メルヘン占星術師と時間結晶
@ikurumi_kurumi
プロローグ
占星術
占いブームが再燃しつつある現代。占いには様々な種類と方法があり突き詰めていくと何やら胡散臭いものばかり想像するかもしれない。
それぞれのカードに意味があり、絵柄がそれを表し占い結果を読み取るタロット占い。ルーン文字が刻まれた石と何も刻まれていない石が加えられた25種類の石を袋の中へ入れ、占いたい内容を思い浮かべてルーンストーンを1つ掴み、そのルーンが示す意味を区別して占うルーン占い。
私たちに馴染みがある手相占いなど挙げた占いは西洋占術と言われるものだ。これ以外にも姓名判断、風水が東洋占術にあたる。
この世に占う方法は、ごまんとある。
「難しくてよくわかんね~」
本を広げ、その間に顔を埋めている男子高校生がいた。
占いブームに乗っかり占星術を齧りはじめた。そんなミーハー(死語)男子高校生こと、空沢詠悠(ソラザワエイユウ)は占星術の文献を読み漁っていたが横文字の羅列を見て途方に暮れていた。
これはエイユウが住んでいる地方にある図書館1F・図書室内のできごと。
エイユウはテレビなどスマートフォン向け占いなど散々にやってきたが、どれもハッピーな気分になれる内容で納得していなかった。そんな人生楽に生きられたら、どれだけ幸せなものか。
未だ20歳にもならない男子高校生が人生悟ったような事を言うものだから、同級生に「英雄オジサン」なんて言われ馬鹿にされる。とても納得いかなかった。
そんな俺にも若者らしいとこもあった、流行には敏感なこと。しかし、その流行に乗ってみた結果は占星術の気難しい本を読むハメになってしまった。人と全く違うものに手を出す俺カッケーみたいな?遅れた中二病を患いながら。
難しくないと言えば、山積みの本の中段にあった『占星術の基本を学ぼう!』という小学生向きのデフォルメキャラクターが沢山出て来て解説するような本のみ。全ては基本からと腹を括って読んでみるも絵本を読んでいる感覚に陥り、若気の至りなのか拒否反応が徐々に出てくる。
ペラペラと飛ばし飛ばしに読んでいき、最終の見開きには星の配置を表した天体図・ホロスコープが印刷された紙が挟まれていた。恐らく子供たちが喜びそうな特典として付属してきたのだろう。
エイユウは紙を片手にホロスコープの見方というページを読み始める。
「ホロスコープを読む上で押さえるポイント1番目・天体。天体とは太陽、水星、金星、月、火星、木星、土星、天王星、海王星、冥王星の10個・・・みんなこの地球に生まれたとき等しく10の天体を与えられた。そんな風に考えたらキミもホロスコープマスターに近づく!」
デフォルメキャラクターが指し本の内容を分かりやすく説明している描写がある。
「占星術では10個の天体たちが主役!あなたたちの人生という舞台でキラキラと輝こうとしているんだ!」
エイユウは小声で音読しながら読み進める。
「ポイント2番目・サイン。簡単に言えば星座と呼ばれているよ!星座は天体という主役がどんな風に演じていくのか?どんな冒険をしていくか?ということを表していくんだ!星座は12個あるよ!これでキミもホロスコープマスターに近づいた!」
星座は私たちに馴染みもある、生まれた月日によって自分に当てはめられる星座のこと。
このホロスコープ、例えば。太陽が牡牛座にあるとき、挑戦的で独立心旺盛、開拓者精神を持ち、新しい環境や場所で前へ進んで行く勇気を持っている。という一例がある。
「ポイント3番目・ハウス。ホロスコープを見ていくと中心に1から12まで数字が書いてあるのわかりますか?これがハウスです。10の天体が役者、12のサインが役どころだとしたら、ハウスは役者が活躍する舞台背景です!これが分かれば、もうキミはホロスコープマスター!・・・はぁ」
最後まで読み終えるとため息が出た。
例えば先ほどの太陽と牡牛座の一例で9のハウスにいるとしたら、海外・研究や教育機関・精神の高い場所など大まかな場所を指してくれる。適当に覚えて帰ってね☆
そんな漫画じみたホロスコープ説明書を読んだエイユウは膝上に『占星術の基本を学ぼう!』を置いてから深く腰掛け、背もたれに頭を乗せてホロスコープが描かれている紙を蛍光灯に向け透かして見ている。
「全然わかんね~」
蛍光灯に透かすと紙には細工がしてあり、それぞれの星座が光り始める。子供にも喜ばれるような仕様になっていた。
何だか可愛く見えたエイユウは微笑み紙を眺めていると急にピンッ!と効果音と共にルーレットの針が現れ高速で回り始める。
「は?なに?」
ホロスコープの機能ではこんなこと書いてなかったはず、再び本を開いても特典にルーレット機能が付いているなんて書いていない。
