィアは持ち前の反射神経で、相手の動きをかわし、自分へのダメージを最小限にする。その軽やかな動きは女性の腕力の弱さをカバーしている。素早い動きで、相手に少しずつダメージを与え、最後には確実に倒す。さらに、彼女のルームメイトの魔術師から伝授されている珍しい魔術も戦いに利するものであろう。
そして、二人も私同様に共和国を現在の帝国の占領から解放し、共和国の再興を夢見ているようだ。弟子の二人の思いはそれぞれだが、“深蒼の騎士”の慈悲、博愛を謳う、その精神性を伝承していこうとしている。
私は十三歳の頃から、二十年の長きにわたり剣術の修練を続けてきた。私自身にもかつては師であるセバスティアン・ウォルターがいたが、私が“深蒼の騎士”に就任した時に彼は“もう、教えることはない”と言い、しばらくして、彼は軍を退官した。その後は、私は彼とは会うことも無くなった。風の噂によると彼はどこかに旅に出たようで、その後の行方は分かっていない。
私自身の戦い方のことを言うと、武器は少し短めの剣と投げナイフを所持している。ナイフは常に三本持ち歩き、実戦の際は敵に投げつける。投げナイフを持つ騎士は少ないので、意表を付いた攻撃が可能だ。多くの敵が不意討ちに合うことになる。しかもナイフには猛毒が塗ってあり、刺されば体が麻痺し、早く処置をしないと手遅れになる。しかし、私自身も実戦を模した訓練は数え切れないほどこなしてきたが、実戦の経験は少ない。“ブラウロット戦争”でも自分が所属する首都防衛隊が戦闘になる前に共和国が降伏したため戦闘には参加しなかった。
“深蒼の騎士”の、剣術や魔術などの伝授は、子弟制度で行われる。大抵、師に二~三人の弟子が付き、その教えを伝授する。我々、“深蒼の騎士”達は、伝統的に何十年もこの方法でやって来た。現在は、教えることができる“深蒼の騎士”は、皆、戦死したか、収容所に幽閉されてしまっているため、私のみとなってしまっている。“深蒼の騎士”は、風前の灯火と言ってもよいかもしれない。
私は、二人の修練を見つつ、自分の師の下で修練を積んでいた若い頃のことを思い出していた。
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