止まらない針。ハウスには小さく文字が書いてある。
1のハウス「あなたの中心。たましいそのもの♡」
意味わかんない。
2のハウス「あなたの身体や五感」
足を組み寝転ぶアルパカがいる絵。
3のハウス「兄弟やともだち」
並ぶ少年たちの絵。
4のハウス「家族や心やすらぐ場所」
家の絵がある。
5のハウス「身近なあそび場」
遊具が描いてある。
6のハウス「仕事場や奉仕の場」
ぜんぜんわかんない。
7のハウス「パーティなど社交の場」
今は乗る気じゃない。
8のハウス「ごく親しい人との閉じられた場」
パネルには開けちゃダメとふざけたイラストがある。
9のハウス「海外・大学などの教育機関・宗教的な場」
卍や神社マークや教会マークが可愛くイラストされている。
10のハウス「社会的な頂点」
王冠マークが描かれている。
11のハウス「平和と友好的な仲間の場」
四葉のクローバーを咥える鳩のイラストがある。
12のハウス「見えない世界・・・」
??????のイラストがある。それイラストにする必要があったのか。
それよりも12だけ異様にアヤシイのですが。回り続けるルーレット。止まらぬ針に息を飲む、自分の時間だけが止まったかのような図書室にルーレット音だけ鳴る。
10のハウス「社会的な頂点」に止まれば俺はインフルエンサー的な社長にでもなるルートが始まるのか!?と期待しながらルーレットを見つめる。
テンッ!と音を発すると針の回る速度が落ちる。9・・・10・・・11・・・と針は回っていく。この調子でいけば12は恐らく回避でき、10に止まる確率は高いのかもしれない。
「10に行け!10に行け!」
王道ルートをいけば急に「あなたは今日から社長です」と言われる展開を夢見て期待を膨らませる。
テンッ!テンッ!とルーレットはゆっくりと回る、針は未だ止まらない。
「じゅーう!じゅーう!」
ルーレットコールが馬鹿の掛け声になってきた所で更に速度が落ちる。
テンッ、8。テンッ、9。
「お?来るか?」
テンッ、10を指した。
「止まれ止まれ!!」
ピタッと針が止まっている。
「おっしゃーー!!」
ホロスコープ紙を片手に立ち上がり大盛り上がり、静寂な図書室には1人だけ歓声を上げる男子高校生の姿がそこにあった。
テンッテンッ!しかし、更に音が続いて止む。
「は?」
紙を見ると「見えない世界・・・」に針は移動していた。
「そっちのテンプレ展開かよ!!!!」
ホロスコープ紙を地面に勢いよく叩きつけると紙から眩しいくらい光り輝き、エイユウを包んだ。
「なんだっ!?」
思わず手で目を覆った。
先ほどまでは息苦しい図書室にいたはずだが、爽やかな風が吹き付ける。最近では吸えなくなった新鮮な空気というべきか、それに当たる空気が鼻を通る。
周囲を囲む森が、俺を見下ろしている。木々の隙間から差し込む日差しが顔を照らし眩しい。
なぜ急に森に立っているのか。
気難しい本を読んで頭がおかしくなったのか、ルーレットで頭がおかしくなったのか、図書館で大声を上げたから頭がおかしくなったのかの3択。
間違えた。
改めまして。気難しい本を読んで頭がおかしくなったのか、どのタイミングかで寝落ちした説、本当に見えない世界に飛ばされたのか・・・の3択。
動き回ろうとした瞬間足元に何かが落ちており蹴ってしまった感覚がある。
「『占星術の基本を学ぼう!』か、役立ちそうにも・・・ある?とりあえず持っていくか」
占星術の本を片手に森を歩く、ポケットにはスマートフォンが入っている、こういうときのお約束の圏外。通信手段がなければマップも見られない。いったいどこに居るのかさえ分からない。の3点でハッピーセット。
まさかこんな森に獰猛な動物が出てくるなんてあり得ないよな、と杞憂であって欲しいと思いながら歩く。自然の森で手入れなんてある筈もなく、生い茂った草木を分けて進んで行く。草を分けるとササッと音をあげる、肌に草が擦れると痒い。
突如、ドンッ!と重低音を響かせ近くから木が倒れていく音がする。
「ひえっ!」
思わず情けない声を出してしまった。
獰猛な動物が出てきませんように、とは思ったがスケール違いの迫力がある。こんなの望んでいません。
「なんだー?誰かいるのかー?」
恐らくご年配と思われる声が森を少し進んだ先から聞こえる。エイユウは声がする方へ進んで行く。バサッ、バサッと進んでいく度に木こる音が聞こえる。
進んで行ったさきには木々が倒れ、幹に斧を入れ始めたばかりの木もある。それよりも。
そこには獰猛な動物が居ました。
二足歩行で木こりをしている森のクマさんが。
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